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『クリスマスマーケット いつにしようか?』

ここのところビョルケイ家絡みのことが続き、スイーリとこうして会うのも随分久しぶりのような気がする。


ぱあっとスイーリの顔が輝いた。

「ご一緒できるのですか?」

『ご一緒させて頂けますか?ダールイベック嬢』

胸に左手を当て、右手を差し出す。

「ふふ 喜んで ご一緒させて頂きます」

そうして顔を見合わせ笑い合った。一気に浄化された気がする。


「明後日からは冬休暇が始まりますし レオ様のご都合のよい日で構いません」

『ありがとう では休暇初日にしようか 早くアイリスにも会いたいからな』

「はい 楽しみにしています」

『うん 迎えに行くよ 楽しみにしている』




----------

「お似合いになりますね」

『まるでイクセルだな』

今日の私は燃えるように赤い鬘を選んだ。人ごみの中で埋もれず、そして悪目立ちもしない色。私に出来るせめてもの気遣いだった。


『行ってくるよ』

「今日はゆっくり楽しんできて下さいませ」

『ありがとうロニー』




『おはようスイーリ』

今日のスイーリは、栗色の髪を二つに編み、白いニットの帽子を被っていた。

「おはようございますレオ様」

『会いたかったよアイリス 今日も可愛い』

耳元でそう囁く。僅かに覗く首元が真っ赤に染まった。懐かしいな、こんなスイーリを見るのも久しぶりだ。


『さあ行こうか』

スイーリの手を取り馬車に乗り込んだ。今馬車の中は二人きりだ。


「今日は護衛の方は乗っていらっしゃらないのですね」

最近はゲイルとヨアヒムが同乗することが増えていたから、今日も一緒に乗ってくるものと思っていたらしい。

『うん 二人は前に乗ってる』

今日の二人は御者台に座っていた。


『久々にのんびりできそうだ 今日は楽しもう』

「はい!たくさん見て回りましょうね」

『そうしよう』



マーケットの少し手前で馬車を降りて歩く。なんだか腹の底から息が吸えている気がした。今まで思っていた以上に身体は窮屈さを感じていたらしい。


『何から見ようか 今日の目当てはある?』

「私ですか?ショコラショーはいただきたいです」

『うん それと串焼きだね 他にはない?』

「オーナメントを見て それから何か記念になるものがあれば―」


『一緒に探そう 今年の記念になるものをね』

「はい!」

手を繋ぐ。はめ慣れない毛糸の手袋は、スイーリの手のぬくもりを感じてとても暖かかった。



甘い香りが漂ってきた。近くにショコラショーの店があるようだ。

「ショコラの香りがします どのお店かしら」

『辿って行ってみようか』


何歩か足を進めると、その店はあった。

「ここだわ!レ・・リカルド ここがブランダさんの出店です」

それはよく利用しているカフェの名前だ。

「ブランダさんは絶対外せないと聞いてきたんです 嬉しいーもう見つけちゃった」

どうやらスイーリは今年もショコラショーの下調べを済ませてきたらしい。

『よし 飲もうか』


「いらっしゃいませ 甘くて温かいショコラショーの店です 焼き菓子もございますよ」

顔見知りの店員がいるかもしれないなと思ったが、そこに知っている顔はなかった。


そうだ、スイーリは飲み比べが楽しみだと言っていたよな。一杯は別の店にした方がいいのか。

「リカルドはどれにしますか?ブランダさんのショコラショーはたくさん種類があるんです・・あるのよ」

「ふふ 宣伝をありがとうございますお客様 当店のショコラショーは自由に組み合わせてお楽しみいただけます お好みの一杯をお選び下さいませ」

『へえー面白いな』


『アイリス 俺の分も任せていい?』

「はいっ・・え ええわかったわ

 えっと ラムとスパイスをショコラはビターでお願いします

 もう一つは ミルクオレンジをお願いします」

「かしこまりました すぐお作り致しますね」


出来立てのショコラショーを受け取って、テーブルのあるスペースに移動する。椅子はなく、小さめの高いテーブルが並ぶ簡単な休憩所だ。

スイーリは黒っぽい方のショコラショーを私の前に置いた。

「これがリカルドのお好みに合うかなと思って選んだものです」

『ありがとう 飲んでいい?』

「はいっ」

『じゃー乾杯!』「乾杯」


『旨い 飲んだことのない味だ』

ラムの香りの後にピリッと複雑なスパイスの刺激が広がる。これもショコラなのか、甘みがほとんど感じられない。

テーブルの上に置いて、ハンドルをスイーリの方へ向けた。

『飲んでみて』


スイーリもオレンジの良い香りが漂うショコラショーを私に勧める。

「こちらは王道の組み合わせですが やっぱりブランダさんのものはとっても美味しいです」

甘い香りと爽やかなオレンジの風味。間違いない組み合わせだ。

『クリスマスの味だなー 旨いな 今年も飲みに来れて良かった』

「ここでしか味わえない味ですよね 今年も来れて嬉しいです ありがとうございます」

『こちらこそ』



十二月だというのにどこまでも薄い青空が広がっていた。日差しはあるものの空気は切れそうに冷たい。

『今年は晴れの日が続くな』

「ええ こんなにお天気が続くのは珍しいですね」

『冷えるわけだ でもこうしていると暖かい』

寒さを言い訳に、スイーリを後ろからすっぽりと包む。


「レ・・・リカルド?!」

『駄目?寒そうに見えたんだけど』

「駄目・・・じゃないです」

『ん じゃーもう少しこのままで』


一時はこんな穏やかな日が二度と来ないのではないかとすら思えた。想像を超える大きな事件もあった。まだ解決していないことも山積みだ。でも私の側にスイーリがいる。それさえ変わらなければ何だって超えられる気がした。

『ありがとう 側にいてくれて 愛してる』

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