表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/445

[1]

「もー!話聞いてる?」

「めちゃくちゃ丁寧に説明したよねー!」

「もう1回最初から聞く?いや聞いて!あと100回は聞いて!」

「てかどう聞いてたらアレクサンダーになるのよ!」


「「「「レ・オ・様!!!」」」」



スマホ片手に凄まじい圧で迫ってくる4人は、この春入学した高校で知り合った新しい親友たち。

揃って夢中になっている乙女ゲームのアツいプレゼン中だ。



芽夏(ちなつ)もとりあえずダウンロードするところから始めてみよっか」

「絶対はまるから!今始めればレオ様のバースディーイベントに間に合うし!」

「どうしても どうしてもだよ?本当にどうしてもレオ様が合わなかったら他にも攻略対象いるよ」

「けどやればわかるってー 絶対レオ様だから!」


「「「「ねーーーーーー!!!!」」」」


言うだけ言って満足したのか、それぞれがスマホの中のレオ様の元へ帰っていく。



金髪碧眼、王子様と聞いてまず思い浮かべるイメージそのままの男がレオ様なのだそうだ。

なんとかって言う国の王子様でゲームアイコンにもなっているメイン攻略対象キャラ。

いやーベタすぎない?絵に描いたようなベタさだよ、いや絵だけど。


別に私もゲームが嫌いなわけではない。

むしろ好き、大好き、超好き。

受験が終わった日に始めたオンラインゲームが楽しくてたまらないのだ。

何時間もかけてキャラメイクした操作キャラは、完璧に私の好みを反映している。

背が高く、短髪黒髪で筋肉ゴリラ。ようやくレベル30になり双剣を扱えるようになったところだ。


まだまだ入れないダンジョンも多いしねー、レオ様に会う時間はないかな、ごめんね。


別段申し訳ないとも思わずそんなことを考えながら、残りのアイスティーを飲み干した。



「五人でお茶するのも久しぶりだよね」

夢の国から戻ってきた陽花(はるか)が言った。


「いつぶり?先週の木曜ぶりだっけ?」

「かなー、六日ぶり?」


私達五人は茶道部で知り合った。全生徒が部活に入らなくてはならない校則の中、週一活動お菓子つきの茶道は大人気だ。本当は剣道部に入りたかったんだけど、残念ながらうちの高校にはないんだよね。中学生の頃は陸上部で長距離を走っていた。走るのは今でも好きだけれど、バイトもしたいし、こうして帰りにお茶する時間も大事。やっぱり茶道部にしてよかったな。


最初は同じクラスの楓穂(かほ)と仲良くなり、帰りの電車が同じ方面だった陽花、(みどり)紅音(あかね)が自然と加わった。



「早く夏休みにならないかなー」

『何?予定入れたの?』

「バイトー!レオ様のバースディーイベント頑張りたいからね!」

「紅音課金するの?いいなー私もバイトしたい!」

「終わった・・・私前半はがっつり塾いれられてる・・・ランキング特典のスチル見せてね!」

「うん!頑張る!」


つ。ついていけない。レオ様の為にバイト?ランキング?


『紅音、レオ様にバイトって?何が始まるの?』


「わー!とうとう芽夏も興味出てきた?嬉しい~!さあさあ気が変わらないうちに今すぐダウンロードしよう!イベントは来週の金曜日スタートだよ!」


『じゃなくて!レオ様に誕プレでも送るの?どこに送るの?あ!ゲーム作ってる会社とか?』




「「「「もーーーー!!!!」」」」


「バースディーイベントって言うのがあってね」

「レオ様だけの新ストーリーが読めてね」

「ランキング上位に入ると特別なスチルが貰えるの」


『乙女ゲームにもランキング戦あるんだ!武器は何?双剣ある?』





「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」



『な 何?!』


「ごめん芽夏にはまだ難しすぎたわ」



なにさ、みんなしてバカにして。

ランキングに入るためには課金が必要なことくらいわかってますよーだ。


・・・ん?ちょっと待って?


『来週からバースディーイベントってことはもしかしてレオ様しし座なの?』


「「「「そうだよー!」」」」




やはりベタすぎる。双子キャラがふたご座なのと同じくらいベタだ。




----------




その後は夏休みの話で盛り上がり、暗くなってきたところで解散した。





『ただいまー』


「おかえり もうすぐ晩ごはんだから手を洗ってきて手伝ってね」


『はーい』



私の家は剣豪を何人も輩出した伝統ある道場・・・などではなく、ごく普通のマンションだ。

お父さんは普通のサラリーマン、そしてお母さんも普通の主婦。

二つ上の兄はこれまた普通―とにかく普通の見本のような一家だと思う。


もちろん私もかなり普通だ。だけど

あの可愛い制服が着たい!と決めた進路先が県内トップの女子高だったため、めちゃくちゃ勉強頑張ったのはちょっと誇っていいと思う。おかげで可愛い制服が着れて、いい友達もたくさんできて毎日が楽しい。




『ごちそうさまでした 先お風呂入っていい?』


今日は初めてレイド戦に参加する記念すべき日。レイドはレベル30にならないと参加できなく、普段は週末にだけ開催されているのだが、昨日レベルアップしたばかりの私のために特別にギルドマスターが開いてくれることになったのだ。


急いで入浴を済ませて自室にこもる。

まずは宿題片付けなくちゃ。鞄からノートと教科書を取り出して、本棚から辞書を持ってくる。

本棚には高校生になってから買った辞書や参考書が並んでいる。その横にはお菓子のレシピ本。

これも私の趣味の一つ。小さいころお母さんが焼くクッキーの型抜きを手伝ったり、クリームを混ぜるのをやらせてもらったりしているうち興味が湧いて、中学生になってからは一人で作るようになった。受験勉強で煮詰まっていた時期は、晩ごはんの後から作り出しちゃったりして、兄には「深夜の飯テロやめろ!」って何度も言われたっけ。

『最近ゲームばかりやっていたし 週末に何か作ろうかな』

って、その前に宿題だ。




さて!明日の宿題は終わったし、ようやくログインできる。

双剣で行ってみようかな、慣れてる両手剣の方がいいかな。



そんな風にしていつものように夜は更けていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ