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その後の日記には驚くことが書かれてあった。

座礁した船はパルードから流れ着いたものだった。幸運なことに乗組員二十一人全員が助かったそうだ。

一人だけ片言のステファンマルク語を話すものがいたため、そのものを通じて彼らと交流したと書いてある。海岸で救助をした時には気がつかなかったが、身体の回復した彼らの風貌をよくよく観察した時、牧師は不安になったそうだ。[まるで海賊のようだ]と。


いつの間にか彼らはウルッポと行動を共にするようになり、じきに何人かはウルッポと馬車に乗り町を出ていった。ステファンマルク語を話すものが出ていってしまったため、残ったものとの会話には苦労したようだが、彼らは漁を手伝い町の人々も彼らを受け入れていたそうだ。


いつもならひと月ほどで戻って来るウルッポが半年を過ぎても戻って来ない。毎日のように日記の最後には彼の身を案じる言葉が綴られていた。


ウルッポ達が町を出て八ヶ月が経った頃、町に大きな船が着いた。その船は座礁した船よりも二回りは大きく見えたとある。乗っていたのはウルッポと、彼と共にこの町を去ったパルード人だった。

ウルッポは町に残り、パルード人達はその船に乗って今度こそこの町を出ていった。

その八ヶ月の間、ウルッポとパルード人がどこでどのように過ごしていたのかは書かれていない。彼らが乗って行った船についても、牧師からウルッポに尋ねることはなかったようだ。


「繋がりましたね あの町とパルードが」

今は生糸ほど細いつながりに思えるが、確かにここに接点があった。きっかけは不運な遭難だったが、小型の船がパルードからステファンマルクまでたどり着けることを彼らは証明した。


『この船を調べられるといいのだが・・・』

船を造る場所は限られている。この船がステファンマルクで造られたものなら誰が購入したのか辿ることが出来るはずだ。身一つで海に飛び込んだもの達が、船を買う金を用意できたとは考えにくい。パルード人達は遭難者だが、代官に届け出をしなかった時点で密航者になった。ますます船を買うことは難しくなっただろう。


ダールイベックの港町にはパルード街があったな。同郷のものが遭難して船を失った・・・だからと言って船を与えることが出来るだろうか?二十人が乗り込んでも余裕がある規模の船を。小さな邸なら買えるほどの値段はするはずだ。パルード人というだけで頼れるものでもないだろう。そもそもパルード街の存在を知っていたかどうかすらわからない。


と考えると船を用意したものは自ずと絞られる。

問題はやはりその資金だ。それを・・・出せたのか?当時の男爵に。

馬車にしろ船にしろ、男爵の資金源はなんだ?本当に働きに出ていたのか?それほどの収入を得られる職業とは・・・まだまだ疑問は多く残る。


「レオ様 船を調べて参ります 入手した時期がわかっておりますから それほど時間はかからず調べられるはずです」

『ロニー任せた』

少しずつピースは集まってきた。もう少しだ。ここから工場の創業まで残り二年。遠からず工場の建設が始まるだろう。



「殿下 次の日記からウルッポに関する記述を抜粋致しました ご高覧くださいませ」

『ありがとうリーラ 非常にありがたいよ』

「勿体ないお言葉 有難き幸せにございます」

・・・そうだ、また忘れていた。今日こそはロニーに聞こう。


リーラが抜粋した日記を読む。とても読みやすい。

そして内容は期待していた以上のことが書かれていた。


雪解けと共に大勢の大工がこの町に来た。ウルッポ改めウォーアリッグが発注した工場と邸の建築が始まった。この町には宿がない為、ウォーアリッグが牧師に献金を渡して大工らの宿泊を頼み込んだ。


~~~

絹織物の工場を建てることも、既に領主様に申請済みで二年後には創業すると言っていた。


~~~

あの船がまたこの町に来た。

乗っていたのも二十一人のパルード人達だ。彼らは教会へは来なかった。ウォーアリッグの家に泊まり三日後には出港した。あの小さな家に二十一人もの男がよく入ったものだ。


~~~

翌月もさらに翌月も、それ以降ほぼ毎月一度船が来ている。数日滞在しては帰ることを繰り返している。

何をしに来ているのかはわからない。ウォーアリッグに尋ねても、毎回はぐらかされてしまう。

彼らはどこから来ているのか、目的はなにか、他にもいくつも尋ねた。

「やつらはパルード人だ パルードから来ているに決まっている」これがウォーアリッグの返した唯一の答えだった。


~~~

驚いた。てっきり近くの町に住み着いたものだとばかり思っていた。ウォーアリッグは知っているのだろうか。港を通さず入国することは禁止されていると言うことを。


~~~

彼らが初めてこの町にたどり着いたときも、先々月も先月も、代官様へは報告のお手紙をお出しした。けれど代官様からの返事は一度もない。

それはきっと、彼らが代官様からお許しを得てこの町へ来ていると言うことなのだろう。何も知らずにお手紙を出し続けてしまった。今後彼らのことを報告するのは止めよう。




成程な・・・。

牧師は代官に逐一報告を上げていたのか。これほど筆まめな男だ。報告もさぞかし丁寧にしていたのだろう。しかし代官の記録には座礁事故のことも、パルード人が頻繁に上陸していることも一切残されてはいなかった。


牧師は代官の下についているわけではない。あくまで善意の報告だ。これは想像でしかないが、牧師が毎回町の様子を事細かに記した手紙を代官に送っていたとしよう。代官はダールイベック領南部全体を任されている。政務は多岐にわたり、日々を忙殺されているに違いない。最初のうちは目を通していたかもしれないが、毎回分厚い手紙が届いては・・・充分あり得る話だ。

だがそれは職務怠慢だ。事実重大な事故の記録を怠っている。


そしてパルード人だ。漂着した一度だけではなく、自らの意思で何度も訪れていたとは。

二十人以上が乗り込めるとは言っても、貿易船に比べ遥かに小さな船だろう。その船で何度もパルードとの往復を・・・俄かには信じがたい話だ。

パルード人とウルッポ・・男爵の間になんらかの約束が交わされたことは間違いない。生糸か?このパルード人は養蚕家だったとでも言うのか?


一つピースが見つかると、二つ以上の疑問が湧き上がるようだ。この町にはまだまだ秘密が隠されているに違いない。



『ダール 今読んでいる日記にパルードの船が来たと書いてあるか』

黙々と日記を読み続けていたダールにも聞いてみることにした。


「はい 船が着いた日と去った日を書き出しております」

ダールは日付の入った表を持ってきた。これもとてもわかりやすい。


『定期的にあの町へ来るようになったようだな』

何の目的で、それはいつまで続いたのだろう。

誤字報告ありがとうございました。気がつくのが遅くて申し訳ありませんでした。

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