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かつての私はいくつかの乙女ゲームを掛け持ちしていました。

他の王宮ものもあれば、戦国もの、現代、異種族なんてのもあったかしら。レオ様以外のゲームは全て無課金のライトユーザーだったけれど、それなりに楽しんでいたことを憶えているわ。


そんな数々の乙女ゲームに必ずと言っていいほど一ルートはあったのが毒ネタです。酷いゲームだと半分以上のルートに何かしら毒が係わっていたわね。どのゲームだったかしら、イベントストーリーにまでふんだんに盛られているものもあったわ。流石にそこまでされると飽き飽きしてしまうものです。「またか」ってね。


そうなのです。あまりにも頻繁に出てくるものだから、当時の私にとっては、毒なんてただの小道具、話の種程度にしか感じなくなっていました。いきなり神官だの聖女だのが出てきたり、嘘みたいに効く解毒剤がどこからともなく現れて、瞬く間に何事もなかったようにすっきり元気になるのだもの。ハラハラなんて出来るわけないわ。



でも、毒がそんな単純なものであるはずがありません。

ほんの一滴が命取りになることもあれば、知らず知らず長年摂り続け取り返しのつかないことになってしまう、それが現実です。



ゲームの話に戻ると、初めてプレイした乙女ゲームの一番最初に選んだルートがレオ様。だからヒロインが毒の盛られた紅茶を飲んだ時はショックで心配で涙が止まらなくて・・・そうよ、続きが気になって初めて課金したのがあの場面だったわ。


何十回と読んだから、内容は今でも台詞まで完全に憶えています。

倒れたヒロインを抱きかかえたレオ様が、階段を駆け下り馬車まで全力で走って、そのまま王宮へ向かうの。


―なぜその時間に王宮の馬車が学園にあったのかしらね。この世界を知っていると所々こういうおかしな箇所があるのよね。



その後王宮で解毒剤が用意されたけれど、意識がなくて飲み込むことのできないヒロインのために、レオ様が口移しで飲ませる、(課金限定)スチルにもなっていた美しいシーン。


―そんな危険な行為をお医者様が認めるはずがないわよね。


今ならはっきりそうわかるけれど、当時はこのシーンで何度も泣かされたのだわ。



そして翌朝、目を覚ましたヒロインが最初に見たものは、真っ赤に目を腫らしたレオ様の目から零れ落ちた真珠のように美しい涙。逆光で上から覗き込むように見つめる笑顔と涙が美しすぎて今も忘れられません。そうよ、あのシーンをずっと待ち受けにしていたのよね。懐かしいわ、今でもはっきりと目に浮かびます。



いやいやそれは昔の話。それもゲームの中の話よ。

今はそのことではなくて、学園で現実に毒事件が起きてしまう、そのことを考えなくては。



レオ様も私も口には出しませんでしたが、恐らくビョルケイさんが係わってくることでしょう。そして飲ませる相手は・・・私。


全然怖くない、と言えば嘘になります。当然です。だってこの世界は私達にとっては現実以外の何物でもありません。現実の世界で毒を口にすればどうなるのかは、かつての知識で充分わかっています。飲んだ瞬間魔法のように毒が消える薬など存在してはいないと言うことも。



でも私にはレオ様がいる。レオ様が必ず守ると言って下さったのです。レオ様と一緒なら乗り越えられる、そう信じています。





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レオ様に打ち明けてから僅か二日後のことです。

もう怪しい人物を突き止められたと伺いました。この短時間でどれほどの時間を割いて下さったのでしょう。騎士も配備してくださるそうです。ああ、もう安心です。こんなに早く改変できるなんて。


改変が上手く進んだことに加えて、もう一つ嬉しいことがあります。

これから毎日お昼休憩の時間をレオ様と過ごすことが出来るのです。事件が解決するその日まで、レオ様と私だけではなくソフィア様やイクセル様達、皆様とご一緒することが決まりました。



こんなに良いこと尽くしでいいのかしら?

ふとそんな考えがよぎります。あまりにも呆気なく解決したことで戸惑っているだけかしら。ううん、呆気ないと感じるのは私が何もしていないからよ。レオ様がどれだけ貴重な時間を費やして下さったのか、そしてこれから騎士の方も毎日どれだけ大変な任務にあたるのか、それを考えればちっとも呆気なくなどないわ。そうよ、まだ何も終わっていないのですもの。



それでも上手く行きすぎのような気がして。

何か見落としているような、何かが足りないような、そんな漠然とした不安が広がります。

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