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会場には茶会用の温室が選ばれた。

花を愛する母上はよくこの温室で茶会を開く。もう少し季節も進めば庭も花でいっぱいになるのだが、今日のようにまだ肌寒い時期には特に女性に人気の場所だ。



今日の母上は濃いグリーンのシフォンドレス。艶やかな黒髪の母上にとてもよく似合っている。

私のジャケットも同じ色だ。それに淡いグレーのチェック柄パンツ、白のブラウスにベージュのウエストコート。春らしい淡い色の花の刺繍が全面に施されていてとても美しい。女性のドレスに仕立てたほうがよかったのではないかと思ったほどだ。


今は刺繍入りのウエストコートが流行っているようで、凝った手仕事のものが私のワードローブにも数多く揃えられている。毎日[今日はどれかな]と、イーダが選んでくるのを待つのも楽しみのひとつだ。



招待客はもう揃った頃だろうか。

少しそわそわし始めた頃ノックの音がした。迎えに来た侍従と共に母上の部屋へ向かう。

初めて母上のエスコートを任されたことに気分も高まっていた。


『お迎えに上がりました 参りましょう母上』






温室の中は大変心地よく整えられていた。

母上は羽織っていたショールを侍女に渡すと、中心へと足を進める。


そこには笑顔の母親たちと緊張した面持ちの令嬢が四組。そんなガチガチの顔を向けられるとこちらまで緊張してしまうではないか。


「皆 よく来てくれました」

「王妃殿下 王子殿下 本日はこのような栄誉あるお声がけを賜り身に余る光栄でございます」


堅苦しいだけの挨拶が続く。震えている()がいるのは寒さのせいではないのだろうけれど。



冬の長いステファンマルクの民にとって、春は格別なものなのだ。

雪解けが始まったと思えばコートを薄いものに変え、土が見えてきたと思えば春の装いを始める。

なのでこんな早春と言っていい季節でも女性は初夏に着るようなそれは軽やかなドレスを好んで着たがる。


夫人たちはもちろんのこと、次代のファッションをリードしていくことになるであろう幼いレディたちもそれは例外ではない。



先程から震えている少女はアイスブルーの半袖ワンピースだ。繰り返すが震えているのは決して寒いからではない。特にこのような季節のためにこの場所を設えているのだから。


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