7. 人は見かけによりません。キラーン(ΦωΦ+)←タヌキダケドネ。☆
『魔物資源活用機構』をお書きになっているIchen様よりFP頂き、挿し絵として挿入しました!(2022/2/27)
(笑った)
リコの作った食事を食べて、倫也が微笑む。
旨そうに食べて、おかわりをよそいに行き、旨そうに食べてはまた微笑む。
(また笑った)
リコを見て 倫也が笑う。
あはは、と 声を出して 倫也が笑う。
その度に リコの胸に しあわせのかけらが降ってくる。
◇
「散歩、行くか?」
食事を終えて執筆活動をしていた倫也が リコに呼びかけた。
(タバコが切れたんじゃな)
タバコが切れると倫也はいつもリコを散歩に誘ってくれる。
(コンビニのばいとに行ってるのじゃから、帰りに買って帰ってくれば良いものを)
そう思いながらも、リコはこの瞬間が好きだ。
倫也との時間が好き。
倫也とリコは二人で夜道を並んで歩く。
リコは犬らしく四ツ足で倫也の横をトコトコ歩く。
チラ、チラ、と、嬉しそうに倫也を何度も見上げるリコ。
はたからは よっぽど飼い主との散歩が楽しいんだろうと微笑ましく見えているだろう。
ふいに倫也が立ち止まり、ついっ、と、リコの後ろを通って右側に移動した。
(?)
なぁに?と、リコが倫也を見つめると、笑いながら倫也がこう言った。
「車道側は危ないだろ」
車道側、、あの鉄の塊り、車が走る側だ。
(トモヤ///)
満天の星空の下、リコはそんな倫也を見上げて思う。
“人の姿であったならな” と。
その日から リコは倫也がいない時を見計らって、夕飯を作るようになった。
◇◆◇◆◇
今日おトキとリコは 商店街ではなく川原の方へ散歩に出かけた。
「いつも荷物持ってもらって悪いわねぇ」
リコの背にはオヤツの入ったバスケット。
首にはグリーンのスカーフを巻いて。
犬らしく四ツ脚で おトキの横、車道側をトコトコ歩く。
倫也がリコを守ってくれたように、リコもおトキを守るのだ。
川は結構な大きさで、川原も広く、同じように犬の散歩に来ている者や小さな子供を連れている者がいた。
「こんにちは、おトキさん、マイちゃん」
「あや、おトキさん、マイちゃん、いい天気だね~」
子供の手をひくお母さん、
チワワを散歩中のおじいさん、
イノシシ退治の一件と おトキのおかげで(←街の地主=権力者)リコはすっかり有名犬
(おトキはワシなんかよりよっぽど化かすのがうまいわい)
“どう見ても たぬ――”
“犬です”
おトキはあの日、リコを初めて見た日に“たぬき”と言いかけたに違いない。
トモヤに遮られ、押し通され、おトキはリコを“犬”として受け入れた。
倫也とおトキがこれだけ念押しして リコを“犬”として紹介するのは そこに何かがあるのだろう。
郷に入っては郷に従え。
リコは大人しく『倫也の犬のマイ』を演じる。
しかし、中には騙されない者もいる。
それは……
“ジ――――ッ”
視線を感じて リコは顔を向けた。
“ササッ”
すると、ソイツは母親の後ろに隠れる。
騙されない者、それは『子供』
無垢で、真っ直ぐで、残酷なほどに純粋な目。
嘘のつけない瞳。
「あっ!お母さん見て、アレ、たぬ――……むぐっ、、」
前から大きなお腹の母親と歩いてきた別の子供が リコを指差し、珍しいものを発見したとばかりに母親に訴える。
しかし、母親は、サッ、と子供の口を塞ぎ、取り繕うような愛想笑いを浮かべて通りすぎた。
(何じゃろ……犬じゃなく狸だったら 狸汁にでもされるんじゃろか……)
↑『魔物資源活用機構』をお書きになっているIchen様撮影
【園児:純一と恭介の場合】
「あれ、タヌキだよね、キョウちゃん」
皆が犬だと言う、小説家のトモせんせいのとこのマイ。
今日、初めて見たけど、図鑑で見タヌキにそっくりだった。
“たけもとじゅんいち” 六歳。
母親の後ろに隠れた、ちょっぴりはにかみやのあの男の子だ。
「うん、間違いないと思う。」
それに答えたのは、
“うめざわきょうすけ” 同じく六歳。
幼稚園の年長組二人。
妊婦の母親に口を塞がれ、あれは犬だと言われたが、納得がいかない恭介は眉をひそめる。
「みんな、ダマされてるんだ。タヌキは人をバカすだろ?嘘は、ダメだと思う」
幼稚園の絵本でも、紙芝居でも、おはなし会でも、いつもたぬきは悪者だった。
このままでは街のみんなが悪いタヌキにせんのうされてしまう。
「なあ、ジュンちゃん、オレ達であのタヌキをやっつけようよ」
「えっ!でも……」
「なんだ、ジュンちゃん、コワイのか?」
「そんなんじゃないけど……」
コワイのだ。
「そんなんでどうするんだよ、来年、小学生になるんだぜ?オレには、もうすぐ妹が産まれるんだ。オレが守ってやらないと」
「うん……」
「大丈夫!オレがついてるから」
恭介が純一を勇気づける。
(カッコいいな、キョウちゃんは)
かけっこが早くて、ケンカも強く、女子にも人気があり、純一の憧れの恭介。
誰にも負けたことのない恭介。
その恭介が言うんだから、出来る気がしてきた。
「うん。やろう。でもどうやって凝らしめるの?」
「そうだな、、あっ!」
恭介は辺りを見回し、あるものを発見した。
「ジュンちゃん、ボートがあるよ」
「ボート?どうするの?」
あまり乗り気でない純一が恭介に尋ねる。
「“カチカチ山”では悪いタヌキは泥の船に乗せられて川に沈んでいったろ?壊れたボートに乗せたら あのタヌキ、溺れて化けの皮がはがれるよ、きっと」
「でも、ちょっとかわいそうじゃない?」
「ホントに犬ならいぬかき出来るさ、とにかく行ってみようぜ」
よくわからない子供なりの理屈で、純一と恭介はボートのそばまで行ってみた。
それは 川のすぐそばの岸にあげられた 簡素な木のボートだった。
見るからにボロボロで、所々に亀裂が見える。
「コレにおびき寄せて乗せたら沈むよ、きっと」
ボートを見た恭介は 自分の思いつきにうきうきと興奮気味。
気分は正義の味方だ。
「でも、二人じゃ動かせないよ」
「やってみなきゃわかんないじゃん、ちょっと押してみようぜ」
恭介に促され、純一は恭介と二人してボートの後ろに並び、押してみた。
しかし、びくともしない。
「ダメか」
しかし恭介は諦めない。
「オレ、前から引っ張るから、ジュンちゃん後ろから押してよ」
そこで恭介はボートの先頭へまわり、ヘリをつかんで引っ張る事にした。
「行くよー、せーのっ、、」
ふんっ、、と、二人してタイミングを合わせて力を入れるが、やはり動かない。
「もう一回、せーのっ、、ふんっ、、」
その時だった。
“バキッ”
木が折れる音がしたかと思うと、前でボートのヘリをつかんで引っ張っていた恭介が『わっ!』と 悲鳴を上げた。
その後に、“ドボン!”と。
「キョウちゃん?」
顔を上げた純一の前に恭介の姿はなく、代わりにバシャバシャと水を叩くような音がする。
「キョウちゃん!」
ボートの先、川の中で恭介がもがいている姿がすぐに見えた。
純一は慌ててボートの前に走る。
「キョウちゃん!!」
雨風にさらされて脆くなっていたために、恭介が掴んでいた部分か壊れ、思いっきり引っ張っていた恭介は、支えを失ってそのまま後ろの川へと落ちてしまったのだ。
「キョウちゃん!!」
純一は恭介に向かって手を伸ばす。
が、全然届かない。
(長いもの、、長いもの、、)
恭介に届くよう、何かないかと足元を探す純一。
足元に ボートを漕ぐオールが落ちている。
純一はそれを拾い、恭介に差し向けた。
「キョウちゃん、捕まって!」
手に木のささくれがチクチクする。
でも、そんなこと言ってられない!
純一は恭介に向かって精一杯オールを伸ばした。
「キョウちゃん!」
しかし、恭介はバタバタ、アプアプともがきながら、川の流れに流されて少しずつ遠くなって行く。
「キョウちゃん!キョウちゃん!!」
純一は涙目になりながら更に手を伸ばし、恭介に届けとオールを先に出す。
長いオールは先の方が重くて、純一の体はバランスをとれずに前へと持っていかれ、グラリと体が傾いた。
「あっ!!」
純也の体が水面へと投げ出される。
(落ちる!!)
投げ出された体は 最早自分の自由にはならない。
水に落ちる恐怖が 純也を襲った。
「うわあっ!」
しかし、そこまでだった。
ダメだと思ったその時、ぐっ、と 純一の体が止まったのだ。
ギリギリ、岸辺に足をかけたまま、斜め前方に傾いたままで。
(?)
後ろで誰かが純一の服を掴んでいる。
純一は びっくりしたまま、首だけを後ろに振って、その人を見た。
(えっ!?)
後ろを振り向いた純一は、その人を見て更に驚いた。
それは人ではなく、先程 純一達がこらしめようとしていたタヌキ――――マイだったからだ。
(あのタヌキ……)
悪いタヌキのはずなのに。
そのタヌキが自分を助けてくれている。
タヌキは、、マイはその小さな体のどこにそんな力があるのか不思議な程力強かった。
ぐいっ、と純一の服を引っ張り、後ろへと移動させると、川岸に仁王立ちになり、流されていく恭一を見つめる。
気づいた大人達が恭一に駆け寄り、助けようと手を伸ばしているが届かない。
恭一の母親は 妊婦なのに我が子を助けようと川に入ろうとして止められている。
川原にいるのはお年寄りばかり。
「助けて――」
純一は泣きながら助けを求めた。
「キョウちゃんを、助けて――」
切なる願い。
心の叫び。
誰にかけるともなしに出た言葉だった。
その時、純一は見た。
目の前のタヌキがチラリと純一に目をくれて、力強く頷いたのを――
『魔物資源活用機構』をお書きになっているIchen様が、なんと、山で出会ったたぬきちゃん撮影!!
うはぁ( *´艸`)リアルリコ!かわいい♪
FP、ありがとうございます!!