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放課後恒例の勉強会で私達は今食堂にいる。


「クラスの令嬢が朝から大騒ぎだったぜ 昨日の茶会好評だったようだな 良かったなスイーリ」

「ありがとうございますベンヤミン様」


私のところへは、昨日遅くにスイーリが直接花の礼も兼ねて手紙で伝えてくれていた。

和やかで良い茶会だったそうだ。


「レオ様 素晴らしいお花をありがとうございました お手紙にも書きましたがもう驚いてしまって―どうして白いお花だったのか伺っても構いませんか?」

『十二月だからね クリスマスの装飾をしているだろうと思ってね 白い花なら邪魔にならないかと選んだのだが役に立ったのなら良かったよ』

「はい とてもよい香りのお花で 皆さんも喜ばれていました」



「で どうだったんだ?ビョルケイは結局来たのか?」

「ええ いらしてくださいました」


「見違えるほど素敵なご令嬢になっておりましたのよ」

「ええ 私も同じテーブルでしたので かなりの時間お話しもしましたが すっかり変わられていて驚きました」

「ほんとか?!一体何がどうしちまったんだ?そういや最近静かだったもんな」


スイーリの手紙にはそのことも触れられていた。あまり長く話す時間はなかったそうだが、帰り際に'願い事'をされたらしい。

『スイーリの都合がつく日で構わないよ

 ビョルケイ嬢が私とスイーリに話があるそうなんだ』

前半はスイーリに、そして後半はベンヤミン達に向けて話す。


ベンヤミンは眉間にしわを寄せているが、ヘルミとソフィア、そしてスイーリ本人を見る限りもう騒ぎを起こす心配もしていないようだ。そんなにも変わったということか。



「ヴェンラ様も早くレオ様にお会いしたいでしょうから 明日はいかがですか?」

『わかった 明日にしよう』

ヴェンラ様、か。二人はすっかり打ち解けたようだな。スイーリを疑う気持ちは微塵もないが、それでも正直言うと私はまだ半信半疑だ。人は短期間の間でそこまで変われるものなのだろうか。



----------

放課後、いつかのようにホベック語の教室へと向かう。中に入ると机の上に鞄を置いていたスイーリが振り返った。

『スイーリ 待たせてしまったね』

「レオ様 私も今来たばかりです」

数歩近寄ったところで、扉を静かに叩く音が聞こえた。


「お待たせ致しました 王子殿下 ダールイベック様 お時間を頂きありがとうございます」

そう言って両手を揃え静かに礼をするビョルケイ嬢は、どこから見ても立派な令嬢だった。

僅か二週間かそこらでここまで一変するとは・・・内心の驚きを隠して挨拶を返す。


『まだ城下に寄ることを止められていてね ここで済まないな』

王宮(うち)で話すことも出来たが、そこまでする必要もないだろうと思い、学園の中で会うことに決めたのだ。

「とんでもございません お会いいただけたことが光栄でございます」


確かに変わったな。別人のようだというのも大げさではない。



「ダールイベック様 先日は素晴らしいお茶会にお招きくださりありがとうございました」

「ヴェンラ様 お茶会の時にも言いましたが スイーリと呼んでいただいて構わないのですよ」

「ありがとうございます スイーリさま」

恥ずかしそうに語尾を僅かに上げて上目遣いにスイーリを見上げる様子は、スイーリを慕う大勢の令嬢と何も変わらなかった。


三人で机を囲んで座る。口火を切ったのはビョルケイ嬢だった。

「王子殿下 入学より数々のご無礼謝罪の言葉も見つかりません 謝って済むようなことではないとわかっておりますが 本当に申し訳ございませんでした

 スイーリ様 スイーリ様にもとんでもないことをして参りました お許し頂けるとは思っておりません 謝罪は自己満足かもしれません それでも申し訳ございませんでした」


机の下に隠れてしまうのではないかと言うほどに頭を下げ続けている。これが指導の賜物なのか。本当にこの目の前で頭を下げている令嬢があのビョルケイなのか?

『頭を上げて 謝罪を受け入れるよ もう私の中にビョルケイ嬢へのわだかまりはない』

「ヴェンラ様 私も気にしていませんから もう頭をお上げくださいね」


ようやく頭を上げたビョルケイ嬢は、恥ずかしそうにしながらもどこか晴れ晴れしたような目をしていた。

「ありがとうございます 殿下そしてスイーリ様」

『学園内で敬称は不要だよビョルケイ嬢 今まで通り名前で呼んでくれて構わない』

皮肉めいた言い方になってしまったことは勘弁してほしい。まだ私も困惑しているのだ。


「光栄でございます レオ様」

『こう言っては失礼だが随分と印象が変わったね』


「良いお作法の先生に巡り合うことが出来ました 学ぶことをお勧め下さったレオ様に大変感謝しております」

『あなたの力になれたのなら良かった これからも継続して習っていくのか?』

最後に届いた報告では、ダールイベック家の茶会参加を当面の目標に作法の指導をしていると書いてあった。


「はい 私には知らないことが多すぎて・・・これからも教えて頂くつもりです」

『きっと身につくよ 焦らずじっくり学ぶといい』

「ありがとうございます レオ様」



この様子だと、今後ビョルケイ嬢が新たな揉め事を引き起こす心配はほぼなさそうだ。ひとまずは安心した。厄介毎はひとつでも少ない方がいい。


『ところでビョルケイ嬢は兄上 ペットリィとは会っているのか?』

「え?

 いいえ・・・ 入学前に一度会いましたがそれ以降は・・・」

急に兄の話を持ち出したからだろうか、瞳が動揺に揺れている。私がペットリィと面識があることは初日に話したはずだが。


『ビョルケイ嬢を責めているのではないよ あなたの兄上は週末も寮から出ないそうだからな』

「はい 私達が王都へ越してきて間もない頃に 一度お戻りになりましたがそれきりです」


『たまには会ってやったらどうだ?騎士科の友人から聞いた話だとペットリィはいつもビョルケイ嬢のことを気にかけているようだよ 今の姿を見ればきっと安心するだろう』

「はい・・・でも私から声をかけるのは・・・」


『次の日曜に騎士科で模擬戦があるんだ 見学も出来るから時間があれば応援に行ってやるといい』

「模擬戦 ですか・・・ご迷惑にはならないかしら」

『なに見学に来るのはいつも騎士団の連中ばかりだからな 令嬢が来るだけで大歓迎だろう』


「お二人も見学なさるのですか?」

『私は行く スイーリは―』

「ふふ 私は一度も見学に行ったことがありませんわ」

『と言うことだ 気が向いたら気軽においで ペットリィに何か言われたら私の名前を出せばいい』

「ありがとうございます 私行きたいです 応援に行こうと思います」




ビョルケイ嬢が先に教室を出ていき、スイーリと二人になった。

「ヴェンラ様が変わられたのは レオ様のお力だったのですね」

スイーリは心から嬉しそうに微笑んでいる。

『いや私は何もしていない 正直に打ち明けるとあまりの苛立ちから作法でも身に付けろと言い捨てただけなんだ』

あの時のビョルケイ嬢はスイーリのことをなじり、罵倒していた。そんな彼女に善意の言葉を投げかけるほど私は人間が出来てはいない。あれは彼女のことを思ってかけた言葉ではなかった。


「そうだったとしても 結果ヴェンラ様は変わることが出来ました ヴェンラ様も感謝していたではありませんか レオ様のお力ですわ」

『私の言葉だけではここまで努力しなかっただろう スイーリが手を差し伸べたことが ビョルケイ嬢の心を動かしたのだろう 私はそう信じている』


「ふふ では私達二人で改変を改変したと言うことですね」

『改変を改変・・・そうか 成程な』

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