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「ただ眠っているのではないというの?」

十二日の間眠り続けていたレオが目を覚ましたのは、毒に倒れてから十三日目の朝だった。目も虚ろで殆ど言葉を発することもなかったが、意識が戻ったことに皆は安堵した。



だが、再び眠りに落ちて既に一日が過ぎた。依然熱も高い。

「恐れながら・・・ まだ毒が抜けていなかったようでございます」


「レオ・・・」

王妃の隣には王の姿もあった。

「レオ きつく言いすぎた 今度はお前の言い分も聞こう だから目を開けてくれ」



あの日以来姿を見ないと思っていたものの姿が深夜、レオの枕元にあった。冷やした布を額に充てがい、桶に湯を用意して汗ばんだ身体を拭いていく。洗い立ての寝間着に着替えさせると布団をかけ直した。

「レオ様・・・」

主に仕えるようになって七年、初めて見る寝姿だった。

ベッドから少し離れた位置に椅子を置いて座る。翌朝王妃がこの部屋を訪れるまで静かに主を見守り続けた。




----------

はっきりと目が覚めた。視線を動かすと枕元にあった顔と目が合う。

「レオ!」

『おはようございます 母上』

「レオ もう大丈夫なのね!」

言い終わらないうちに抱き締められた。母上に抱き締められたのはいつ以来だろう。


『苦しいですよ 母上』

半分は照れ隠しだったのだが、慌てたように離れていく。

「ごめんなさいね 大丈夫?まだ苦しくて?熱は下がったようね」

『大丈夫です ご心配をおかけしました』


「ええ 心配したわ とても心配で堪らなかったわ もう二度とこんな思いはさせないと約束して頂戴」

『はい

 申し訳ありませんでした お約束します』




『母上 ロニーは』

側にいるはずのロニーがいない。


「・・・ごめんなさいレオ 私からは言えないの」

そうか、私の軽はずみな行動のせいでロニーにまで。陛下はロニーにどんな処分を下したのだろう。



『陛下は

 ・・・私にお会いになっていただけるのでしょうか』

先程陛下にきつく叱られたことは憶えている。だが内容ははっきりとは思い出せない。とても合わせる顔がない。でもロニーのことだけでもお聞きしたい。


「お会いになるわ 決まっているじゃないの どれほどあなたのことを心配しているか」

『陛下のお怒りを買いました お赦しいただけるまでお会いするわけには・・・』

「陛下も後悔なさっていたわ 本当よレオ 時間が出来たら必ずここへいらっしゃるわ」

陛下にここまで足をお運びいただくわけにはいかない。お会いいただく時間をロニー・・・いやロニーはいない。

とにかく早くここから出て、お会いする準備だけは済まそう。


『支度します』

起き上がろうとしたら、大きな声を出した母上に止められてしまった。

「駄目よ!まだ動いてはいけないわ 二週間以上も寝ていたのよ まずはお医者様に診ていただかなければ起き上がってもいけないわ」


二週間?

『二週間 ですか?』

「ええそうよ 正確には十六日経ったわ 三日前に一度目を覚ましてからまたすぐに倒れてしまったのよ」


十六日・・・

そんなに経っていたのか。と言うことはもう十一月・・・とっくに十月は終わってしまったのだな。



「大丈夫よ きっとすぐに良くなるわ」

『・・・はい 急いで取り戻します』

「レオ 無理をしてはいけないわ もう忘れてしまったの?心配はかけないと約束したばかりよ」

『はい それは承知しております』



「イレネ様 お医者様がお戻りになりました」

母上の侍女達がロニーの代わりを務めているらしい。

「早くこちらへ レオを診てあげて頂戴」


「殿下!意識が戻られたのでございますね!」

慌てて駆け寄ってきた医者は、目が落ちくぼむほど疲労の色が濃くにじみ出ていた。これではどちらが病人かわからない。

『苦労を掛けたようだな 済まなかった』





ベッドの上で起き上がることは許された。久しぶりに頭を起こしたからか暫くぼんやりとふらついたが、酷い頭痛は治まっていた。先程は母上に止めていただいて良かった。あのまま立ち上がろうとしていたら倒れていたかもしれない。不甲斐ないことだ。



「イレネ様 王子殿下 ダールイベック様 ノシュール様 ボレーリン様 ベーン様がご到着されました」

「エクレフス様 アルヴェーン様がお見えになりました」

ダールイベックにノシュール、ヴィルホか?ノシュールは誰だ?それにベーン?



「先にスイーリを呼んであげて頂戴 他の子達もすぐに呼びに行かせるわ 少しだけ待つように伝えてね

 それとレオの意識が戻ったことも忘れずに教えてあげて頂戴」

「かしこまりましたイレネ様」


母上の指示する声を聞いて、それが私の友人達のことだとわかった。

今日は日曜日だったのか。でも三日前だと言う一度目が覚めた時にもスイーリを見た気がする。夢だったのだろうか。

「皆こうして毎日朝から来ていたのよ」

『毎日?ですか?朝から・・・?!』

「ええ 毎日欠かさずよ あなたを心配して来ていたの」



「レオ様・・・?」

扉の前にスイーリが立っている。


『スイーリ 聞いたよ 毎日来てくれていたのだね ありがとう』

じっとこちらを見てはいるのに動こうとしない。

『スイーリ?近くへ来てくれないか まだ歩いてはいけないらしいんだ』



「レオ様良かった・・・良かったです」

ゆっくりと、ようやく側まで来てくれたスイーリが絞り出すような声で言った。

スイーリも母上も微笑んではいるが疲れ切った顔をしている。泣きはらしたような目を見るのが辛い。こんな顔にさせたかったわけではないのに。全て私の考えが甘かったせいだ。


『スイーリ 許してほしい 済まなかった』

「どうして?どうしてレオ様が謝るのですか?私のせいでレオ様に・・・私のせいでこんな・・・」

『スイーリは一つも悪くないよ 自分を責めるな 私が軽率だった

 母上もスイーリもこんなにやつれさせてしまった 申し訳ない』


枕元に座っていた母上がすっと立ち上がる。

「レオ お昼にまた来るわ お医者様の言うことを守らなくては駄目よ スイーリこちらへいらっしゃい 側にいてやって頂戴ね」

『わかりました』

「承知致しました ありがとうございます」


「他の子達にも顔を見せてあげなさいね もう呼んで構わないかしら」

『はい お願いします』

母上は数人の侍女を残して出て行かれた。


間もなくアレクシー達がやって来る。

『心配かけたな』


「レオ 起きてて平気なのか?」

『ああ もう大丈夫らしい』

侍女が手早く椅子を用意した。


『済まなかったな 毎日休んでここへ来ていたと聞いた』

「邸に一人でいるのが辛くて」

「僕も」

『試験はどうした?まさかそれは休んでいないだろう?』


「レオが毒を盛られたんだ 学園は大混乱さ 試験どころか何もかもがひっくり返っちまうほどにな」

毒を盛られたのが私ではないことを、アレクシーとデニス以外は直接目にして知っている。ベンヤミンがそう言い切ったということは、学園内では私が狙われたことになっているのかもしれない。

「レオ様 学園はあの日からずっと休校しています」

『そうだったのか・・・』



「特にレオの症状が重かったからな」

「レオ 寝ていたからわからないよね ずっと生死を彷徨っていたんだよ 良かったよ レオが助かって本当に良かったよ」



「どうして レオだけこんなに危険な状態が続いたのだろうな」

何か会話が変だ。まるで私以外にも毒を飲んだものがいるかのような。


まさかスイーリが?



『スイーリ!』

急に眩暈がした。息も切れて呼吸が荒くなる。

いきなり怒鳴られたスイーリは目を丸くしている。

「はい?!」


『飲んだ・・のか?まさか・・・スイーリも・飲ん・・だのか?』

「い いいえ私は口にしていません」


「落ち着けレオ!」

「殿下 もうお休み下さい」

デニスと医者が同時に割って入った。


「意識が戻られたばかりなのです ご無理なさってはいけません」

『大丈・夫だ・・・あと少・し・だけ・・・頼む』



「レオ もう一人いたんだ あの場で毒に倒れたのが

 ・・・ビョルケイだよ」

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