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「とってもお似合いでございますお嬢様」
「ありがとうカリーナ 髪はどうしようかしら」
髪飾りは布で出来た百合の花を選びました。大きめの花からやや小ぶりのものまで何輪もの白い百合だけが組み合わせてあります。お店の方に伺った話によりますと、この衣装にはこのような布で出来た花を合わせるのが決まりなのだそうです。
ヘルミ様はスモーキーなピンク色の大きな一輪の薔薇を、ソフィア様は散りばめるようにいくつもの小さめの薔薇を、そしてアンナ様はドレスとお揃いの花柄の布地で作られたお花をお選びになっていました。
「ふんわりとまとめて左側に飾るのはいかがでしょう」
カリーナが軽くまとめて見せてくれました。素敵ね。
「ありがとう カリーナにお任せするわ いつだってあなたのセンスは完璧ですもの」
「ふふ ありがとうございます お嬢様がお美しさがあってこそ でございますよ」
「完成しました いかがでしょうか」
頭のてっぺんよりやや左から、顎先にかけて沿うように花が飾られました。このようなアクセサリーを付けるのは初めてです。素敵ね。
「とても満足よ」
立ち上がって全身も映してみます。靴はドレスに合わせてベージュのものを選びました。
「お美しいです お嬢様」
「ありがとう カリーナ」
「そうだったわ カリーナにもお土産があるのよ」
今日のお買い物の包みを開きながらカリーナと話をしていると、部屋の外から声がかけられました。
「お時間のようでございますね」
「行きましょうか」
廊下に出ると、お隣の部屋からソフィア様が出てこられました。淡いピンクのグラデーションがとても似合っていらっしゃいます。髪も素敵!緩く一本に編込んだところにたくさんの薔薇を挿しておられます。ソフィア様の雰囲気にぴったりだわ。
「スイーリ様 とてもお似合いです 百合にして大正解でしたわね」
「ありがとうございます ソフィア様も素敵ですわ 思わず見とれてしまいました」
その場でソフィア様と、ヘルミ様アンナ様が来られるのを待ちます。
お二人もすぐに出てこられました。
「申し訳ございません お待たせしてしまいました」
「ごめんなさい 遅くなってしまいました」
お二人もとても素敵に着こなしていらっしゃいます。
ヘルミ様の大人っぽい金青一色のドレスには、白いショールとピンクの薔薇が大変映えています。
アンナ様はお揃いのショールやアクセサリーが、まるで誂えたかのよう。
四人で食堂へ向かいます。レオ様達は先にいらしているのかしら。
食堂に近づくと、イクセル様の声が聞こえてきました。
「ふふ もういらしているようですわね」
ヘルミ様にも聞こえたようです。
「イクセル座れ!邪魔だ 見えない!」
「なんてこと言うんだよ 酷いやベンヤミン!」
入り口に背を向けていらっしゃるイクセル様の向こうから、ベンヤミン様がこちらを見ていらっしゃるのがわかります。ふふふ、ソフィア様がイクセル様の陰になってしまっているのね。
「イクセル ご令嬢達がお困りだ とりあえず座ってくれないか」
デニス様のお声がけで、イクセル様はようやく私達の存在に気がついて下さったようです。
「あっごめん!そう言うことだったんだね わー!皆今日のドレスに着替えたんだね」
「お待たせ致しました」
レオ様と目が合いました。どうかしら、このドレス似合うと言っていただけるかしら。髪型は変ではない?鏡の前では満足したはずなのに、ドキドキして落ち着きません。
「スイーリの席はレオの隣だ」
アレクシー兄様が席を教えてくださいました。
「ありがとうございます 兄様」
「ほうーそれがパルードの・・・皆美しいですな よく着こなしておる」
叔父様も目を細めていらっしゃいます。
「ありがとうございます 叔父様」
「マルムベルグ様 ありがとうございます」
「レオ様 お待たせ致しました」
レオ様にも一言ご挨拶申し上げてから席につきました。
『よく似合っている 髪型も素敵だよ スイーリには百合もよく似合うね』
頬が熱くなっていくのがわかります。でも嬉しい!レオ様に褒めて頂けると自信と勇気が湧いてくるのがわかります。
「ありがとうございます レオ様」
全員が席についたところでシャンパンが注がれました。
「殿下 一言頂いてもよろしいですかな」
レオ様がグラスを持って皆さんを見回されました。私達もグラスを持ちます。
『フレッド 改めて卒業おめでとう ステファンマルク最後の夜を楽しんでほしい 乾杯』
「ありがとう レオ 皆さん 乾杯」
「「「乾杯」」」
グラスを合わせます。『乾杯スイーリ』「乾杯レオ様」
「ほんといつもレオの挨拶は短いよな」
「最小限のことしか言わないもんね」
『挨拶など短いに越したことはないんだ』
「いつもそう言うよな レオのポリシーなのか?」
これは毎回交わされる会話です。もうそれは決まり事かのように。何度聞いても笑ってしまいます。
「さて 早速出てきましたぞ」
何かしら?今日の晩餐のお目当ての品のようだわ。
「生のカニを取り寄せました アレクシーから頼まれましてな
フェデリーコ殿下 ダールイベックのカニをご堪能下さいませ」
「ありがとう 嬉しいな
憶えていてくれたのだね アレクシー」
「はい お持ち帰り頂けないことが残念ですが ここで堪能して頂ければと思います」
私も生のカニは初めて頂きます。アレクシー兄様も食べたことがないと言っていましたから、王都から参りました私達は全員が初めての味、というわけですね。
目の前のお皿には真っ白なカニの身が並んでいます。不思議な姿をしているわ、なんと表現したらいいかしら・・・まるでタッセルのよう?
「生のカニを初めて見ましたが 想像していた形とは違いましたわ」
「ええ 少し表現は違うかもしれませんが タッセルのようですわね」
アンナ様にもタッセルに見えるのね。そうよね、本邸で茹でたものをお出ししましたから、その時の様子とあまりにも違って、私もびっくりです。
「これはつい先程まで海にいたカニですからな」
叔父様が自ら説明を買って出て下さいました。
「この身がほぐれて割れているのが新鮮な証拠ですぞ さあさあ新鮮なうちにどうぞ」
一切れ切って口へ運びます。なんて味が濃いのかしら、そしてとても甘いわ。美味しい―
「美味しいね 茹でたものもとても美味しかったけれど それとはまた別の甘みだね パルードへ持って帰ることが出来ないのが残念でたまらないよ」
『旨いな 花みたいな見た目も華やかでいいな』
フレッド様とレオ様もお気に召したご様子です。
その後のお料理も、港の町らしく新鮮な魚介を使ったものが用意されていました。きのこのソースがかかった白身魚のムニエルや、帆立貝のクリームソースが特に美味しかったわ。
そして最後のお料理、ベリーのソルベが出されました。いよいよ晩餐も終わりが近づいてしまったようです。
「この一週間 良い思い出が沢山出来たよ 一人で向かうものと思っていたこの港へ こんなにも楽しい旅が出来たなんてね ありがとうレオ そして皆さん楽しい旅を続けてね」
私達もフレッド様とご一緒出来たことは大変光栄なことでした。ありがとうございました。またお会いできる日を楽しみにお待ちしております。




