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『そうか まずはおめでとう・・・と言っていいのかな いやそれも少し変か』

「いえ ありがとうございますレオ様 ビョルケイさんがいらっしゃってくださらないと 何も始まらないところでしたから」


目の前で今ナイフを入れられた熱々のアップルパイからは白い湯気が立ち上っている。会話をしながらもスイーリの視線はその切り口に釘付けだ。みるみる頬が緩んでいることに果たして彼女は気がついているのだろうか。


ここは王宮のサロン。今暫く城下での飲食は控えるようにとの陛下からのご命令があり、スイーリとのデートも当分は王宮の中に制限されている。夏であれば馬を走らせることも出来たのに、生憎季節は冬。息苦しい思いをさせていることを申し訳なく思う。


思っているのは確かなのだが・・・



もしかするとそれは私の取り越し苦労だったのかもしれない。



「お待たせ致しました カール特製アップルパイでございます バニラビーンズをたっぷりと使ったアイスクリームも添えておりますよ」

「素敵!とても良い香りがします カールさんありがとう!」

「どうぞスイーリ様 厳しいご意見も甘いご意見もどんとお願い致します!」


なんだろう。スイーリの眩しいほどの笑顔が見れて嬉しいはずなのに、どうしようもなく湧いてくるこの敗北感は一体・・・嫉妬か?私は嫉妬しているのか?アップルパイに。



「殿下?如何なさいました?ようやく完成したカール特製アップルパイでございますよ」

『あ!う・・うん おめでとうカール とても旨そうだ』

「どうぞお召し上がりくださいませ」

ニコニコと満足そうな笑みを浮かべているカール。


「美味しい!とっても美味しいですカールさん!」

『うん旨い 完璧だよカール』


『旨いな 次は皆にも声をかけようか』

「ええ 皆様も絶賛間違いなしですわ カールさんお願いできますか?」


「嬉しいお言葉をありがとうございます 殿下スイーリ様 このカールいくらでも焼かせて頂きますよ」

『ありがとうカール 皆に伝えておくよ とびきり旨いアップルパイを食べに来いとね』

「はい!お言葉に負けぬよう更なる研究に励みますよ!」

ふふ・・・と、スイーリは笑いながら目の前のパイを口へと運ぶ。


カールが厨房へ戻って行き、サロンの中には静けさが戻った。

紅茶を注ぎに来た侍女に告げる。

『温かいうちに皆で食べるといい とても旨いよ 後は私達でやるからゆっくり食べておいで』

「ありがとうございます 王子殿下 有難く頂戴いたします」

『お礼ならカールに伝えてやってくれ』



二人きりになったところで、スイーリが話しの続きを始めた。

「ビョルケイさんから届いたお返事をお持ちしました ご覧になりますか?」

『いや いいよ スイーリに充てて書いたものなのだからね その感じだと悪い文面ではなかったのだろう?』

スイーリが主催する茶会の招待状の返事のことだ。百五十近い招待状を全て一人で書き上げたという。


「はい 一年生のご令嬢へお送りしたのは二日前なのですが 昨日にはお返事を頂けたのですよ とてもよいお返事でした」

私少し驚いてしまって、とスイーリは照れたような笑いを浮かべた。


『スイーリの想いが通じたのだろう きっと茶会も上手く行く いや必ず成功するよ』

「はい そうなるよう頑張ります」



『スイーリがこのような手段を用いるとは思わなかった 驚いたよ』

「私 新学期が始まるまでずっと考えていたんです ヒロインとお友達になれたらと

 もしもヒロインがレオ様以外を選んだとしたら きっとお友達になれる お友達になろうって そう思っていました」


『そうだったのか

 私も反省したよ ずっとビョルケイ嬢を排除することばかり考えていたからな』

「ふふ 北風と太陽 ですね」

『ああ 太陽には敵わないな こんな寒い土地では特に』




『今年は慌ただしい十二月になるな』

例年十二月の二週目に開催されてきたクリスマスコンサートは、今年はクリスマス前日に開催されることが決まった。オーケストラ選抜が二週間延期されたことによる練習不足が理由だ。


「そうですね そんな中でお茶会を開くのはどうかと悩みましたが」

『いや休暇に入る前がいいタイミングだろう 令嬢達も楽しみにしているようだし 明るい話は有難いよ』

「そう言って頂けると安心しました でもレオ様 クリスマスマーケットには行きたいですね」


『そうだな・・・』

もちろんマーケットに行きたい気持ちはある。だが今の状態でそれを言っていいものか、まだ判断がつかない。私が行きたいと口にすれば反対するものはいないだろう。しかし毒を持つ犯人の目星すらついていないのだ。八番街で遭遇した不審な人物の足取りも依然掴めていない。



―スイーリを狙うものがそう遠くない距離にいる。確実に守れると言い切れぬうちは、軽率な行動は取れない。二度失敗することは許されないのだから。

身分を隠して行く方が安全だろうか。今年も例年のようにそうするつもりではいた。そして恐らくそれも今年が最後になるだろうと言うことも。



「ごめんなさい まだ事件が解決していないのに私・・・マーケットは毎年開かれますし クリスマスはどこにいてもお祝いできますものね」

『すぐに返事が出来なくて済まないな でもきっと行ける スイーリと交わした約束の一つでもあるんだ その約束を守れるように 私も今出来ることを頑張るとするよ』

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