[114]
今日はよく人に会う日だな・・・。
軽めの昼食を取り、その後時間までここで過ごそうとやってきたのは先日のテラスが心地よいカフェだ。
今日は南の国の珍しいソファーとテーブルの席に案内されていた。白樺細工や柳細工のように植物を編んで作られた家具だ。大きなクッションが添えられていて、座り心地もとても良い。
そしてやはり目の前にはアロニアの樹が植えられていて、適度に遮られる視線がとても落ち着く。
アイスティーを飲みながら今日見てきた白樺林の話などをしていると、よく知った声がかけられた。
「あれ?レオとスイーリ?!」
「まぁ!ベンヤミン様とソフィア様」
『偶然だな ここ座るか?』
「どうする?ソフィア 一緒に座ろうか」
「ええ ご一緒させていただいてよろしいですか?」
広い席だったので、四人で囲んでもまだまだゆったりとしている。
「レオ様 そちらへ移動して構いませんか?」
向かいの長椅子に座っていたスイーリが席を立った。
『うん おいで』
空いた長椅子にベンヤミンとソフィアが並んで座る。
「ありがとうスイーリ」
「いいえ お二人も今日は八番街へいらしていたのですね」
注文を頼みつつ、ベンヤミンが話しを続ける。
「うん 今日はソフィアの買い物に付き合う約束をしていたんだ」
「ソフィア様 良いものは見つかりましたか?」
「はい 妹の誕生日プレゼントを ベンヤミン様にも一緒に選んでいただきました」
「俺は全く役に立たなかったけどな」
「スイーリ様とレオ様もお買い物を?」
・・・ソフィア、否定してやらないのだな。驚くほどあっさり流したな。
思い出したように私達の顔をまじまじと見たベンヤミン。
「今日は変装してないんだな 俺も一度見てみたいのに」
『八番街へはいつもこのまま来るよ・・・いや誰から聞いた?』
「アレクシーさ レオが本気で変装すると絶対わからないって言ってた」
『そうか そこまで褒めてもらえるとは光栄だな』
「・・・褒めてたわけではないと思うけど」
そのまま夕方まで四人で過ごした。
「このカフェいいよなー レオ達もよく来てるのか? 俺達は二回目」
『私達も今日が二回目だ スイーリとソフィアが最初に来たのだったね』
「はい 通りにいい香りが漂っていましたので入ってみたのです こんなにお庭が素敵だとは思わず驚きました」
「冬はどうなるのかしら 気になりますね」
「ビスケットも旨いよな」
「俺はソフィアを送ってくる その後向かうよ」
『わかった いつも使っていた部屋で待ってる』
「了解ー」
カフェを出たところで二人と別れる。馬車を待たせてある場所が違ったのだ。
『今日はなんだか珍しい一日だったな』
「こんな日もあるのですね」
『流石にこれ以上誰かと会うこともないだろう』
・・・言わなければよかった。
「レオ様! 休日にお会いできるなんてー!今日八番街へ来て良かったですわね」
「ええ!この時間この場所にいて良かったですわね!レオ様も八番街へいらっしゃるのですね」
『ああ・・・スイーリ 紹介するよ クラスメイトのエミリア=ユハーナ嬢とマリアーナ=カレラ嬢だ』
「レオ様 まさかここでお会いするなんて 姉が一緒だったら大変なことになってました」
『マルクス 大変なことにならず良かったよ』
二十人しかいないクラスメイトなのに四人も会うとは・・・
『スイーリ 王都は狭いんだな』
----------
〈ようこそ レオ様にメルトルッカ語をご指導しておりましたレノーイと言います〉
〈初めまして ベンヤミン=ノシュールです〉
〈初めまして スイーリ=ダールイベックです〉
〈さてと お二方ともメルトルッカへご留学なさる予定とか 誠に慊焉 實にむがしですなぁ このおいぼれが些かでもお役に立てましたらば何よりの果報となりましょうぞ〉
「あ あの・・・」
聞き取れなかったのだろう、ベンヤミンが困惑している。スイーリも声には出していないが同じように不安顔だ。
『レノーイ もう少し我々の年代にもわかる言葉で話してはもらえないか?』
「やや!レオ様はこのレノーイめの言葉がかび臭いと!相も変わらず酷い御人じゃ」
『すまない二人とも・・・紹介するものを間違えたようだ』
「いやはや少々ふざけすぎましたかな これがないとレオ様とお会いしている気になれませなんだ」
『・・・改めて紹介するよ メルトルッカ語の師 レノーイだ』
「お二人のことはレオ様からお聞きしております まずベンヤミン殿」
ようやく真面目に話してくれる気になったらしい。
「はい!」
「緊張なさらずともよいですよ 今日のところはひとまずステファンマルク語でお話し致しましょう してベンヤミン殿はメルトルッカで何を学ぶご予定ですかな」
「えっ・・・それは・・・」
困ったようにこちらを見る。こんなに連続してベンヤミンの困惑顔を見ることも珍しい。
『ベンヤミン 今日は最初にこの話をしたいと思っていたんだ 私と同じ学科を取る必要はない ベンヤミンが学びたいものを選択してほしい』
「俺の学びたいもの」
『私から見て ベンヤミンは理学への造詣が深い それを専門に学ぶのもひとつだと思う』
「レオは?レオは何を学ぶ予定なんだ?」
『文学・・・かな 産業にするべきかとも考えているが 一番学びたいのはメルトルッカの文学だ』
「そうなんだ・・・」
『今決める必要はないよ ベンヤミンの進みたい道が決まったら その専門用語などをレノーイから習うのはどうかと思っているんだ』
「ベンヤミン殿 このことはレオ様とも一度話し合いましてな 今学ばれているメルトルッカの教師から教わらないようなことを私と一緒に学んでみるのはいかがですかな」
『ベンヤミンの都合もあるだろう 月に一度でも二度でもレノーイは構わないと言ってくれている』
「ありがとうございます 俺理学の勉強がしたいです 学園には理学の専科はないし メルトルッカで学んできたい レノーイ様よろしくお願いします」
「承知いたしました それではベンヤミン殿とは理学の話を中心に進めて行きましょう」
「ではスイーリ殿 スイーリ殿はもうお決めでいらっしゃいますかな?」
「はい 私はメルトルッカ文学を学びたいと考えております」
「そうでしたか 文学は私の最も得意とする分野でしてな レオ様にもその影響が色濃く出てしまったようでございます スイーリ殿はいかがいたしますかな レオ様も交えて文学について話し合うというようなもので構いませんかな?」
「はい まだまだ単語がおぼつきませんが努力いたします よろしくお願いしますレノーイ様」
「決まりましたぞ レオ様」
『ありがとうレノーイ 私にもこの先レノーイの助けが必要だ これからもよろしく頼むよ』
「お任せください」
〈では早速今日のところはメルトルッカの教育システムの話でもしましょうか ステファンマルクとは大きく異なりますので興味深いですぞ〉
「ありがとうレオ 最初はどうなることかと不安だったけど レノーイ様は凄い方だな」
「レオ様は十年もレノーイ様とメルトルッカ語を学んでこられたのですね」
『少々変わっているところもあるが メルトルッカに関しては誰よりも知識が豊富な人だ 私がメルトルッカに行きたいと思うようになったのも レノーイの影響だ きっと二人の助けになるはずだよ』




