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「正装 ですか」

『そう 完全に新しく用意しなくてはならないそうでね スイーリは何色がいいと思う?』

「そうですね・・・」

考え込むスイーリの横顔を見ながら、少しだけ冷や冷やしていた。白を希望されたらなんと答えようかと思っていたからだ。

スイーリが望む色で作ろうとは思っていたものの、白には少し抵抗がある。レオ(あいつ)が着ていたと聞いたからだ。


「どんな色も素敵だと思いますが 初めて見た黒い正装のレオ様が忘れられません」

『ありがとう 黒にするよ』

「よいのですか?こんな簡単に決めてしまって」

『スイーリに決めてほしかったんだ 今度作る正装は長く着ることになるだろうから』

恐らく成長は止まった。身長はスイーリから聞いていた通り181cmぴったりだった。


実は陛下からは強く白で用意するよう勧められていた。身長といいこれが物語の力なのかと空恐ろしく感じたが、最終的な判断は任せると言って下さった。黒でも全く問題ないだろう。


「今度は陛下のような金糸で彩られた正装になるのですね」

『いや次も銀糸だよ 金糸を用いるのは国王とその妃だけなんだ』

それ以外の王族、今は私一人だが正装を飾る糸は銀糸と決められている。


「知りませんでした てっきり成年で金糸になるものとばかり」

『この国は王族が少なすぎるからね こう言った細かい決まりごとは貴族でも知らないものが多いと思う』

近隣諸国や友好国を見回してもここまで王族の少ない国はない。メルトルッカや隣国のベーレングなどは王妃の他に幾人もの夫人が存在しており、王の血を引く子の数は十人とも二十人とも言われている。

それはそれで面倒そうだけれどな。




『はぁー 何故私は七月に生まれてしまったのだろうな』

愚痴としか言いようのない愚痴を吐く。

「えっ?七月が問題でも?」


『スイーリ これが大問題だ 七月に叙任式をしなければならない・・・

 いくらステファンマルクとは言っても真夏だ その真夏にがっしりと正装を着こんでその上マントだ

 ・・・今から気が重い』


「あ・・・そうですね!レオ様のお誕生日は一年で一番暑くなる時期ですから・・・

 熱中症が心配です」


『熱中症・・・』

「あ!暑さで体温が上がったり 熱がこもったり脱水症状を起こしてしまう症状のことなのですが・・・」

スイーリが説明をしてくれたが、私はその言葉を知っていたように思う。

『確か塩分も重要だと聞いた気がする』

「ご存じだったのですね!ステファンマルクでは馴染みがありませんが 亡くなる方もいるほど危険なんです レオ様・・・心配です」

『ありがとうスイーリ 充分気を付けるよ まあまだ先の話だ 今は今日これからの楽しみのことを考えよう』

「そうですね でも私も何か良い方法がないか考えてみます」

『うん ありがとう』




今日はこれから蛍を見る。陽が落ちるまでまだかなりの時間があるので、夕食を取り、今はのんびりとその時間を待っているところだ。今夜はそのままスイーリも王宮に泊まっていくことになっている。



「お待たせいたしましたレオ様 スイーリ殿」

『待っていたよレノーイ 時間を作ってくれてありがとう』

「お待ちしておりましたレノーイ様」


〈こうして少しずつ沈みゆく太陽を見守りながら語らうと言うのもいいものですな〉

《レノーイ メルトルッカにはどんな蛍がいるんだ?》

〈メルトルッカの蛍はここで見られるものより大きいように思いますな 蠟燭の光よりも強く光りますぞ〉

〈それは美しいでしょうね 見てみたいです〉

〈いずれ叶いましょう お二人がメルトルッカへ行かれるのは春ですからな すぐに季節がやってきますぞ〉


《こことは時期が違うのか?》

ステファンマルクで蛍と言えば七月だ。七月上旬、ちょうど今の時期にピークを迎え、徐々に数は減るが九月の初めまで見ることが出来る。

〈そうですなぁ 私めの記憶では蛍とは五月に見るものでございましたから ここよりは幾分早くに飛び始めるようですな せっかちな蛍ですなぁ〉


レノーイの印象からメルトルッカの人間は、どこかおっとりとしてのんびりとした印象を持っていたのだが、蛍がせっかちとは・・・

《レノーイからせっかちという言葉を聞く日が来るとは思わなかった》


〈レオ様それはどういう意味でございますかな まさかとは思いますがレオ様は私めがのんびりしているとでも?〉

スイーリがクスッと笑いをこぼしている。

〈やや!今笑われたのはスイーリ殿!スイーリ殿まで私のことを誤解しておられるとは甚だ遺憾〉


〈失礼いたしました レノーイ様は何事にも動じないよう大変落ち着いて見えておりましたので せかせかされるご様子は想像できませんでした〉

〈聞かれましたかレオ様!やはりスイーリ殿は素晴らしい 是非とも我が孫の嫁に来ていただきたいものですなぁ〉

《・・・レノーイ 子供もいないあなたに孫がいたとは知らなかった 是非紹介してくれ》



〈そろそろ蛍が現れる時刻になりましたな 参りましょうぞ〉

『・・・行こうかスイーリ』

「はい」

スイーリはまだ笑っている。


真っ暗闇とまではならないものの、暗闇の森の中馬を走らせるのは危険だ。なので今日は城の目の前にある泉で蛍を鑑賞することにしていた。いつかの春皆で白鳥を見た泉だ。


泉へ向かい静かに歩を進める。すると道案内をするかのように蛍が数匹ふわりと飛んできた。

その蛍が飛ぶ方へ向かうと、そこには眩いばかりに光を灯す蛍の群れが。

〈ほぅー見事ですな〉

「綺麗・・・」

消えては光る朧気で幻想的な輝きに皆が目を奪われていた。


人を知らないのか、恐れることもなくすぐ近くまで飛んできては柔らかい光を灯す。

ふわりふわりと飛び続ける蛍を、時間も忘れて眺め続けていた。



「ありがとうございます こんなに美しい蛍を見たのは初めてです」

『とても綺麗だな スイーリと見れて良かった』



「また忘れられない思い出になりました」


『うん 私もだ





 ・・・そろそろ戻ろうか この季節でも夜は冷える』

気がつけばレノーイは先に戻ったらしい。泉には蛍と私達しかいなかった。



スイーリを部屋の前まで送る。

『ゆっくりお休み 明日の朝は一緒に朝食を取ろう 迎えに来るよ』

「ありがとうございます おやすみなさいレオ様」

『おやすみスイーリ』

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