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「レオ様 スイーリ様お帰りなさいませ」

『ただいまロニー』

「よろしくお願い致します ロニーさん」


スイーリの手を取り、馬車に乗り込もうとした。何度も何度も繰り返してきた行為だ。今日も何の問題もなく乗ることができるはずだった。

がしかし、スイーリがステップに足をかけようとしたその時、信じられないことが起こった。


いきなり何者かがスイーリを押しのけ、先に馬車へと乗り込んだのだ。

何者などと濁す必要はなかったな。こんなことが出来るものはこの学園に一人しかいない。もう名を出すことすら忌々しい。

呆気に取られて動けない私達とは違い、ロニーは素晴らしい従者だった。

「失礼致しましたレオ様 今日はもうお一人お誘いでございましたか」

ロニーの目は節穴ではない。これは質問ではない、許可を待っているのだ。

『いや スイーリだけだ』

「かしこまりました」


「お願い致します」

ロニーが御者に合図すると、御者の一人が一瞬で馬車の中へと移動し不要物を排除した。そして何事もなかったかのように御者台へと戻る。


安全を確認して、今度は確実にスイーリを馬車の中へ案内する。そして私が乗り込もうとすると、ようやく我に返ったらしいビョルケイが喚き始めた。

「何するのよ! 私こそがレオ様の恋人よ!無礼なあんたたちなんかレオ様が牢屋にぶち込んでくれるわ!

・・・待って そこにいるのはロニーじゃない レオ様の従者が私にこんなことしていいの?レオ様騙されないで!降りなさいよ!そこは私の場所なんだから!」

ビョルケイの戯言に惑わされるものなどいない。

最後にロニーが乗り込み扉を閉めると馬車はすぐに動き始めた。




はぁー。

膝に肘をついて頭を抱える。疲れた。



『スイーリ 色々と済まなかった そしてロニーありがとう

 助かったよ・・・』


はぁー。

ため息しか出ない。疲れた。



「スイーリ様 あのご令嬢が何者かお聞かせいただくことはできるでしょうか お見受けしたところ新入生のようでしたが」

ロニーがスイーリから情報を得ようとしているようだ。済まない、今私はあの名を口にすることすらしたくない。


「はい あの方は新入生のビョルケイ男爵令嬢でございますわ お名前は・・・先程おっしゃっていたような気もしますが 申し訳ございません憶えておりません」

「充分でございます ビョルケイ男爵令嬢―確かに記憶致しました しかし驚きました 私の名前までご存じとは・・・私も有名になったものです」


そうだ。あの時ロニーの名を確かに呼んでいたな。王都に来て日が浅く、学園にも入ったばかりの令嬢が私の従者の名前を把握している・・・何でも知っていると言っていたのはまんざら嘘でもないというわけか。




馬車は静かに走り続け、間もなく八番街に到着した。

「レオ様 ごゆっくり息抜きなさってくださいませ」

ロニーがいつもは言わないことを口にした。校舎の中の様子は見ていないだろうが、馬車の一件だけで充分状況を理解したらしい。

『そうだな・・・そうさせてもらうよ』



目の前にあるカフェに入る。清潔な笑顔の店員が応対にやってきた。

「いらっしゃいませ いつもありがとうございます 二階のお席でよろしいでしょうか」

『ああ それと今からもう二人来るので 案内も頼みたい』

「承知致しました」


二階の角、鍵型の長椅子の席がこの店で私達の定番の席だ。

椅子に座ろうとした時、階段を上ってくるベンヤミン達の姿が見えた。

「はぁーっやっと落ち着けそうだな」

『ああ・・・長かった』


「馬車の前でも騒動を起こしていたな 止める暇もなかった 悪かったなレオ」

『謝るな ベンヤミンに責任はないさ あの行動を読めるものなどいない

 ・・・止めよう この話はもう』



心底うんざりしていた。新学期が始まってまだ半月足らずだが、その大半をたった一人の新入生によってかき乱されている。これが一年続くのか?

気がつくとまた頭を抱えていた。駄目だな、止めようと言っておきながら自分が抜け出せないでいる。


『注文がまだだったな』

「レオ様もプレートを注文してよろしいですか?」

日替わりで菓子が数種類盛り合わせられている、このカフェで一番人気のメニューだ。

『ああそれにしよう』

プレートを四つと紅茶をポットで注文する。


重苦しい雰囲気の中、場違いとも言えるほど華やかなプレートが並べられた。紅茶が注がれると再び沈黙になる。

「レオ 避けたい気持ちはわかる でもなスイーリもソフィアも見てしまったんだ 明日には確実に学園中の噂になるだろう それならいっそ今日はきちんと話をしようぜ 俺達でレオを守る計画を立てるんだ」

逃げても始まらない、迎え撃て。ベンヤミンが言いたいのはそう言うことか。



『・・・驚いただろうソフィア スイーリ


 新学期初日からあの調子なんだ 正直どう接するべきかわかりかねている』


「俺は今日のレオは正しかったと思うぜ ああいったやつには回りくどい言い回しは通用しないだろうからな」

俺も少し驚いたけどな、とベンヤミンは付け加えた。


「あの・・・ベンヤミン様一つよろしいでしょうか?」

スイーリが聞きにくそうに躊躇いながらもベンヤミンに問いかける。

「俺?うん何でも聞いて」

「ビョルケイさんはベンヤミン様とお知り合いではないですよね?何故あのように親しげなのでしょう」


「親しげだって?!止めてくれよスイーリ 俺も初日の帰りに初めて会ったんだけどさ 顔を見るなりいきなり呼び捨てされた時は本当驚いたぜ ソフィアだって一度も呼び捨てなんかしたことないのにさ」

「当然ですわ ベンヤミン様が呼び捨てされた時には私 あの方の頬を打ちたくなりましたわ」

温厚なソフィアをここまで苛立たせるとは。


「レオを一人にさせないことがまず基本だな・・・とは言っても今日俺達四人でいたよな 四人でも太刀打ちできないってどういうことだ?」

「レオ様 お帰りの時は入口まで護衛の方に来ていただくのはどうでしょうか

 学園内に護衛の方を置かれるのは レオ様も本意ではないと思われますのでせめてお迎えだけでも」

「そうだな!馬車でのあれ見事だったよな!あっという間に連れ出してさ」

『それがいいのかもしれないな・・・』


「お!素直だな 嫌がると思ったけど ソフィア凄いぞ レオをすんなり説得できるなんてさ」

『多くのものに迷惑をかけたんだ 私の我を通すべきではない 護衛がいることで抑止になるならその方がいいだろう』



それを聞いたスイーリが少し寂しそうな声で呟く。

「何故レオ様がご自身を曲げて辛い思いまでしなければならないのでしょう 私悔しいです」

『ありがとうスイーリ でもそんな風に捉えなくていいよ あの令嬢に取られる無駄な時間を省けると考えれば そう悪いことでもない』


「あいつが入学さえしてこなければ そもそもこんなことにはなってなかったけどな」

『そう言うな 合格した以上学園生の一人だ 進級できるかは別の話だけれどな』

本音ではベンヤミンの言葉に頷きたかった。私もあの頓痴気を合格させたことを恨めしく思っているのだから。

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