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今日で二年生の授業も全て終わった。一年前と同じように今私は図書館でのんびりと時間を潰している。

去年と違うことがあるとすれば、ベンヤミンの隣にイクセルがいるということくらいだ。


この一年も充実した実り多い年だった。

一年前の夏休みには周囲のものまで巻き込み多大な迷惑と心配をかけた。

あれ以降私はそのことで悩んだことはない。自分の中で過去との折り合いをつけることが出来た。まあ憶えていないしな、そんな振り返りようもない過去のことよりも、今私はこの世界でやるべきこと、やりたいことがたくさんある。悩みなどに費やす無駄な時間はないのだ。



よく晴れた五月のある日、ヴィルホ―リリエンステット侯爵の挙式があった。今までにも挙式に呼ばれる機会は何度かあったが、七年という長い期間毎日指導してくれた師の挙式に参列したことは、特別感慨深いものがあった。

そのヴィルホの結婚以降の私の鍛錬相手のことだが、結局毎朝アレクシーが寮から通ってきている。ヴィルホからお役御免になった話(私はそんな言い方はしていないが)を聞いたアレクシーは、誰にも後任の座を渡さないと強く主張したそうだ。騎士科の鍛錬禁止の規則を守りアレクシーとは日曜日を除く週に五日、鍛錬を共にしている。残りの二日は宿直で王宮に留まるヴィルホが付き合ってくれていた。



アンナも毎日頑張っているそうだ。日曜日になると朝からフレッドが邸にやってきて、自らパルードの言葉やしきたりなどを教えていたらしい。その合間に二人を結ぶきっかけとなった音楽も楽しんでいるようだ。

まもなくフレッドは帰国するが、二人なら大丈夫だろう。



「レオ イクセルそろそろ行こうぜ」

両手を上にあげて伸びをしながらベンヤミンが声をかける。

「そうだね 行こうか」

『行こう』


本を棚に戻して図書館を出た。

「去年も同じことしていたな」

『だな あれからもう一年が経ったんだな』


数歩先を歩いていたイクセルが振り返る。

「ねえねえ 食事が終わったら合流するんだよね?楽しみだなー」

「去年はさ 合流した途端デニス兄のクラスの令嬢にレオが囲まれて大変だったんだぜ」

「そうだったの?それでそれで?」

今更そんな古い話どうでもいいだろう。なのにベンヤミンは面白そうに話して聞かせている。


「マルクスってわかるか?ホベック語取ってるやつなんだけど そいつが救出した」

「えー!それだけじゃわかんないよー気になる!おしえて!」

『もういいだろうそんな昔の話』

「昔って たった一年前じゃないかー」

『昔は昔だ』


「まあな 今年はその心配もないだろうしな」




「レオ様」

中庭から戻ってくるところだったスイーリ達と廊下でばったり会った。

「レオ様達もご一緒だったのですね」

ヘルミとソフィアも合流しながら食堂へ向かう。


「じゃー後でねー 行こ!スイーリちゃんソフィアちゃん」

イクセルが二人を連れて一年生の席へ向かった。私達三人も自分のクラスの集まっている方へ向かう。


『ノア ルーベルト二人も一年間お疲れ様』

「まさかホベック語履修の五人が全員Aクラスで一年を終えるとはなー」

ノアとルーペルトは三回目の定期試験で揃ってAクラス入りを果たした。そしてあの合宿で宣言した通りその後も継続して籍を置いている。


「俺が一番驚いてますよ 本当にAクラスに上がれるとは思っていませんでした」

「僕は一年前の合宿のおかげだと思ってます 絶対レオ様と同じ授業を受けたいとあの時強く思いましたから」

「こうなったら卒業まで頑張るしかありませんね!」

「Aクラスの雰囲気を知ってしまうと絶対落ちたくないって思うんだよな」

「わかるよ 僕も一度Bクラス落ちを経験したから・・・空気が全然違うんだよな」

マルクスも加わって何やらAクラスを称え始めた。


「なんかよくわかんないけど まー来年も頑張ろうぜ」

と言ったベンヤミンと全く同じ気持ちだった。しかし三人にはどうやら不満だったらしい。

「ベンヤミンには永遠にわからないよ・・・」

「そうさ Bクラスはな それはそれは・・・辛いんだぜ」

「僕も二度と行きたくないよ あの頃は絶対次の試験でAクラスに帰るって思いながら毎日通ってたよ」


「・・・同じ学園なのにな」

気圧されたのかベンヤミンはそれだけを言うので精一杯のようだ。私も噂でしか知らない他のクラスの雰囲気を思い浮かべては、返す言葉も見つけられずにいた。



「ねえねえそろそろ合流しようよ 僕達のクラスはみんな食事が終わったよ」

妙な空気を断ち切るようなイクセルの登場に、今年の救世主はイクセルだったなと思ったことは秘密だ。

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