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始まる前は長いように感じていた休みも、過ぎてしまえばあっという間だったように思う。今日で休暇も終わりだ。


パルードに帰国していたフレッドが新学期に合わせて戻ってきたのが昨日の夜。昨夜は王宮に泊まり、今日は半日ゆっくりと土産話を聞かせてもらった。

〈レオ やはりステファンマルクの夏は最高だね 早く戻ってきたくてたまらなかったよ〉

《メルトルッカ語の教師も毎年そう言ってるよ ここの夏を知ってしまうともう国には戻れないってさ》

〈その方の気持ち よくわかるよ〉


《私はパルードの夏も味わってみたいけどな ジリジリと照りつけるという日差しを浴びてみたい》

〈レオ 後でこんなことになる覚悟は出来てる?〉

そう言って袖をまくると、くっきりと日焼けの後が残る腕を笑いながら見せてきた。

《随分焼けたな ステファンマルクでは夏中外に出ていてもここまで焼けないだろうな》

〈ご婦人や令嬢方はもっと大変さ 日傘を持つ専用の侍女がいるくらいだからね〉

《日傘を差しかけてついて回るのか それは大変だな》




〈レオはどんな休みを過ごしていた?なんだか雰囲気変わったね〉

そう言われてぎくりとした。

《変わった?》


〈うん 目の印象が今までと違う とてもいい成長をしたように見えるよ〉

《そうか・・・フレッドにそう言ってもらえると嬉しいよ》



ベンヤミンに秘密を打ち明けたことは、思っていた以上に私に大きな変化を与えてくれていた。全てを知った上で受け入れてもらえる、と言うことは想像していたよりも遥かに安心に繋がった。生涯誰にも告げることはないと思っていたが、今は救ってくれたベンヤミンに感謝している。


勿論ベンヤミンだけではない。ずぶずぶと沼の底まで沈み切っていた私を引き上げてくれたアレクシー、そしてどんなに無様な姿を晒しても信じ続けてくれたスイーリ。この三人のおかげで前を向くことが出来た。





「そろそろ行こうかな レオまた学園で!とは言ってもなかなか会えないか」

『そうなんだよな・・・休みの日はいつでもここへ寄ってくれ それに茶会にも声をかけていいかな』

「喜んで 誘いを楽しみに待っているよ」

そうしてフレッドはひと月半ぶりの寮へと戻って行った。


フレッドが帰った後、明日の準備を済ませる。まだ休むには早い時間だ。

『ロニー少しだけ付き合ってもらえないか』

いつものようにハーブティーを用意していたロニーに声をかける。

「喜んでお付き合いさせて頂きます お茶でよろしいですか?」

『ああ ありがとう』



テーブルを挟み向かい合って座る。

『色々と心配をかけてしまったね

 ありがとう ロニーが変わらずにいることが私の大きな支えになっている』

「光栄です ですが私はなんのお力にもなれませんでした」


それは違う、強く否定した。

『そんなことはない 言っただろう今までと何ら変わることなく接してくれることが 私にとってとても大きなことなんだ 他でもない一番信頼しているロニーだからだ』


「ありがとうございます あの日レオ様が打ち明けられたことを 私も自分なりにあの場で考えておりましたが 言いたいことはダールイベック様とノシュール様が全てお話しくださいました

 そして私が変わらないのも当然のことでございます 我が主が必要として下さる限り 私は日々全力でお仕えするのみでございますから」

そう言い切ったロニーは柔らかな笑みを浮かべていた。よく笑う従者だが、普段よく見る大笑いしたいのを堪えているような顔ではなく、こんな風に真正面から向けられた笑顔を見たのは久しぶりのことだ。


『ロニーに仕える価値があると思われ続けるためにも努力するよ』

「勿体ないお言葉でございます」



『ロニー この機会に聞かせてくれないか ロニーにとっての忘れられない大切なことを』

「えっ?私の話でございますか?」

急にいつものロニーに戻った気がする。


『話せる範囲で構わないさ そうだなー私も憶えているものの中で大切なものを話すよ』

「お話しすることを渋ったわけではありませんでしたが・・・それはいいですね 是非お聞かせくださいませ」



『わかった では私から話すよ

 ノシュールを訪問した時 周年祭前夜にロニーからもらった言葉は忘れられない 初めて誰かから認められたと感じた瞬間だった 初めて名を呼んでくれたのもあの日だった』

「恐縮でございます 私としましても勇気を必要とした発言でございましたから レオ様のご記憶に留まらせて頂いていることは大変光栄でございます」


『難しいかもしれないが ロニーには思ったことを隠さず話してほしい 兄弟のいない私にとってロニーは従者である前に兄のような存在でもあるんだ』

多くの時間を共に過ごしてきたロニーはとっくに従者以上、家族のように近い代わりのいない大切な存在だ。


「ありがとうございます レオ様のお気持ちはしっかりと肝に銘じます」

『次はロニーの番だな』

「そうですね 私がレオ様の従者になった初日のことは大変鮮明に記憶しております」

『初日からそれほど面倒をかけたか・・・』

「反対でございますよ それ以前私は見習いとして陛下にお仕えさせて頂いたことがありましたが その時習ったことがまるで役に立たず焦りと困惑でいっぱいでございました」


なんだろう、嫌味を言ってるようにも感じないのだが、このロニーをそれほど困惑させるようなことを言っただろうか。当時のレオは既に私だ。なのに憶えていない。

『済まないロニー 一体私はなんと言ってロニーを困らせたのだ』

するとロニーは慌てて否定する。


「申し訳ございません 私の説明不足でございます レオ様が難解な要求をされたわけではございません 今ではそれがすっかり当たり前になってしまいまして 私も甘えてしまっておりますが レオ様がお一人でご準備をお済ませになり朝の鍛錬に向かわれたことに非常に驚いたのです」


『ああ そのことか・・・よかった その時期のことは忘れているはずがないと思っていたから うん私もよく憶えている ロニーは確かに酷く驚いていたな』

「今でもこれでいいのだろうかと思わない日はございませんよ」

『問題ないさ よしでは次は私だな』



こうして懐かしい話を繰り返した。レオ(あいつ)の頃の記憶もいくつも浮かんではきたが、大切だと話して聞かせたかったのは、どれもが私の記憶だった。

当然、かな。

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