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ダールイベック領へ行く準備もほぼ整った。

ノシュールの時と違い今回は名目上視察としている為、馬車や護衛も全て王宮で用意している。


今回の護衛はヴィルホが予めリストに上げてきた中から相談して選んだ。雪合戦が出来る季節ではなかったから、ではない。今回選出したものたちが、そのまま来年以降鳶尾宮の専属騎士になるそうだ。ノシュールで一緒になったものも多く、ほとんどが馴染みの顔だ。



「レオ 忙しかったかな?」

フレッドが訪ねてきた。

『いや そろそろ終えようとしていたところだ 入って』


フレッドの後ろから入ってきた彼の従者が、ロニーにワインを渡してあれこれと説明している。

「最後に二人で飲もうと思って パルードのワインはどう?」

『嬉しいな テラスに出ようか』


開け放たれている窓からは、今夜は特に心地よい風が入り込んでいた。

ロニーが手早くテラスを整える。あかりを灯してグラスを二つ並べた。



「乾杯」『乾杯』


「明日にはここを去るのか 実感が沸かないな」

『ステファンマルクでの二年はどうだった?』

「この国に来て良かったよ ステファンマルクの音楽は素晴らしい」

『満足してもらえたなら良かった』


「またすぐ来るよ 来年はレオのお祝いに来ないとね」

『来てくれるのか ありがとう』

「当然だろう?それにね こんなに涼しい夏を知ってしまってはパルードの夏は耐えられないよ」

くっきりと日焼けの跡が残る腕を見せられた日が、ついこの間のようだ。


『フレッドがそこまで言うとは パルードはそんなにも暑いのか 想像できないな』

「うん パルードへ来るなら冬にするといい」

パルードには雪が降らないという。ずっと秋のようなものなのだろうか。紅葉はあると言っていたから木々の変化はここと同じなのだと思うが、それで雪のない景色というのもなんだか不思議だ。



「その後はアンナさんが十八になる年に一回 そして専科を卒業したら迎えに来るよ」

専科?

『アンナは専科へ進む予定なのか 知らなかったな』

「私が勧めたのだよ さっきも言ったけれどステファンマルクの音楽はとても素晴らしい

 私はパルードを愛しているし パルードに生まれたことを誇りに思っている でも音楽はこの国の方が数段上だと思っているよ」

『そうか』


「だからアンナさんにもその素晴らしさを充分に味わってもらいたい せっかくこの国に生まれたのだからね レオからも勧めてあげてくれないかな」

『わかった いつか二人の演奏も聴きたいな』

「きっと聴かせるよ 聴いてほしい」

『その日を楽しみにしているよ』


フレッドの愛の深さを改めて知った。海を隔てて遠く離れ離れで過ごすのだ。一日も早く呼び寄せたいと言ったところで驚くことはなかっただろう。だが己の願望よりもアンナの才能や望みを第一に思うフレッドの心の広さには、一友人として感謝の言葉しかない。


『未来のパルード国王夫妻は一流の音楽家でもあるのだな 従弟として友人としても鼻が高いよ』

フレッドは一瞬目を瞠ったかと思うと相好を崩した。


「レオ もう一度言ってくれないかな」

『ん?一流の音楽家だろう?』

「ああ それもとても嬉しいのだけれど その前を」



『フェデリーコ陛下とアンナ妃殿下 未来のパルード国王夫妻に乾杯』

フレッドとグラスを合わせた。

「ありがとうレオ アンナさんと巡り会えたのもレオのおかげだよ いつかこの恩を返す機会を私に与えてほしい」

『私は何もしていないさ 大切な従兄と友人が結ばれる 私にとってもとても喜ばしいことだ

 フレッドが側についていてやれない間は 私達全員でアンナを見守っている 安心してくれ」


「うんお願いします そうだお願いのついでにレオ 時々で構わない アンナさんのパルード語の話し相手になってあげてもらえないかな」

『喜んで 私にもいい勉強になるよ』

「レオのパルード語は完璧だ 王族特有の言葉も全て理解しているからね よろしく頼むよ」


《殿下の御心のままに》

〈うむ 良きに計らえ〉

「あはは これ一度言ってみたかったんだよ」

『ダメだな 笑っては台無しだったぞ』


〈レオ いつの日か私達の時代が来た時 パルードとステファンマルクは今以上に手を取り合おう その先の未来幾代も先の子孫の代までもこの関係が続くように〉

《そうだな パルードはいつまでも私達の友人であり家族だ》

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