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二人は愕然とした表情で声を呑んだ。


驚くのも無理はない。長い学園の歴史にも前例がないことだろう。

それくらい今日までの私達の日常とはかけ離れた言葉だった。


だからヴィルホが疑心にかられるのも無理はない。

「・・・それは確かな情報なのでしょうか」


『残念ながら信ぴょう性は極めて高い』



私のその言葉を聞くとヴィルホは、眉間に手を当て考え込んでしまった。

「毒・・・」



スイーリから知らされたこの先に起こる出来事の中で、最も重大な件がこれだった。

食堂で働くものを利用して主人公の飲む茶に毒を盛ったのだ。そこでお決まりのレオ(あいつ)が大活躍をして彼女は一命をとりとめるのだそうだが、後半部分はどうでもいい。


わかっていることは、毒を盛るのが茶だと言うこと、場所が学園の食堂、そして時期は'初めて雪が積もった日'の三点だ。



『ロニーに食堂で働くものの情報を揃えてもらった 先程全てに目を通し終え 私が怪しいと感じたのはこの三人だ』

書き写した三枚の資料を二人に向けて並べる。


二人は順番にその資料に目を通していく。

「殿下 このもの達に絞った理由をお聞きしても?」

『黒幕と思われる人物から辿った 済まないがその人物については今は言えない』


「黒幕ですか・・・では無差別ではなく特定のものを狙っているということですね」

『そうだ なので厨房のものは無関係だと判断した』


「ではこのもの達を呼び出して問いただしましょう」

『それは不可能だ いつ指示を受けるのか 毒を渡されるのかわからない以上先に動くことは出来ない』

「仲間 というわけではないのですか?」

『ああ 私はそう考えている もしも先にこの三人を保護した場合 計画を変更される可能性が高い』

実行する場所の改変は避けたい。学園の外で狙ってこられると絞り切ることが出来ない。


「今後何らかの脅しを受け 実行犯になるだろう ということでしょうか」

『そうだ 恐らくはまだ接触すらしていない時期だろう』

ゲームの中の公爵令嬢であれば、手先となり動くものを忍び込ませることも容易だろうが、この世界の犯人にそれは不可能だろう。と考えるなら脅迫されたと考えるのが筋だ。


「では黒幕を直接叩かせてください」

黒幕についてはまだ明かせないと言ったばかりだと言うのに。

『証拠がない 理由もなく貴族を捕らえることは出来ないだろう』

貴族ではなくても理由なく投獄するなど許されることではない。


「どうすれば・・・」


『私が囮になる』

「どういう意味ですか!」「いけません!」

二人が同時に叫ぶ。


『証拠がなければ捕まえることは出来ないではないか 場所と時期 これだけ情報が揃っているうちに捕まえなければ 次はどこで狙ってくるのか絞ることが出来なくなる』


「しかし・・・」

「レオ様が囮になることだけは承諾できかねます」




「囮・・・」ヴィルホが何か思いついたように呟いた。

「殿下が囮とおっしゃると言うことは 殿下が狙いと言う訳ではないのですね」


『ああ 毒を盛られるのは私ではない』

二人が、あからさまにほっとした顔をする。


「それではどなたが?」


答えたくない。認めたくない。爪が両の手の平に食い込むほど強く握りこむ。

ゆっくりと視線を上げてヴィルホの目を捉える。


「殿下・・・?」

『スイーリだ』





『茶に毒を盛られるのはスイーリだ』




再びヴィルホが言葉を失った。目を見開き、焦点も合わずわなわなと震えている。それは怒りか?恐怖か?その両方か?

『心配するな 絶対にスイーリに飲ませはしない』



「未然に・・・未然に防ぐことは出来ないのでしょうか」

『出来るなら私もそうしたい 何か案はあるか?』


「・・・せめて毒の種類さえわかれば」

即効性があるが、主人公が助かったことを考えれば命に係わるほどではない。そこまではわかっているが、それを口にすれば絶対に訝しがるだろう。尤も毒の知識が全くないので、そのような毒が何種類存在しているのかすらわからない。


『難しいとは思うが 毒物の流れがなかったか調べてほしい』

「至急お調べ致します」

計画そのものはここ数か月以内だろう。だがそれに合わせて毒物を入手したとは限らない。長年隠し持っていたという可能性だってあるのだ。数ヵ月、数年の流れを追ったからと言って、必ずしも犯人にたどり着く保証はない。



学園で毒を使うものが出るというところまでは話したが、時期についての詳細は二人に話していない。

二人とも近い将来だと考えているだろうがそれでいい。確実だが曖昧な表現なのだ。そんな決行日を指示することは普通に考えてありえない。まあ物語上の設定というやつだろう。後付けの結果と言ってもいい。


朝のうちに積もっていればわかりやすいが、午後から、夕方以降に積もり始めるとなると難しい。

例年だと初雪はすぐに溶けて消えてしまう。それでも一瞬は'積もった'と言えるかもしれない。雪が積もるとは初雪を指すのか、それとも一面を白く塗り替えるほどの日のことなのか・・・

初雪ならばそう表すはずだ、とは思うが言い切る自信もない。



昨日のうちに調べたところによると、去年の初雪は十月二十六日だった。過去十年遡ってみて一番早かったのは十月二十日、遅かったのは十一月八日だ。

十月二十日だと後一週間もない。もう備えておく必要があるだろう。


『ヴィルホ 第二騎士団には毒の知識が豊富な騎士がいたな』

「はい おります」

王族警護を担う為、全ての所属騎士に毒の基本知識はあると聞いている。非公開の情報だがその中でも特に毒に特化した騎士が何名かいるのだ。今まで気にも留めていなかったことだが、頼る日が来ることになろうとは。


『その中で特定の任務に就いていないものはいるか?』

「はい おります」

『一人でいい 暫く借りたい 後もう一人 もう一人の選人は任せる 合わせて二人お願いしたい』

「かしこまりました 至急選出致します」


『ロニー 当面その騎士達と学園に待機してもらえないか 昼休憩の時間だけでいい

 それとなく理由を付けて学園長に許可を取っておく 二十日からで構わない』

「かしこまりました」



『ヴィルホ 念押しになるがくれぐれもこの話はスイーリの耳に入れないでくれ』

「承知しております 口外致しません 担当させる騎士にも詳細は伏せます」

『わかった 騎士には私から必要な部分のみ話しておく』

「よろしくお願い致します」


今やれるだけのことはやった。後はスイーリにどう説明をするか・・・それは一人になってから考えようと思う。

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