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レオ様・・・
今日も目を開けて下さらなかった。
苦しそうな荒い息と、握った手の熱さだけが生の実感だなんて残酷すぎます。
あの時、私のカップを手に取りながら向けられた笑顔が目に焼き付いて離れません。
どんな思いで笑いかけて下さったのでしょう。あの笑顔の意味にすぐ気がついていれば・・・
どうして私はすぐに紅茶を飲まなかったの?
どうしてレオ様に飲ませてしまったの・・・
私が飲んでいれば・・・
もっと強く止めていれば・・・
カップを倒してでも、奪って投げ捨ててでも止めるべきだった。
それが無理ならレオ様を突き飛ばして・・・後でどんなに叱られてもそうすればよかった。
どうして解決しただなんて思い込んでいたのかしら。
レオ様は一度だって解決した、安心していいとはおっしゃらなかった。
毎日昼食をご一緒している意味をしっかり解ってさえいれば、気を抜いていいはずがないと気が付けたはずだった。
なのに・・・
悔やんでも悔やんでも、どんなに悔やんでも悔やみきれません。
邸に帰るのが怖いのです。明日が来ないのではないかと、二度と陽が昇らないのではないかと、この夜はもう明けないのではないかと・・・そう思ってしまうのです。
眠るのも怖いのです。目を閉じて横になると浮かんでしまう。
最後に笑いかけてくださった、その先が浮かんでしまうのです。
何度も、何度も手を伸ばすのに。
届かなくて、どうしても届かなくて、赤い海が全てを飲み込んでしまうのです。
お願いします。レオ様を奪わないで。お願いします。助けて下さい。




