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「おはようございます レオ様」

一日遅れの新学期を迎えた朝、馬車を降りるとスイーリが待っていた。

『おはようスイーリ 今朝は早いね』


「はい 一番最初にレオ様にお会いしたくて早く出てきてしまいました」

冬日和の柔らかに射す朝日のようなスイーリの笑顔に、燻っていた靄が一気に晴れた気がした。

『休暇の間連絡が出来ず済まなかったね スイーリ明日は時間ある?』

「はい 大丈夫です」

『久しぶりにどこか寄ろうか 付き合ってもらえますか?ダールイベック嬢』

「ありがとうございます 喜んでご一緒させて頂きます王子殿下」

『こちらこそ お付き合い感謝します』


クスッと笑ったスイーリと並んで校舎に入り、二年生の教室を目指す。

昨日で事件は解決したはずだが、校舎には何人もの騎士の姿があった。


・・・陛下も私と同じ考えだと言うことなのか。


スイーリを送り自分の教室へと向かう。教室の中ではビルが一人、本を読んでいた。

『おはようビル』

「レオ様 おはようございます」

ビルと休暇中の話を交わす。冬場ボレーリン領へ戻ることの出来ないビルは、例年のようにソフィアの邸で過ごしていた。


「レオ ビルおはよう 今年の冬は晴れが続くなー今朝も寒かったな」

『おはようベンヤミン ああ今日もよく晴れたな』「おはようございますベンヤミン様」

次々とクラスメート達が登校してくる。皆新しい年の始まりに相応しい明るい顔をしていた。


そしてその日一日、誰一人ビョルケイ家の話をするものはいなかった。




「お帰りなさいませ レオ様」

『ただいま ロニー』

今日も一日護衛についていたゲイルとヨアヒムと共に馬車に乗り込む。


『ビョルケイ嬢に会う』

「かしこまりました」


『使用人の方はどうなった?』

一人留め置きになっていた使用人のことだ。

「まだ 進んでおりません」


『そうか 男爵達は送られたのか?あ・・・もう男爵ではなかったな』

「はい ウルッポと夫人はそれぞれ移送されました」

『そうか』

あの二人が次に会うことはない。マニプニエラの人生にとって男爵は、ウルッポはどのような存在だったんだろうな。



自室に戻り、着替えを済ませる。

『一時間後に行く』

面会に行く前に牧師の日記を開いた。これは十年前から九年前頃のものだ。毎日のように同じことが綴られている。時折ページをめくりながらそれをぼんやりと眺めていた。


「レオ様 ビョルケイ嬢への面会の後でご報告したいことがございます」

熱い紅茶を差し出したロニーが静かに言った。

『ありがとう

 今でなくていいのか?』

「はい 急ぎの用件ではございません」

『わかった』



『そろそろ時間か』

日記を閉じて立ち上がった。

扉を開けて出たところで、ゲイルとヨアヒムが近寄る。

「殿下 お供させて頂きます」

『わかった』


三人と共に牢舎を目指す。牢舎は本宮からは離れた位置にある。今が夏ならば、まだ太陽が燦々と降り注ぐ時間だが、冬のこの時間は深夜のようだ。しんと静まり返った真っ暗な空には無数の星が瞬いている。


重たい扉が開かれる。訓練場を越えて騎士の宿舎も越えた先にあるこの建物は、外から見ると小さな蔵にしか見えないだろう。私も中に入るのは初めてだ。

扉の内側にいた騎士が二つ目の扉を開く。そこは看守の休憩場も兼ねていた。

「殿下 今連れて参ります」

『私も行く』


看守を先頭に階段を降りる。降りた先にも分厚い扉があった。

薄暗い中を進む。そこは予想以上に広かった。思ったより寒くはない。しかし一日中この暗さでは時間の流れもわからず不安になりそうだ。


「ヴェンラ=ビョルケイ 王子殿下がいらっしゃった 出なさい」

看守が鍵を開けた。牢の奥でがさがさと物音がする。

ビョルケイ嬢が扉の前まで歩いてきた。看守の影になり表情まではわからない。看守がビョルケイ嬢の腰に縄を回した。

『それは不要だ』

逃げられるはずがない。それ以前に逃げるつもりなどないだろう。そんな相手に縄をかけたいとは思わなかった。


今歩いてきた通路を戻る。階段を上り扉の外に出ると照明が眩しかった。

休憩場に残っていた看守が部屋の奥の扉を開いて待っている。

「殿下 こちらの部屋をお使いくださいませ」

『わかった』


部屋の中にはロニー、ゲイルとヨアヒム、そして二名の看守が入った。ビョルケイ嬢も眩しさに目を細めながら閉められた扉の前に立っている。

『ビョルケイ嬢 こちらへ』

中央に置かれた椅子に座り、向かいの席を勧める。

入口の扉の前に二名の看守が、そして私の背後にゲイルとヨアヒムが立つ。


「はい」

小さく頷き椅子に座る。やつれたな、目の下にクマが浮かんでいる。

『食事は摂っているか?』

「はい」

看守をちらりと見る。二人は頷いた。


『初めに言う 私にはビョルケイ嬢をここから自由にしてやるだけの力はない』

「・・・はい 覚悟は・・・出来ています 罪を・・償います」

背中を丸めて俯いたまま、消え入りそうな声で呟いた。


『話はここからだ ビョルケイ嬢私と取引しないか』

本当はこのようなやり方は気が進まなかった。だがそれ以外に彼女の力になる方法がない。

「取引?ですか?」

相変わらず背は丸めたままだが、驚いた瞳にはほんの僅かに光が戻ったような気がした。


『ああ 私が聞くことに誠意をもって答えてほしい 真実を話せば後は私が陛下に掛け合う 絶対とは言い切れないが ここから出られるよう尽力しよう』

「なぜ・・・」

何故助けるのかと聞きたいのか?何故だろうな。数ヵ月前だったら助けようとは思わなかっただろう。力になると約束したから?それもある。


『ビョルケイ嬢 あなたは変わった 今は罪を犯した時のあなたとは違う あなたのその努力を無駄にしたくないと思った』

「ありがとうございます レ・・王子殿下」


『ではいくつか質問する その前にビョルケイ嬢 背筋を伸ばせ アルヴァリッグ夫人からもそう言われていただろう?』

はっとしたような顔をしたビョルケイ嬢が慌てて座り直す。しゃんとした姿は気高くも見えた。

「はい 背中を丸めてはいけない そう教えて頂きました」



『うん』

もうビョルケイ嬢がアルヴァリッグ夫人に会うことはないかもしれない。だが習ってきたことが消えてなくなるわけではない。全てがこれからのあなたの力になるはずだ。


『始めようか

 最初に聞きたいことがある ビョルケイ嬢は私にひとつ大きな嘘をついているね?』

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