表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
214/445

[214]

「ペットリィ=ビョルケイ ダールイベック領出身 十九歳 王立学園本校騎士科二年 間違いないか」

「間違いございません」

ペットリィの審議も、男爵や第二夫人と同じように始まった。ペットリィはしっかりとした声で受け答えしているが、その姿は俯き、身体が半分になってしまったのではないかと思うほど小さく見えた。


ペットリィへの審議は、タウンハウスのペットリィの部屋から見つかった毒物について一点のみだった。

ペットリィの部屋から私に使用した毒物が見つかったことを聞かされると、大きくショックを受けたようで、ふらつき立っていることさえ困難なようだった。控えていた騎士が彼の身体を支え、ようやく最後まで立ち続けることが出来たほどだ。

「ペットリィ=ビョルケイはタウンハウスには一度も立ち入っていないとあるが事実か?」


「いいえ 事実ではございません 私は昨年の五月に一度タウンハウスに行っております」

「その件は報告を受けている そこで第二夫人マニプニエラと娘ヴェンラに初対面した それは間違いないな」

「はい 間違いございません」

「その後タウンハウスに帰ったことは?」

「ございません」


・・・・・

ざわざわと囁き合う声が聞こえてきた。皆男爵を否定し、ペットリィに同情を寄せているようだ。


「ペットリィ=ビョルケイへの審議を終了する 当人は退廷せよ」

ペットリィが歩く後姿を見つめる。扉の前で立ち止まると振り返り、深く頭を下げてからゆっくりと出ていった。



「続いてヴェンラ=ビョルケイの審議に移る」


「ヴェンラ=ビョルケイ ダールイベック領出身 十五歳 王立学園本校 本科一年 間違いないか」

「はい 間違いございません」




----------

残る三名の使用人の審議も終わり、休憩が挟まれることになった。私は陛下に呼ばれ、陛下のいらっしゃるサロンへと向かう。そこには先程並んでいた全ての官僚も揃っていた。

私が中に入ると、入り口近くにいた官僚の一人が声をかけてきた。

「なんだ?急ぎの用件でなければ後にしたまえ」


「私が呼んだ レオこちらへ来なさい」

陛下のよく通る声がサロン中に響いた。皆の視線が一斉に向けられる。

「えっ?!あ!王子殿下!?大変失礼致し―」

慌てふためく先程の官僚の言葉を右手で制止する。

『構わない 今日はただの警備だ』


陛下の側に着くと、隣の席に座るよう命じられた。言われた席に座る。官僚達も皆席についた。

侍従とロニーが用意していた茶を配っていく。

全員に茶が行き渡ったところで陛下が口火を切った。

「使用人のうち執事と料理人は放免してよいだろう あれは何も知らん 雇われていた時期も短い」


タウンハウス三名の使用人のうち、陛下が今おっしゃった執事と料理人は王都に来てから雇われたもの達だ。執事とは名ばかりの、驚くほど主のことを知らない男だった。いつか白い馬車で学園内に乗り込んできたあの男だ。そして料理人はそれ以上にビョルケイ家について知らなかった。一切の興味がないと言っていいほどだ。


「本邸から連れて来たという男はどうだ?レオ あの男について調べたか?」

『はい 漁師町の生まれではありませんが長年ビョルケイ家に仕えています 確か十五歳の頃から仕えていたかと 今年で十五年目になります』

「長年に渡ってウルッポの悪事を見てきたというわけだな この男はまだ何か隠しているかもしれんな カトゥムスと接触したのもこの男かもしれぬ」



「息子と娘はどうだ?息子の方はかなり評判もいい男のようだが」

やはりここでもペットリィへの同情の声が多く上がった。先程の審議の場でも正直に受け答えしていた姿が好印象を与えたようだ。


「息子の方はよくわかった では娘の方はどうだ?学園からはいくつか報告も受けていたが」

ビョルケイ嬢の噂は貴族の間では広く知れ渡っていた。今度は皆が眉をひそめて厳しい顔をしている。

「王子殿下のお心を試す目的で禁止薬物を使用するなど 言語道断でございます」

「薬物の知識をどこで身に着けたのでしょうか 平民が知りえる内容ではないはずです」

「しかし心から悔いている様子も見られましたが」

この後も様々な意見が飛び交った。


「レオ お前はどう考えている」

陛下から意見を求められた。発言の機会を頂くとは思っておらず、咄嗟にどう答えるべきか決められず逡巡した。自分の中で二つの相反する考えが堂々巡りを繰り返していたからだ。

「責任者はお前だろう 遠慮なく話せ」



『はい

 九月からの三ヵ月間 この令嬢を見てきました

 今日見せた姿があの令嬢の本質だと私は信じたい 機会を与えたいと考えます』


場は静まり返った。顔を見合わせて、ほぼ全てのものが驚きや戸惑いの表情を浮かべている。

「よくわかった この中であの娘のことを一番よく知るものの意見だ」

叱責も覚悟の上だったが、陛下から咎められることはなかった。




「そろそろ出尽くしたな これ以上意見がなければ再開する」

審判の時間だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ