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日記を読む作業はひとまず今日で解散した。残りは十二年分、あと少しと言える量でもないが、不正の証拠を掴み毒物が発見された今、その優先度は落ちた。後は少しずつ読もう、決して楽しい読書ではないけれど。
残りの日記を自室へ運び、読み終えたものは箱に詰めた。全て読み終えたら教会に返そうと思う。
今夜はスコーグから渡された報告に目を通すつもりだ。
その書類を開く前に一息つく。
結局全ての犯人は男爵だった。
蚕の繭を密輸して町のものに生糸を作らせ荒稼ぎする。裁縫師が粗悪と言ったのもわかる気がする。民家の調理場で作業をしていたのだからな。二十年以上も続けていれば腕もそれなりに上がったのかもしれないが、専門の工場で作られたものに劣るのは仕方ないことだろう。
毒物や薬物に手を出したのは何故か。
命を奪いたいほどの相手がいた・・・・・?日記を読んだ限りではそのような人物があの町にいたとは思えないが、所詮は他人から見た日記だ。当人同士が憎み合っていることを隠して上手く付き合っていれば、気がつかなくても無理はない。
いや相手があの町の人間とも限らないからな。そうだ実際に使ったのは王都だった。本当に危なかった。
ビョルケイ嬢にあの薬を渡したのも父親だったか。
何故そんなことを許したのだろうな、親とは普通諫めるものではないのか。娘の言いなりになって薬を取り寄せたのか?わからないな、そこまでして娘を私に近づけたかったのだろうか。
でも何かおかしい。
ビョルケイ嬢が倒れた知らせを聞いて、男爵は学園に怒鳴り込んだと言っていなかったか?演技と言われたらそれまでだが・・・いやそれくらい容易いか、悪党ならば。
気を取り直して書類を開いた。全てが解決した今となっては、頼んでいたこの調査の結果も、もう重要ではない。だがやはり何かすっきりしない。終わったようで肝心な部分に靄がかかったままのような、何かを見落としているような気がしてならない。何が引っかかっているんだ。
とりあえず今はこれを読もう。ただの思い過ごしと言うこともある。
最初は町の調査結果だ。依頼した全ての件が明快に書き出されてある。町の人口や家屋の数などの、数字だけでは読み切れない町の様子が、目に浮かぶようだ。
上から赤い文字で追加されているのが、生糸を作っている民家か。特に一定の決まりがあるわけではないな。共通しているのはハーヴが話していた通り、工場で働くものの住まいと言うことだけだ。
ここからが教会の調査か。これを依頼した時、牧師の日記を預かることになるなど思いもしなかった。無駄なことをさせてしまったな。
・・・・・
気にかかっていたことの答えは一行目を読んだだけで解決した。
やはりな。思っていた通りだ。どう考えても不自然だったんだ。ならば何故その嘘をついたのか・・・まだ終われないな。裁判は明日だ。明日この事件は終わる。これ以上追及する必要はない。ならばこれから私がしようとしていることはなんだ?単なる好奇心?自己満足の為・・・だろうか?




