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前日に引き続き、今日も朝から六人で日記の山を相手に黙々と作業を続けていた。冬休暇は残り十日を切った。出来ることなら休暇のうちに読み終えてしまいたい。


今日はリーラも一日作業に加わっている。冬休暇に入って以降はビョルケイ嬢の指導も回数を減らし、週に四度になったそうだ。

『明日は誰が行く予定だ?四人全員が行くのか?』

「私とギュールでございます」

フロードが答えた。てっきり名前が上がるものと思っていたリーラが加わっていないことが意外だ。


『そうか ではフロードとギュールは明日ここへ来なくていい 任務に備えてゆっくり身体を休めてほしい』

「ありがたきお言葉 恐悦至極に存じます」

・・・まだ会って二日だが、このもの達の言葉遣いは少し異様だ。侍女達もここまでの言葉は使わない。聞いているだけで肩が凝る。後でロニーに聞いておこう。



読み終えた日記の山も少しずつ高くなってきた。今私達が読んでいるのは十年から十一年目辺りの日記だ。男爵の年齢で言うと二十二歳頃と言うことになる。

相変わらず男爵の名前は滅多に出てこない。たまに出てくるものも、教会の前を一人で歩いていた、という描写ばかりだ。


成人しても定職に就いていなかったようだな。あの町で若い男の働き口と言えばほぼ漁師一択なのだろう。漁師にならなかった理由まではわからないが、海で父親を亡くしたのだ、海が嫌いになったとしても無理はない。だからと言って無職でいい理由にはならないが。

いや、ここから十年後に工場が創業するのだ。工場を建て、設備を整えるのにも数年かかる。そろそろ何かが起きてもいいのではないか?この町で絹織物の工場を始めようと思ったきっかけ、その資金、何か手掛かりになることは書かれていないか。




『今日はここまでにしよう 随分と捗った感謝する ダールとリーラは明日も頼む』

「かしこまりました」

四人を先に帰らせてから部屋を出て鍵を閉めた。ロニーと共に自室へ戻る。


『捗ったが成果はなかったな そろそろ何か出てきてほしいところだ』

「はい 私は男爵がいつになったら働くのかが気になってたまりませんよ いつもどこへ行っていたのでしょうね」

『・・・そうだよな 言われてみれば牧師が見かけた時はいつも一人だ どこへ何をしに行っていたのだろうな』

「そのうち牧師が後を付けた日記でも出てくるといいのですが」

『・・・期待はしないでおくよ』


そんな軽口をたたき合っていたところ、机の上に書類が積まれていることに気がついた。

『ダールイベック公爵からだ』

添えられていた封筒を開けて手紙を取り出す。


そこには港での調査を終えた報告と、そのまま本邸に寄るため手渡しできないことを詫びる内容が書かれてあった。

『公爵は王都に戻らず領地に滞在しているそうだ 手紙で港に触れていないと言うことは港に問題はなかったということだろうな』

工場の不正を調べることに注力していて、考えることさえ後回しにしていたが、今は不正を暴くより毒物や薬物の入手経路を掴むことの方が大切だ。犯人がビョルケイ男爵と決まったわけではないのだから。


「港で不審な動きがなかったとなると レオ様の推測が当たっている可能性が更に高まりましたね」

『焦らず 今は日記を確実に読みつぶすのが正解か』

「はい あれだけ事細かな日記を残している牧師です 町の些細な変化は漏らさず残していることでしょう」


『では明日も頼むよ フロードとギュールは午後からで構わない 今夜は深夜まで働かせるのだからな』

返事が必要な言葉ではなかったものの、ロニーが何も言わないので不思議に思っていると、今日一番の穏やかな笑みを浮かべながら深く頭を下げた。

「ありがとうございますレオ様

 あのもの達の身体を労って下さり 代わりに感謝申し上げます 良い主にお仕えすることが出来て幸運なもの達です」


そこまで感謝されるようなことを言ったつもりもなく、今度は私が困惑で沈黙してしまった。

「あのもの達もただの人間ですから

 不眠不休で働けるとお考えの方も中にはいらっしゃるようですが 休養は必要です」

何を当たり前のことを・・・と思ったが、もしかしてそう考える人物に心当たりがあるのかもしれない。父上か、もしくは先王、か。


『疲れた頭では判断も鈍る 必要な休養は回り回って私のためにもなるさ

 ロニーも例外ではないのだからしっかり休んでくれ』

「ありがとうございます レオ様もゆっくりお休みくださいませ」




----------

翌朝鍛錬を終えた私のところへ、いつものようにロニーが迎えに来た。

『おはようロニー』

「おはようございます レオ様」



「カトゥムスが使用したものと同じ毒が見つかりました」

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