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日曜日、スイーリを邸へ迎えに行く道すがら、ふと思い出したことがあった。

アレクシーもメルトルッカへ行くのだったな・・・

今日は邸にいるはずだ。誘うべきかと束の間考えたが、留学の資格が必要なのはベンヤミンとスイーリだけだ。週に一度きりの休日。やっと帰宅できたのだ、アレクシーはのんびりさせてやろう。


今日のスイーリはマスタード色に緑やこげ茶の入ったチェック柄のドレスを着ていた。襟元には濃紅のカメリアがひとつ。何年か前のクリスマスに贈ったものだ。手にはカメリアと揃いのバッグ。加えて休日にしては大きめの鞄も持っている。

『おはよう スイーリ』

「おはようございます レオ様」

『晴れてよかった 今日は公園へ行くのだったね』

「はい コイヴメッツァ公園の黄葉が見ごろなのだそうです」

『時間もあるし ゆっくり散歩しようか 乗って』

「ありがとうございます」

スイーリと馬車で向き合って座る。


『スイーリのドレスを見て改めて秋になったなと感じたよ 黄葉を見に行くのにぴったりのドレスだね』

「ありがとうございます 今日はこのカメリアとバッグを使いたくてこのドレスにしたんです」

『使ってもらえて嬉しいよ

 ベンヤミンとは夕方に合流する予定だ それまではのんびり過ごそうか』

「はい ありがとうございます レオ様の先生をご紹介いただけるなんて」

『レノーイも楽しみにしているようだよ 気さくな人だから気軽にね』

「わかりました ありがとうございます」


馬車が止まった。着いたようだ。

『行こうか 鞄は置いていくといい 勉強道具だね?』

「はい では置かせていただきますね」


馬車を降りると隣に質素な馬車が停まっていた。この公園は馬車を停める場所が決まっているはずだ。この場所に停められるのは公爵以上・・・ということはこの馬車はノシュールか?

「ノシュールの方がお見えのようですね」

スイーリも同じことを思ったようだ。

『そうだろうな でも妙だな なぜこの馬車にしたのだろう』

「そうですよね・・・どなたがいらっしゃっているのでしょう」

公爵家のものならば、ここの決まりは知っていて当然だ。この場所にわざわざ家紋を隠して乗り付ける意味はない。まあこの後にそういう理由が待っているのかもしれないけれど。

『ベンヤミンやケヴィンはこの馬車を使わないだろうし いやデニスも違うだろうな・・・』

二人で首をかしげる。


『もし公園で会えばわかるだろう たまたま他の馬車が出払っていたのかもしれない』

「あ!そうですね 得心しました」

『さあ 私たちも行こう』

左腕を差し出し、メタセコイヤのトンネルへと向かった。


『ここはまだ黄葉の始まりだね 来月にも来ようか』

公園の入り口までの百メートルほどの距離だが、このトンネルの黄葉もとても美しい。

「はい!来たいです すっかり色づいた頃にまた来ましょうね」

『うん 約束』

小さな約束を交わしてトンネルを潜り抜けた。


トンネルの先は芝生の広がる公園だ。公園の中央には池があって、池の向こう側にある白樺の林が黄金色に輝いていた。

「わぁー 綺麗・・・」

空の青と白樺の金色の対比が素晴らしい。

『晴れて良かった 完璧なタイミングだったね』

「ええ 今日がお休みの日で良かったです」


池の方へと向かう。そこは黄葉を楽しむ多くの人で賑わっていた。

皆景色を楽しみつつ同じ方向へと歩いていく。すると少し先の手すりで仲睦まじげに向こう岸を指差しながら笑いあう一組の男女がいた。


『スイーリ・・・あれアンナではないか?』

「えっ?アンナ様もいらしているので・・・」

途中で気がついたのだろう。驚いたのか途中で言葉が止まってしまったらしい。

こちら側に背を向けてはいるが、連れの男は間違いない。


『そうか 先程の馬車はノシュールではなかったのだな』

「お二人はいつから・・・お声をかけてもよろしいのでしょうか」

一瞬このまま通り過ぎようかとも考えたが、アンナたちが先に馬車へ戻れば私達が来ていることに気がつくだろう。

『挨拶くらいはしようか 行こうスイーリ』

流れに従って足を進める。二人との距離も少しずつ縮まって行った。


『フレッド アンナ二人も来ていたのか』

「ごきげんよう フレッド様アンナ様」

私たちに声を掛けられ、かなり驚いた様子の二人。だが、これだけ人出の多い場所で会っているのだ、密会でもあるまい。


「こんにちは レオにスイーリさん 二人も黄葉を見に?」

『ああ ステファンマルクの黄葉は早いだろう?』

「そうだね それにパルードの樹は大抵が赤く紅葉するから 黄葉は珍しいんだ」

『なるほど こことは反対だね 紅葉も美しいだろうな』

「とても美しいよ レオもいつかパルードへ来るといい」

『そうだな きっと行くよ』


アンナはスイーリと話している。

「スイーリ様 あの・・・お久しぶりですわ 学園はいかがですか?」

「ええ 今月はお茶会がなかったのでお久しぶりですね・・・驚きましたわ」

「あの・・・」

口ごもるアンナに気がついたのか、代わりにフレッドが続いた。

「せっかく会えましたし 少し四人で話しませんか?」


『どうする?スイーリ 少し合流しようか』

「ええ そうですね」

『あのガゼボでどうだ?フレッド アンナ』

近くのガゼボを指す。二人も同意して皆でガゼボへ移動した。


四人でベンチに腰掛ける。アンナはきょろきょろと視線が忙しない。それに気づいてかフレッドがそっとアンナの手を握った。二人はそういう関係なのだろう。


「隠すつもりはありませんでしたが 私はアンナさんとお付き合いしています」

『そうか 良かったなフレッド アンナ』

「ありがとうレオ 彼女と音楽の話をするうちすっかり意気投合したのだよ 彼女は素晴らしい才能の持ち主だ」

『うん アンナは私の大事な友人で 素晴らしい令嬢だ 大切にしてあげてほしい』

「わかっているよ 大切にしている」

『そうか

 良かったなアンナ』


左手をフレッドに握られたまま俯き顔を赤くしていたアンナは、嬉しそうに微笑んだ。

「はい ありがとうございますレオ様」

『皆には言わないのか?』

「レオ 公表する場を私達に与えてくれるかい?」

『ああ勿論構わないさ』


「レオ様 フレッド様」

アンナが私たちの方を向いて背筋を伸ばした。

「うちの邸へお招きしても構いませんか?」

『喜んで アンナが皆を招待したいのだね』

「ありがとうアンナさん 私もアンナさんの弟(ぎみ)たちと早く会いたい」

フレッドがアンナのもう一方の手も取り両手で握りしめた。


「はい 皆様にもお伝えさせていただきたいです それと弟達にフレッド様がパルード国の王子殿下だとまだ告げておりませんので・・・」

「アンナさん それでは私は弟君たちから'ウマノホネ'とでも思われているのですね」

『フレッド・・・何故そんな言葉を覚えて・・・』



「お二人はいつ頃から交際されていたのですか?全く知りませんでした」

スイーリが私の分まで気になっていたことを聞いてくれた。


「私がパルードへ帰る前に告げたのだよ こちらへ戻ってくるまでに答えを出しておいてほしいと」

「それではお付き合いされて間もないのですね」

「うん 今日が交際して初めてのデート」

「まあ!」

『それは邪魔して悪かったね』

「とんでもありませんわ」

「そうだよレオ いつレオに伝えようかとアンナさんとも相談していたのだから」

『それなら良かった 私も嬉しいよ 従兄と友人が上手くいくよう 心から応援させてもらうよ』

「ありがとうございます レオ様」

「ありがとうレオ」


『ああ!そうだ フレッドはどうしてあの馬車を?』

「私達の乗ってきた馬車がわかったのかい?」

『停める場所が決まっているからな あの場所には珍しい馬車だったから余計目立っていた』

「そうなのだね 目立たないと思って選んだのだが失敗だったようだ」

『これからは緑のものを使うといい 私達も今日はそれを使ってきた』

「ありがとう 最初からレオに相談すればよかったね」


『スイーリ 私達はそろそろ行こうか』

「はい レオ様」

『よい休日を フレッド アンナ 招待を楽しみに待っているよ』

「ありがとう 二人もよい休日を」

「レオ様 スイーリ様 ありがとうございました 今日戻りましたら招待状を準備いたしますわ」

「お待ちしておりますアンナ様 よい休日を」


二人をガゼボに残し、池の前に戻る。

『なんだか驚いてじっくり黄葉も見れなかったね もう一度見ようか』

「そうですね 驚きましたがお会いできて良かったですね」

『うん フレッドがこちらへ戻ってきた時一度会ってはいたが その時アンナのことは一言も言っていなかった まだ返事を聞いていない時期だったのかもしれないな』

「アンナ様も随分とお悩みになられたでしょうね」

『そうだろうな・・・』


『二人がこのまま上手く進むよう願うよ 助けが必要な時は私達も協力してやろう』

「そうですね 私も応援させていただきます」

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