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牢舎を出てそのまま陛下の執務室へ向かった。

「来たか」

『はい ビョルケイ嬢と話をしてきました』

「成果はあったか?まずは座れ」


執務の途中だった陛下は席を立ち長椅子へと移動した。その向かいに腰を下ろす。

面会の様子を報告した。


「そうか それでお前はどうしたいのだ?」

『はい 学園は卒業させてやりたいと思います』


「それはつまりは罪を問わぬ ということか?」

『はい 望んで口にしたとは言えビョルケイ嬢もあの薬物で充分苦しんだでしょうから

 そして学園を混乱に陥れたことは事実ですが それでしたら私も同様の罪を負わなければなりません』



少しの間陛下は腕を組み、考え込むように下を向いていた。

「牢から出してやったところで あの娘に行く充てなどあるのか?住むところすらままならぬであろう」

そのことも考えた。学園の寮に入る費用をビョルケイ嬢に用意することは難しい。


王宮(ここ)に置こうと考えています ビョルケイ嬢はまだ一年生です 残り二年の学費も用意する必要があります 彼女にそれを用意することは出来ないでしょう 王宮に住まわせ仕事も与えます』



「わかった 元々お前の案件だ 思うようにやってよい」

陛下が手放しにお認め下さるとは思っていなかった。


『ありがとうございます』

「なんだ?私が反対すると思っていたようだな」

陛下が口角だけを上げて笑う。

『そうですね・・・即お認め頂けるとは思っていませんでした』


「今から反対しても良いのだぞ 私が認めなかったらどうするつもりだったのだ?」

試されている。陛下の瞳にはそれがはっきりと見える。

しまったな、失敗した。


「未熟だな 自分が是と思ったのなら貫け」

『はい』

返す言葉もない。


「よい あの娘は元々放免のつもりだった 但し置くのはここにしておけ お前の宮には近づけさせるな あと当面は監視をつけろ それも含めて今後もお前が責任を持つように」

『承知致しました』



「話はこれで終わりだ 飯はこれからだな?」

『はい』

「行くか イレネも来る お前の顔を忘れそうだと悲しんでいたぞ」

『ご一緒させて頂きます』

お二人との夕食も久しぶりだ。クリスマス以来、だな。



「レオに忘れられたのかと思っていたわ 私のことを憶えていて?」

『申し訳ございません殿下 今しがた全て陛下へご報告し終えたところです』

「そう 頑張ったのね偉いわ」


なんだろう、母上は時々私のことをようやく歩き始めた子供のように扱う気がする。

「これからはもっと頻繁に顔を出してちょうだいね」

『はい そう致します』


皿が運ばれてくる度に量が少ないと指摘され続けた。こちらは本当の母上だ。諦めて聞くしかない。

「もっとたくさん食べなくてはダメよ そんなに少しではまた倒れてしまうわ」

母上よりは食べています。それに私は身体が弱いわけではありません。空腹で倒れたこともありません。


誰かと食事を共にする毎に同じことを言われ続け、うんざりしてきた。堪ったものではないな、勘弁してくれよ。



----------

食事を終えて自室に戻った。

『予定よりも遅くなってしまった 済まなかったな 報告を聞くよ』

「ありがとうございます 書類を持って参ります」


ロニーは数冊の古い資料を抱えて戻ってきた。

「最初にこちらをご覧ください」

それはダールイベック領南部の馬の取引記録だった。

「三十年前 ウルッポはここで馬車を手に入れていました」

ロニーが指した先には、馬一頭の購入記録がある。購入者はウルッポ=ビョルケイ。


続いてロニーが開いた箇所には、中古の馬車の購入記録があった。同じく購入者はウルッポ=ビョルケイだ。

「この馬車と馬の購入に翡翠が使われておりました」


『翡翠?』

「はい 貨幣の代わりに翡翠で取引をしたようでございます」

翡翠・・・何故翡翠を・・・・・



あ!

『ウルッポの私室にあった原石が翡翠だったか』

「はい 翡翠がウルッポの資金源でした 残りもご覧くださいませ」


ロニーが別の資料を差し出した。ダールイベック城下町の資料だ。

「城下町の宝石店を何度も訪れていました 全て翡翠を売却しております」

かなりの高額だ。翡翠にこれ程の価値があるとは知らなかった。

『凄い額だな これならば船も邸も納得できる』


「運のよい男ですね これが王都の宝石店でしたら一割にも満たない額で終わっていたでしょう」

『そうなのか?』

翡翠を見かける機会が少なく、私にはその価値がわからない。王都とダールイベック領でそれほどまで評価が変わるのか。


「ステファンマルクでは翡翠はそれほど珍重されておりません 国内で産出はされておりませんが 需要も高くない為評価が低いようでございます」

『そうなのか 知らなかった 確かに今まで見る機会は殆どなかった』


「しかし東の国では翡翠こそが最も価値の高い石として 大変人気だと聞いております この宝石店は東の国に伝手があったようでございます ウルッポから買い付けた翡翠をさらに値を上げて売却しておりました」

『成程 ウルッポの資金源については理解した ありがとうロニー よく探してくれた』

「お役に立てて何よりでございます ですが・・・」

ロニーが言葉を止めた。続きを私に言わせたいか。


『その翡翠をどこで入手していたか』

「はい」

『あの町に翡翠がある ということだな?川か?』

「はい 私も川だと思います ようやく全てが繋がりましたね ウルッポは毎日翡翠を集めに行っていたのでしょう」

何故ウルッポが翡翠の存在に気付いたのか、それも気になるが肝心のウルッポはもうここにはいない。ここまでたどり着けたことで満足しなければならないようだ。


『翡翠か・・・陛下に報告することがまた出てきたな』

「川を調べさせましょうか」

『いや・・・彼らには何度もあの町へ足を運ばせたからな ここから先は陛下に人を送って頂く どうせ今は川をさらうことなど無理だ 春以降になるだろう』

「ありがとうございます あのものたちに代わり感謝申し上げます」



『明日の朝は牢舎に寄ってから行く』

「はい 承知しております」

『その後のことも任せていいか?』

「はい お任せ下さいませ」

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