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「お帰りレオ!風邪の心配もなさそうだね よかったよー」
『ありがとうイクセル そしてビルがいなかったら今頃は寝込んでいたと思うよ』
「ご無事でよかったです レオ様」
「レオ様お帰りなさいませ お顔を見れてようやく安心致しました」
『ソフィア 心配をかけて済まなかったね』
学園長と話を済ませ急いで戻ってきた。一足先に着いていた仲間たちの顔を見るとホッとする。今日はなんだか疲れたな。
『待たせて済まなかったね 今から話すよ』
ロニーが私の分のカップに紅茶を注ぐ。
「レオ まずは一息ついてくれ 疲れただろう 話はその後でいいぞ」
『ありがとうベンヤミン でもあまり遅くまで引き留めるわけにもいかないからな』
紅茶を一口飲み早速切り出す。
『ビョルケイ嬢は一週間の謹慎処分だ』
全員が呆気にとられた顔をしている。
「・・・あまりの驚きで言葉を失ったぞ」
そのベンヤミンの一言を皮切りに皆が一斉に話し出す。
「ありえませんわ」
「何故謹慎で済んだのですか?」
「僕もまさか謹慎だけとは思っていなかったなー」
「退学でも生温いでしょうに」
と言ったのはビル。ビルがここまで憤慨するのも私からすると驚きだった。
『私は直接会っていないから 学園長からの伝聞になるが
ビョルケイ嬢の話によると 彼女は
~同級生の令嬢に呼ばれて向かっている途中 たまたま偶然図らずもあの場所でバランスを崩し転びかけた~
のだそうだ』
「「「はぁーっ?!」」」
あまりにも皆が同じ反応をするので、思わず苦笑した。そしてもう一言付け加える。
『そして
~生憎非常に不運なことにも偶然あの場に居合わせた方に 藁にも縋る思いで手を伸ばしたところ 一緒に池へ落ちてしまいました~
だとさ』
実はその後にも続きがあった。
~レオ様はご自身よりも私の身の安全を心配してくださって 恐怖に震える私を抱きかかえて救ってくださったのです~
~レオ様は私の命の恩人です 直接お会いしてお礼を言わなければ~
~レオ様は今どちらにいらっしゃるのですか 早くお礼をお伝えしたい~
学園長も呆れながら語っていたが、その割にはすらすらと記憶していたよな。まー気持ちがわからないでもないが。
「偶然居合わせた方・・・その割にはレオ様レオ様と叫ばれていたように思いますが」
「校舎の陰にいたビョルケイを池の向こうから呼んだって言う令嬢が実在しているのなら凄いよな
・・・念力でも使ったのか?」
「ねえレオ 学園長はその話を全て信じたってこと?」
イクセルのその言葉を聞いて、皆が慌てたようにこちらを見た。
『いや・・・それは学園長に失礼だ』
「でしたら何故?」
『・・・私が否定しなかったから だろうな』
「「「えっ?!」」」
「なんで?」「何故だレオ!」「どうしてですか!」
異口同音。本当今日も息ぴったりだな。と、変なところに感心していると、ベンヤミンがさらに詰めよってきた。
「何故だ?こんなの虚言もいいところだろ 何故許したんだ?」
『私も考えたよ 見たままを正直に話すべきか
スイーリ もう聞いているね?ビョルケイは明らかにスイーリを狙っていた スイーリを池に突き落とすつもりだったんだ それが成功していたとしてその後のことをどう考えていたのかはわからない』
『私が事実を告げれば間違いなく退学にはなるだろう が そうなったら今度は学園の外で再びスイーリを狙うかもしれない その時はビョルケイ本人が手を下すとは限らない もし私が側にいないときに狙われたら・・・ それならば目の届く場所に置いておく方がマシではないかと思ったのだ』
皆黙り込んでしまった。
スイーリは真っ青になり震えている。
『スイーリ大丈夫だ 必ず守るから』
「スイーリちゃん 教室の中では僕が守るよ レオも安心して!」
「私もいます スイーリ様をお一人にしないよう側におりますから レオ様もご安心なさってください」
「・・・ありがとうございますレオ様 イクセル様 ソフィア様」
『ありがとうイクセル ソフィア』
すっかり重苦しい雰囲気に包まれてしまった。
頼みのイクセルすらも沈黙している。
『まあ暫くはこれに懲りて大人しくしているだろう いや今頃は恐らく寝込んでそれどころではないだろうな 謹慎期間は大方療養で過ぎてしまうだろう』
出来る限り明るく言い切ることで、この話を終わりにしたかったが、反対に火をつけてしまったようだ。
「レオの後を付けたり こそこそと見ている令嬢は今までにも数多くいたが あれは度を越しているな 異常だよ 頭の中見てみたいくらいだ」
とうとうベンヤミンはあれ呼ばわりし始めた。
「レオがさ 少しでも思わせぶりな態度を取ったのならわからないこともないよ? でもあれだけ冷たくされてへこたれないのだからさー凄いと思うよ あの子怖いや」
「その通りですわ レオ様は常に毅然とした態度をお取りですもの あれほどまでにレオ様がわかりやすい拒絶を示したことは今まで一度もありませんでしたのに それに気がつかないとはどうかしておりますわ」
「あの前向きさはある意味才能ですわ 清々しいまでに周囲に無関心なのでしょう レオ様のお気持ちも含めまして」
『そろそろおしまいにしよう 急とは言えせっかくこうして集まったんだ くだらない話で場の空気を汚すには惜しい』
皆が私とスイーリのことで腹を立てているのはわかる。だがこれ以上聞き続けるのは堪えがたい。
今まであまりによい友人にばかり囲まれていたため、免疫がないのだろうな。負の感情に充てられ続けて少し気分が悪い。
「そうですわね せっかくのカールさんのスイーツが台無しになるお話しはもう止めなくては
失礼いたしました」
「ついまた感情的になってしまったな レオ悪い
・・・ビル これ食べたか?レオが小さい頃から好物だったきのこのタルト 旨いよ」
「僕はこれ これが大好き!ふわふわチーズ」
「イクセル様はどうしてもクレメダンジュが憶えられないのですね」
「そうそう!クレメダンジュ!でもさぁヘルミちゃん これってふわふわチーズの方がぴったりな名前だと思わない?」
懸命に雰囲気を変えようとしてくれることが申し訳なく思う。
たった一人の人間の登場で、こうもかき乱されるとは。そういう意味では間違いなく主役級の存在だ。
皆が帰った後、最後にスイーリを馬車まで送りに行く
『怖い思いをさせたね 一人で帰すのが心配だ まだ顔色も良くない』
「レオ様 私ビョルケイさんが怖くて震えてしまったわけではないのです」
『何か別に気になることでも?』
「はい・・・お伝えしたいことがあります 明日お時間をいただくことはできますか?」
『わかった 明日は迎えを呼ばなくていい ここで話そう 帰りも送る』
「ありがとうございます」
そうしてスイーリは帰っていった。
諸事情により少し休止します。(この先約二十話分は書き上がっていますが、区切りが悪いため[159]で止めることにしました。)




