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新しい一年が始まる。学園で過ごす最後の一年だ。

真新しい紺色のクラヴァットを巻いて校章を止める。


今日がこの世界の'初日'だ。

私達が悩み、考え懸命に生きてきた昨日までの年月は、この世界から見れば序章に過ぎないらしい。

―そんなこと当然信じてはいないがな。


この世界がどういう形で存在しているのかは今もわからない。だが私達は昨日までも今日からもここで生きている。この世界はここで生きる全ての人間のものだ。設定?ふざけるな。


私は昨日までと全く変わらずにスイーリのことを大切に思っているし、スイーリは聡明で優しい非の打ち所がない公爵令嬢だ。何が悪役だ寝言は寝て言え。



「随分と厳しいお顔でございますね」

支度を済ませ馬車へ向かう道すがら、ロニーがやや躊躇いがちに言った。

『そんな顔をしていたか・・・気がついていなかった』

自分の表情一つですらも周囲に影響を及ぼすことを、私はもう理解している。


『ロニーに言われて助かった 気を付けるよ』

ロニーもそれ以上何も言わない。

「何かございましたら お申し付けくださいませ」

とだけ告げると静かに馬車の扉を開いた。

『わかった 大丈夫だ もう抱え込んだりはしていないよ』

過去に失敗をして、周囲を巻き込んだことは反省している。それ以来悩みが大きく膨らむ前に打ち明けようと心掛けていた。幸いここのところ悩みらしい悩みもない。毎日が充実していて満たされていると感じている。



今日新入生はまずホールで入学式、上級生は通常授業だ。

校舎へ入り、新しい教室を目指す。

二年間休むことなく通いすっかり慣れ親しんだ学園だが、新学期初日は独特の雰囲気に包まれている気がする。少しだけぴりっと張り詰めたように感じるこの空気が私は好きだった。


『おはようビル 今朝も図書館へ?』

「おはようございますレオ様 はい 図書館に寄ってから来ました」

三年目の朝もすっかり慣れたこの挨拶から始まった。二年間常にクラスメイトだったものの一人、ビル。


『とうとう最後の一年だな・・・あ ビルは専科へ進む予定なのか?』

「まだ決めかねています」

『そうなんだ』

ビル程優秀ならば簡単に推薦が取れるだろう。迷わず専科へ進むものと思っていたが。



「おはようレオ!ビル!相変わらず二人は早いな」

「おはようございますベンヤミン様」

『おはようベンヤミン いつもより早いな』

「そうだろう?なんだか一人だと落ち着かなくて早く出ちまった」

『そうか・・・デニスは寮に入ったのだったな』

「なんだか邸が広く感じるよ 妙な感じだ」


次々とクラスメイトが登校してきた。

「おはようございます また一年よろしくお願いします」

「おはよう!こっちこそよろしくな」

『おはようマルクス』


「おはようございます 皆さま」

「おはようございます ヘルミ様」

『おはようヘルミ』


よかった、何も変わらない。

今日からの一年も今までと同じ生活が待っているに違いない。


初日に誓った[一つの憂いも残すことなく卒業できるよう励む]

最後の一年だからと特別なことをする必要はない。今までと変わらず一日一日を大切に。

クラスメイトたちの笑顔を見ながら、そう考えていた。

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