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全員にプレゼントしてもよかったのだが、ドレスを贈ると言うことには特別な意味がある。

特に初めて贈られるドレスには夢を見るものなんだろうと思う。だからベンヤミンもソフィアに「贈る」とは言い出さない。そしてきっとフレッドもこの国の風習を知っているのだろう。


『アンナとスイーリのショールはドレスと対のようだが ヘルミとソフィアは他のものを合わせてみなくていいのか?』

「はい 私はこれがとても気に入りました」

「私もこのドレスにぴったりだと思いますのでこちらにしようと思います」


『ではショールだけでも贈らせてもらえないか 今回の旅に付き合ってくれたお礼も兼ねて貰ってほしい』

「私も明日の見送りのお礼に 髪飾りを贈らせてもらうよ」

フレッドもすかさず申し出てくれた。


「「「「ありがとうございます レオ様 フレッド様」」」」


『こちらこそ』

「どういたしまして」



店を出る頃には正午を回っていた。

「思ったより時間が過ぎていたね」

『そうだな そろそろ休憩しようか?』

「僕パルード料理のお店に行ってみたいな ここで昼食にしようよ」

「私も パルードの料理を頂いてみたいです」

『イクセルとアンナの要望も出たことだし この辺りで探そうか』


「レオ 少し待ってて 私が聞いてくるよ」

フレッドが近くでたむろしていた男達に何やら聞いている。指し示した方を見ながら何度か頷くと、全員と握手の後ハグを交わし戻ってきた。


「美味しいお店を聞いたよ 行ってみましょう」

少し歩いた先は広い円形の広場になっていた。噴水を中心にワゴンもいくつか並んでいる。その広場を取り囲むようにレストランやカフェが立ち並ぶ中で、フレッドは迷うことなく一軒の店を目指していた。

「ここですね 入ろうか」


大きな鍋にトマトやオリーブをあしらった看板が下げられたレストランの中へ入った。

〈いらっしゃいませーようこそー〉

大きな赤と白のチェック柄のクロスがかけられたテーブルが並んでいる。既に何組もの客がワインを片手に食事を楽しんでいた。


窓際の大きなテーブルに案内される。

「美味しそうな匂いがするね 皆何を食べているのかなー」

胃袋を刺激する匂いが漂う。これはイクセルでなくても気になってしまうだろう。

「皆さんパルード料理は初めて?気になるものはありますか?」


『フレッドに任せようか フレッド選んでもらえないか?』

「いいのかい?ではまず飲み物から頼もうか」

フレッドが飲み物といくつかの料理を注文する。


最初にフルーツがどっさり入ったピッチャーが二つ運ばれてきた。

「サングリアだよ 赤い方は赤ワインだね そしてピンク色の方はガス入りの水と蜂蜜も入っています お好きな方をどうぞ」

皆のグラスが満たされた頃、タイミングよく料理が運ばれてきた。

大きな皿に透き通るようなハムがたくさん乗っている。ハムと一緒に形よくカットされたメロンやトマト、オリーブなども添えられていた。


「生ハムだよ パルード料理と言えばまずこれから始めないとね」

「生 ハム?生のハム?ですか?」

「そう パルードではハムと言うとこれなのだよ レオは知ってるだろう?」

『いや 私も初めて見る』

「そうなのかい?叔母上がいらっしゃるからてっきり食べ慣れていると思っていたよ」

今まで王宮では供されたことがない。母上はもしかすると生ハムと言うものが苦手なのかもしれない。


皆恐る恐る手を伸ばす。

フレッドを見ると、器用にメロンにハムを巻いて口へと運んでいる。

「うん とてもいいハムだよ これはワインが欲しくなってしまうね」


「旨い・・・

 見た目は少しサーモンに似ているが 塩気もあってとても旨いぞ!」

なるほど。サーモン好きのデニスの口には大変合うようだ。


「旨い」「美味しいー!」

「美味しいです」

皆大絶賛だ。確かに旨い。


『旨いな 何故今までこれを知らなかったんだろうな 惜しいことをした』

よく知るハムとはまるで違う。ねっとりと絡みつくような食感。それでいてくどくもなくて何枚でも食べてしまいそうだ。

「気に入ったかい?」

『ああ 何故王都に出回っていないのだろうな それの方が不思議だよ 日持ちがしないのか?』

生と言うくらいだからな。それくらいしか理由が思いつかない。


「いや これはね相当日持ちがするんだよ うーん一年は平気かな」

『肉なのにか!それは凄いな』

ますますステファンマルクでの知名度のなさが不思議でならない。


「レオが広めてくれるかい?パルードの生ハムがこの国でも受け入れられると私も嬉しいよ」

『これは 王都に持ち帰りたいな』

フレッドが「わかった 任せてよ」と片目を瞑ってみせた。


「いいねー!僕も王都で食べられるようになってほしいと思う」

『そうだな・・・フレッド 向こうから送ってもらうことはできるか?』

「うん そのつもりだよ 早ければレオ達が王都に戻る頃には届くはずさ」

『ありがとう 皆にも届けさせてもらうよ』

「一番良いものを送るよ 皆さんも楽しみに待ってて」

再び歓声が湧き起こった。


「フレッド様 ひとつお伺いしても構いませんか?」

「どうぞベンヤミン」

「この店は何と言って紹介されたのですか?通りで話されていた様子がとても気になって」


「ああ この街で一番美味しいハムを置いている店を聞いたらここを紹介されたのだよ」

「ハム!この生ハムのことですね」

「うん そう パルードではね美味しい生ハムを出す店は どの料理を食べても美味しい これは有名な話」

『面白いな わかりやすくてとてもいい』

「だろう?だからこの後に出てくる料理も期待していいよ」



フレッドの言葉は正しかった。

とろみのついた冷たいトマトのスープ、茄子とパプリカのマリネ、帆立貝のパン粉焼きに何種類もの野菜がぎっしりと詰まった大きな丸いオムレツ、鶏肉のピーナッツソース煮込み、そしてこれも絶品だったのが牛の尾を煮込んだという料理だ。


「どのお料理も美味しいですわ」

「ええ とっても!パルードのお料理が大好きになってしまいました」

「俺も どれも旨かったよな」


「まだですよ デザートを食べなくては ねっアンナさん」

フレッドの言葉に、アンナは照れながらも喜びを隠せないようだ。

「嬉しいです!甘いものも気になっておりましたの」


最後に用意されたのは大きなプリンとフルーツサラダだった。

プリンが切り分けられて皿の上に乗せられていく。その横にサラダも添えられた。

「このプリンもきっと皆さん初めての味ですよ パルードのフルーツサラダはとても美味しいからこれも楽しんでね」

珈琲も運ばれてきた。パルードは紅茶より珈琲が主流のようだ。


「まあ!このプリン何が入ってるのかしら!」

アンナが目を丸くして驚いている。スイーツでアンナを驚かせるとはフレッドやるじゃないか。

「皆さん早く召し上がって!とても美味しいですわ!」


「美味しいー!」

「初めて頂きました オレンジではありませんか?とてもいい香りがしますわ」

「ヘルミさん 正解 オレンジプリンですよ 美味しいでしょう?」

「はい 美味しいです」


「旨い 俺このプリンの方が好き」

「美味しいねー ねっこれレオが好きな味だよね」

『よくわかるな うん旨い』

毎回イクセルに好物を言い当てられている気がする。そんなにわかりやすく態度に出していたかな。


『このサラダも好きだな なんでこんなに旨いんだろうな』

ひとつひとつはよく見かける果物なのだ。ベリーなどはステファンマルクで採れたものだろう。なのにこの冷たく冷えたサラダは味わったことのない旨さだった。


「レオはいつも美味しそうに食べるから 見ていて気持ちがいいよ パルード料理を気に入ってもらえて私も嬉しいしね」


『フレッドのおかげだ この店に案内してもらえたことも感謝しないとな』

「レオ そして皆さんもいつかパルードへ来てください 紹介したいものが沢山あるよ」


「はい いつか必ず伺います」

『約束するよ 私も必ずパルードへ行く その日を楽しみにしているよ』

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