表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/445

[102]

『そうだベンヤミン もう一つ・・・いや三つ聞いてもいいか』

ふっと気が抜けて今朝のことを思い出した。


「三つ?随分と多いな」

先程まで思案顔だったベンヤミンも表情が和らぐ。


『今朝ここで鍛錬していたらいろんな野鳥を見てさ ベンヤミンなら名前を知ってるかと思って』

「特徴おしえて?」


『薄いグレーと黄色・・・いや淡い緑と言った方がいいかな とても小さくて頭頂部に黄色の筋があった』

「それはキクイタダキだな 間違いない 俺も見たかったなー」

『流石・・・よく知っているな』

「後は?どんなのがいた?」


『そのキクイタダキと同時間にいたのは頭が真っ赤だった 一回り程度大きくて胸がピンク色のと白いのがいたように思う』

「あーそれはベニヒワかコベニヒワ 嘴を見たらわかるんだけど憶えている?」

『黄色かったと思うけれど詳しくはわからないな』

「色じゃなくて形が違うんだ でもとても似ているから見分けが難しい あっ胸が赤いのはオスだよ」

『そうなんだ』


「後は?もう一種類見つけたんだろう?」

『その後に見たのは 今までのよりさらに大きかったと思う 頭と嘴が黒くて身体は鮮やかなオレンジ色をしていた シジュウカラと一緒に餌を食べていたよ』

「黒い嘴にオレンジと言えばウソだろうな 夏にここまで来るのは珍しいよ 大抵は森の中で過ごしているんだ

レオよく観察しているな どれもすぐにわかったよ」

『いや すぐに名前が浮かぶベンヤミンが凄いだろう 驚いたよ』


「随分色々な野鳥が来るんだな 明日の朝俺も見に来ようかな」

『来るといい 切れ間なく次々と食べに来ていたぞ』

「レオ何時に来たの?」

『五時くらいかな』

「随分早いな・・・」

『無理はするな』

「うん・・・」



「そ そろそろ出かけようか」

『そうだな』


ぷらりと門の外へ出る。大抵の町は領主の館の正面に目抜き通りが広がる作りだが、この町もこの代官邸から通りが始まっている。広い通りの両側に続くのは銀杏並木。秋になればさぞかし美しい光景だろう。

行きは左側の通りを進むことにした。八百屋、魚屋、肉屋、乳製品の店にパン屋。通り全体が市場のようだ。ノシュールの旧本邸がある町もこんな雰囲気だったな。地方の町はこれが標準なのかもしれない。


「昨日も思ったけど 馬車を見かけないな」

『ああ』

農業が主体の町だ。昼の間は買い物に来るものが少ないのも頷ける。馬車も見かけないが、すれ違う人も稀だ。


のんびり歩いたつもりだったが、半時間ほどで町の外れまで来てしまった。

『夕刻とは言ったものの・・・』

「だよな」


「少し早いけど 戻りながら最初に見つけた店で休憩しようか」

『わかった そうしよう』

今まで通ってきた通りの左側にレストランやカフェはなかった。多分右側に集中しているのだろう。


少し歩くとレストランを見つけた。

「この名前 卿が教えてくれた店だな」

『入ろうか』

時間が早いこともあって、店の中にまだ客の姿はなかった。

「いらっしゃいませ 店内のお席とテラス席どちらにいたしますか?」

『ベンヤミン どちらがいい?』

「天気もいいし テラスにしないか」

「テラス席ですね こちらへどうぞ」

店の中を通り過ぎて広い庭へと案内される。そこには小さな川も流れていて、様々な花が咲き誇っていた。


メニューを見ると、サンドイッチやワッフルと並んでリゾットの用意もあるらしい。

『そういや以前この町に来た時 米食が人気だと聞いたな すっかり定着しているようだ』

「王都ではほとんど見かけないもんな ノシュールにもなかったと思う」

リゾットとサラダ、それとアイスティーをひと瓶注文する。


『ベンヤミン あれ・・・』

近くの樹にバードフィーダーが吊るされていた。

「来るかな・・・この町って鳥好きなのかな」

『後で卿に聞いてみるか』


「お待たせいたしました」

ベンヤミンはチーズのリゾット、私のはトマトのリゾットだ。新鮮な野菜をふんだんに使ったサラダも並べられる。

「レオ腹減っただろう 朝全然食べてなかったものな」

『見てたのか・・・料理長に悪いことをした』

「そういう日もあるさ 気にするな」


食事が済んだ後ものんびりと寛ぐ。

『これでは休暇に来たと思われるな』

つい苦笑を漏らすとベンヤミンはさも当然とした顔をした。

「知らなかったのかレオ 今って夏休みなんだぜ」


「なんだよそんな驚いた顔をして

 ・・・やっぱレオには俺とかイクセルみたいなのがついていないとダメだな 休むことも人間には必要なんだぞ?」


『その通りだな ベンヤミンの言う通りだ』

「そう言うこと!だからもう少しこの心地よい風を楽しんでいようぜ」

『うん そうする』



どれくらいそうしていただろうか・・・時折訪れる野鳥を眺めてはベンヤミンの説明を聞き、そしてまた鳥を眺める。

『これ この町で作っているのかな』

「これ?バードフィーダー?」

『うん 欲しいなと思って』

「帰りの道で探してみるか 行きにはそれらしき店はなかったよな」

『なかったな』


「じゃーレオも元気になったみたいだし そろそろ行きますか」

『ベンヤミン・・・』

「あ 謝るのはなし 王子がそんな簡単に頭下げたらダメだぞ って俺が言うのも変だけどな」

『わかった では行くか』

「おう 珍しく素直じゃないか」

『珍しい?いつも素直だろう?』

「やっとレオらしくなってきたな」


レストランが数軒続いた先には、雑貨店や小間物屋などが立ち並んでいた。続いて小さな本屋と文具店が合わさった店、そしてその隣には


『あった』

「あったな」

鳥かごをモチーフにした看板の下がったその店に入ってみることにした。


「いらっしゃいませ」

店には男が一人、奥で巣箱を組み立てている最中のようだ。

店の中には様々なデザインのバードフィーダーや巣箱が並んでいる。ひとつひとつ眺めていると、窓際の棚に木彫りの鳥が置いてあるのを見つけた。

『これ キクイタダキ』

「ほんとだ そっくりだな」

『大きさもちょうどこのくらいだった』

他にも何種類もの鳥が並べられている。オレンジが美しいウソも数羽あった。それも可愛らしいが、やはり最初に目についたこの一番小さな鳥にしよう。


『これとバードフィーダーにする』

屋根のついた小さめのものを二つ選んだ。

「二つ?」

『ああ 一つは土産にしようと思って』

「スイーリに?」

『そう 鳥が好きなんだ』

「たまにはこういう贈り物もいいな 俺も買っていこうかな」

ベンヤミンもバードフィーダーを見繕いだした。


「俺も庭に吊るしてみるよ 鳴き声は聞くのになかなか姿を見せてくれなくてさ 気になっていたんだ」

『王都にはどんな鳥が来るのだろうな 私も楽しみだ』

「ソフィアは鳥好きかな きっと好きだよな 令嬢は大抵小さくて可愛いものが好きだし」

『そうだな ソフィアなら喜ぶような気がする』

「そうか!レオが言うなら喜んでくれる気がしてきた」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ