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[147]spin-off

本日も私の話にお付き合いいただきありがとうございます。

今日は王子殿下にお仕えしてからの話を中心に、お話しさせていただこうと思います。



殿下にお仕えして三年が過ぎた頃、ノシュール領へのご公務の話が決まりました。

成年前の王族にご公務が発生することはないとお聞きしておりましたため、私も少々の驚きはございました。

主も気が進まないご様子で、ふとした折にため息をつかれることも増えておりました。



お仕えして三年も過ぎますと、主の人となりと申しますか、ご気性もほぼ把握できたと自負できる頃でございます。

僭越ながら我が主についてご説明申し上げるならば、まず第一に克己心が非常にお強い方でございます。

大変な努力家でございまして、時には頑固とすら思えるほど妥協をなさらない方でございます。


剣の稽古は毎日欠かさず続けておられます。指導なさっておられる騎士団の副団長にお伺いしましたが、既に騎士に近い実力をお持ちだとか。これだけはどれだけ申し上げましても、決してお休みいただけません。そして私には隠しておいでですが、夜間にも鍛錬なさっているようでございます。


何故知っているのかと?

・・・それに関してのお答えはご容赦くださいませ。

夜間の鍛錬をお止めしないことには理由がございます。どうやら一日の終わりのその時間は、殿下にとって貴重な息抜きの時間のようなのでございます。息抜きの方法も様々なのだと、主を通して改めて気がつかされた次第でございます。



当然ながら努力なさっておられるのは剣術だけではございません。

学園に入学されるお年になるまでは、ご友人の方々と家庭教師について学ばれておられました。


ご友人の方々がお帰りになると、お部屋に戻られ勉強を再開されます。家庭教師の授業が全て座学というわけではないとは言え、殿下のお年で一日の大半を自ら勉学に費やすと言うことには、唯々感服いたします。

また、夕方のこの時間は時折私にお尋ねになることもございまして、お教えできることを大変光栄に思っております。


お気づきになられましたか・・・そうなのでございます。この言葉を用いることが正しいかわかりませんが、殿下はとても素直な心根をお持ちの方なのでございます。従者から教わることを決して疎んずることがございません。それどころか必ず感謝の意をお伝え頂きます。



が、この後のお話しにも続くことですが、殿下も完全無比と言う訳ではございませんでして、ああ誤解のなきよう・・・決して誹謗の意図はございません。


これだけ日々努力を怠らず、文武に渡り極めて優秀な成績を収めておいでですのに、残念なことにとても自己肯定の低いお方なのです。

私のお仕え方が悪いのではと考えることもございました。その悩みについて誰かに打ち明けることも出来ず、日々模索しつつのお仕えになってしまうことが心苦しい限りでございます。



ここで最初の話に戻らせていただきます。

ノシュール領でのご公務・・・細かい話につきましては割愛させていただきます。


ご公務前夜、殿下は初めて私に心の内をお明かしになられました。

それは王の子としてお生まれになったお方にしかわからない苦悩でございました。

ですが偉大な父を前にして、萎縮してしまうような自信を失いかけるようなことは私にも経験がございます。国を統べる陛下をお父上に持つ殿下と、私などを同列で語ってよいわけがございませんが、父に追いつきたい、並びたいと願う気持ちはそう違いないと思うのです。


とはいえそのお悩みに的確な答えをお返しできるはずもなく、しかしほんの僅かでもいい、殿下のお心を軽くして差し上げることが出来たら、そう願い稚拙な言葉ではありましたが、お話しさせていただきました。


その時、つい感情が高ぶってしまい殿下のお名前をお呼びしてしまったのです。お名前をお呼びすることは疾うにご許可を頂いていたものの、なかなか決心がつかないままでございました。自分でもどうしてあの時お呼びしてしまったのか・・・今でもよくわかりません。


しかし殿下、レオ様はそのことを何よりもお喜び下さいました。

こんなにもお喜び頂けるのなら、どうしてもっと早くお呼びしなかったのか。今度はそのことを後悔してしまいましたが、光栄にも私はこの先も何年、何十年とレオ様にお仕えさせて頂くことが出来ます。これからはずっとお名前をお呼びさせて頂こうと静かに誓いました。



翌日のご公務のご様子は、私から申し上げる必要はないでしょう。

大変ご立派に、堂々とこなされておりました。あの日あの場に立ち会った全ての方は、そのお姿にこの国の未来は明るい、行く末は安泰だと感じたことでしょう。私も大勢の民を前に話される我が主の姿を見て、大変光栄に、誇らしく感じておりました。私はこのお方にお仕えしているのだと。



九歳がレオ様にとって最初の転機であったことは明白のようです。その時にお仕えすることが叶わなかったことだけが残念でなりません。そして今日お話ししましたレオ様の初ご公務は、従者としての私の転機であったように思います。


それまでは、常に完璧を求めていらっしゃるお方、最も完全に近いお方とでも言いますか、どこか自分とは違う遠い存在のように考えておりましたが、レオ様も血の通った私どもと同じ人間だと言うことを強く認識した旅でございました。


レオ様の二度目の転機は恐らく十六歳の夏でございます。その話も是非させて頂きたかったのですが、どうやら私は話が長いようですね。今日はもうお時間のようでございます。

次の機会が頂けるとありがたいのですが、ひとまず今日のところはこれで失礼させて頂きます。

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