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夏以降様々なことが重なり断念しかけていたのだが、今年はどうしてもクリスマスマーケットに来たい理由があった。ぶらぶらと歩きながら目的の店を探す。今年も出しているよな?毎年出ていたものな。


無事に串焼きも食べた後で、その店を見つけることが出来た。入る前に小声で頼みごとをする。

『今から入る店では私の名前を言ってはいけないよ』

「はい 大丈夫ですリカルド」

『ああ その名前も出さないでもらいたい』

「え?わ わかりました」

『それと 敬語もなしだよ いいね』

「そ そうだったわ ええ平気よ」

『うん じゃー入ろうか』


「いらっしゃい じっくり見ていってくれよ」

この店はビーズで刺繍を施した小物を売っている店だ。毎年通り過ぎるだけだったが、とても細かい技術で記憶に残っていた。


「彼女にプレゼントかい?」

『ああ そうなんだ

 どれがいい?ゆっくり選んでいいよ』

「え?あ ありがとう けど一緒に選んでもらえると嬉しいわ」


スイーリと一緒に並んでいる品を見る。

「とても素敵 綺麗だわ」

貴族の令嬢が使うにはやや素朴かもしれないが、その技術は素晴らしい。丁寧に時間をかけて作り上げたものばかりだ。


端の方を見るとネックレスのようなものがいくつか下げられていた。

『アクセサリーもあるのか?』

「ああ兄さん それはビーズを束ねてあるだけさ 自分で作ってみたいってお嬢さんもたまにいるんでね」

『へえー ビーズはこうやって売るのか』

「これは特別さー 見本みたいなものかな 量も少ないからな」

ちょうど店主と話も弾んできた。他に客もいないことだしいいタイミングだ。


『あのさ ちょっと見てほしいものがあるんだ』

ポケットに入れていた小箱を取り出して、ふたを開けた。

「珍しい貝だな 特にこの空色の貝 これはいいものだ」

箱の中にはスイーリから貰った空色の貝の他に、ダールイベックから持ち帰ってきた貝がいくつか入っている。


『これ 使えそう?』

「ビーズにか?光沢もあって申し分ないがこの数ではな・・・」

店主は取り出した空色の貝から目を離せないでいる。

『数はさ 多分いくらでも手に入る これ全部この子の故郷で獲れる貝なんだ』

スイーリの方を振り返ると驚いた顔でこちらを見ていた。


「はい!空色の貝は毎年秋になるとたくさん拾えます この白い貝は多分一年中見かけたはずです これ・・・このピンク色のはどこで見たかしら」

『このピンクのは 海で見つけた』

「あ!白い砂浜の!」

『うん そう』


「これはガラスで作るビーズでは出せない色だ この三つの色のバランスもいい この白い方を・・・」

店主は両手に貝殻を乗せぶつぶつと独り言を言い始めた。


「兄さん これ少し分けてもらえないか?」

『全部あげるよ そのつもりで持ってきたんだ』

「ありがたい クリスマスマーケットが終わるまでは無理だが 終わったら早速ビーズにしてみるよ」

『よかった 上手く行くといいな』

「ああ任せてくれ で 兄さん完成したものは見に来れるのか?」

『うん いつ頃どこへ行けばいい?』

店主から店の場所を聞いた。そう、店の場所を知っていれば最初からそこへ行ったのだが、マーケットでしか見かけたことがなく知らなかったのだ。


「まいどあり じゃー年明けに待ってるからな」

『ああ 必ず行くよ』

スイーリの選んだ卵色の小さなバッグを買い、店を後にする。

「メリークリスマス お二人さん遠くから来たんだろ?王都を楽しんで行ってくれよ」

『メリークリスマス ありがと楽しんで来るよ』


店を出て、再びスイーリと手を繋ぎ歩き出す。

「リカルド 素敵なバッグをありがとうございます」

『どういたしまして 付き合ってくれてありがとう』


「驚きました ダールイベック領で貝殻を集めていらしたのはこのためだったのですね」

『ああ 最初から計画していたわけではないのだけれどね』

きっかけはたまたま海で見かけた貝殻だった。この貝殻を集めて、それを他の場所で活かすことが出来るのではないかと。


『貝は昔から装飾に使われてきたと言うだろう?この国ではたまたま美しい貝が獲れるところと 手工芸の盛んなところが離れていた だからそれを繋ぐことが出来ればと思ったんだ』


王都での暮らししか知らない私だが、どうしてか王都一極集中なこの国の体制には以前から思うところがあった。それが私の原動力になっているとも思っている。

「あの貝殻が何かのお役に立てるなんて思っていませんでした 楽しみですね あの方のお店を訪問なさる時 私もご一緒させて頂けませんか?」

『ああ 一緒に来てほしい スイーリのおかげであの貝を知れたのだからね』



「やっぱりレオとスイーリだったか」

後ろから聞こえた声にぎくりとした。しまったな、スイーリに注意しておきながら自分がやらかした。だがこの声には聞き覚えがある、いやあり過ぎる。

二人で振り返った先にニヤニヤとした笑みを浮かべて立っていたのはベンヤミンだった。隣にはソフィアがいる。


「ごめんなさい 声をかけるのは止めておこうと言ったのですが」

ソフィアが済まなそうに謝るが、ソフィアは何も悪くない。


『ここでは目立つ 少し移動しないか』

二人は一目で貴族とわかる身なりをしている。今日の私達と親し気に話すのはあまりに不自然だろう。

途中でホットジュースとグロッグを買い、休憩所に向かった。空いている端の方に席を決めると、周囲の席もすぐに埋まった。全てよく知る顔だ。今日は随分と大勢来ていたのだな。


「最初に見かけた時はイクセルかと思ったんだよ でもイクセルにしては背が高いしさ服装も違うから他人の空似かって思ったんだけどな そしたら今度は目の前の店から出てきてさ」

ベンヤミンは楽しくて堪らないと言った様子だ。


「お二人も今日いらしていたのですね ソフィア様ブランダさんのショコラショーは頂きましたか?」

「はい とても美味しかったです スイーリ様ももう頂きましたか?」

この時期の令嬢の挨拶はショコラショーから始まるようだ。先に飲んでおいてよかった。


「やっと見れたぜ 今日来てよかったなソフィア」

「ベンヤミン様 お二人をそのように言うのは失礼ですわ」

ソフィアに窘められてもベンヤミンは笑いを収めるつもりはないようだ。


『構わないよソフィア 楽しんでもらえて何よりだ』

「なんだか不思議な感じが致します お声は間違いなくレオ様ですのに こんなに雰囲気が変わるものなのですね」


「ふふ ソフィア様達もいかがですか?違う自分になったようで とても楽しいのですよ」

「ええ スイーリ様も髪のお色が変わると別の方のようですわ 最初は全く気がつきませんでした」

スイーリとソフィアの会話を聞いたベンヤミンが、慌ててその会話に加わった。


「ソフィアも着てみたいのか?俺も見たい! ソフィアは何色の髪にするんだ?俺は?俺はどんなのがいい?」

「ふふ 私ですか?実はずっと前から黒髪に憧れています 一度スイーリ様のような黒髪になってみたいですわ」

「それではベンヤミン様はブロンドはいかがでしょうか?」

ソフィアの話を聞いたスイーリが、クスッと笑いながらベンヤミンと私を見ている。


「ブロンドか!俺に似合うかな どうだソフィア今から探しに行くか!」

「わかりました お付き合いさせて頂きますわ」

スイーリの提案の意図を察したソフィアもクスクスと笑っている。


黒髪と金髪になった二人を見てみたいものだな。

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