3. ワシとおトキのガールズデート ⋝^⁎⓿ ᴥ⓿ 人´∀`*)♪うふふっ ★★☆
挿絵挿入(2022/1/29)
『魔物資源活用機構』をお書きのIchen様より、FPいただきました!
後書きにてご紹介(2022/2/1)
わし、化け狸の狸妓。
可愛いたぬきの女の子。
魔法と魔物の溢れる世界におったんじゃが、おいたが過ぎて 魔法使いに甕の中に封印され、人を幸せにできれば元の世界にかえしてやると、神に現世に落とされたのじゃ。
ここ、現世では人化ができんから、今はちょっと器用なただのかわゆいこだぬきじゃ。
そして、ワシのターゲット『卯月 倫也(30)』
主食はコーヒーとおにぎり、それとポテチ(のり塩)。
倫也はもの書きを生業としている。
いつもボーッとして見えるのは もじゃもじゃの頭と、頭の中がどっかへ行ってしまってるからじゃ。(←小説の構想の中にダイブしっぱなし)
髪をあげてシャキッとすればなかなかのイケメンだと思うのじゃがな。
こやつを幸せにすればワシは元の世界に帰れるんじゃ。
◇
「じゃあ、行ってくるから、大人しく待ってろよ」
倫也は昼近くになるとバイトに出かける。
もの書きの生業だけでは食っていけないからだ。
夕刻に帰って来て、バイト先のコンビニで買ってきたおにぎりを食べながら机に向かい、執筆にかかる。
(菓子に穀物、圧倒的に野菜不足じゃ)
肉も足りていないだろう。
“腹減ったな……なんか食いたい”
リコがキャッチしたのはそんな倫也の呟きだったが、なんかじゃだめだ。
(腹が膨れれば幸せか? 美味しく、栄養があれば心身共にもっと幸せになれるじゃろ!)
そんなリコの心配をよそに、倫也は玄関に鍵をかけてバイトへ行ってしまった。
(さて、ワシも出かけるかな)
リコはベランダに出ると ぴょいっ、と手すりに乗っかった。
とととっと手すりの上を歩き、隣の家を通りすぎ、一番端まで歩く。
そして、雨どい用のパイプにしがみつくと、つるる~っと 二階から一階へと滑り降りた。
一階の左端の部屋はこのアパートの大家、『成沢登喜子(75)』が住んでいる。
先日、リコが助けたおトキの部屋だ。
あれからちょくちょく様子を見に来ている。
リコは おトキの部屋の庭に下りると、縁側からあがり、スライド式の戸を開けると、部屋へと入った。
「あら、マイちゃん、いらっしゃい」
おトキがリコを見て笑顔を見せる。
マイというのはリコのこの世界での名前。
リコは何故か倫也の犬として飼われる事になり、倫也がつけてくれた名前だ。
「ごめんね、折角来てくれたんだけど、これから買い物に行こうかと思って、、」
おトキは外出のため、鮮やかなグリーンのカーデガンを羽織り、買い物かごを手にしていた。
(なんじゃ、出かけるのか)
「商店街なんだけど、マイちゃんも、行く?」
(ふむ、商店街とな?市場か。おトキは心の臓が弱いんじゃったな。よかろう、ついていってやろう)
“アンッ”
リコはおトキに肯定の返事を返した。
「でも、マイちゃん、首輪してないのよね、リードもないし、、」
おトキは、ん~、と、考えて、あっ!と、タンスを開けた。
しゅるり、キレイな布を取り出すと、リコの首に巻きつける。
「スカーフよ。私はもう使ってないから、マイちゃんにあげるわ」
おトキのカーデガンと同じ、グリーンを基調とした スベスベのスカーフ。
(絹じゃないか!中々趣味がよいな、おトキ!手触りも抜群じゃ!)
「うふふ、おそろいね」
(うむ、アガルのう)
気分上々、テレビのおかげで色々な言葉も覚えたリコ。
“キャンッ♪”
二人でオシャレして、アゲアゲで商店街に出発です。
◇◆◇◆◇
商店街は 平日、昼前というのもあり、それほど混みあってはいなかった。
屋根付きのアーケードで、雨の日も快適に買い物が出来る。
大きなスーパーはないが、肉屋、魚屋、八百屋に果物屋は勿論、靴屋、服屋、金物屋、100円ショップと、ここにくれば生活に必要なものが十分にそろう。
「やぁ、おトキさん、買い物かい」
タバコ屋のオヤジがおトキを見て挨拶をし、足下のリコを見て、目をあげかけたが、もう一度見直す。
「おトキさん、そのたぬ――」
「ああ、このワンちゃん?」
タバコ屋のオヤジは何をいわれたのかわからずフリーズした。
「このワンちゃんはね、トモさんとこのマイちゃんよ」
「先生のとこの……犬?」
「そ♪よろしくね」
「……犬か」
仕方がないので、リコは、ぽかんと化かされたような顔のオヤジに向かって、犬らしく鳴いてみせた。
“キャンッ”
o(´∀`* )o——–⊆⓿U )┬┬~…
くるくる、赤と青のねじねじポールのまわる理髪店の前を通る。
暇なのか、店の外のベンチで白衣のオヤジが新聞を読んでいた。
「やあ、おトキさん――」
声をかけてくる散髪屋のオヤジは、挨拶もそこそこにリコに釘付け。
散髪屋のオヤジの視線の先を見て、おトキがリコを紹介する。
「トモさんとこのワンちゃん、マイちゃんよ」
「先生のとこの……」
「かわいいでしょ?」
屈託ない笑顔のおトキに言われ、散髪屋のオヤジはとりあえず肯定する。
「可愛いい、、可愛いね、だけど、それ、犬じゃなく、たぬ――」
「ワンちゃん」
「え?いや、どう見ても、たぬ――」
「ワンちゃんなの」
「……」
おトキの言葉に リコはとりあえず 犬らしく鳴いておいた。
“キャウンッ”
⊆⓿ U)┬┬~——–o(´∀`*)o…
そんなやり取りを各所で繰り広げながら、商店街を進み、リコとおトキは 最初の目的地 八百屋に到着した。
◇
【八百八店主:政の場合】
「こんにちわ、マサさん」
「おトキさん、いらっしゃい、何にするね」
八百八店主、通称八百マサ、八百屋のマサは、この辺の地主の登喜子の来店に調子良く挨拶を返した。
成沢登喜子、通称“おトキさん”は先代からの馴染みで、若い頃はこの辺のマドンナ的存在だったとか。
“高嶺の花”
“お嬢さん”
いまもそれを彷彿させる、品のあるおばあちゃんだ。
子供に代をうつしてからは、旦那と二人でひっそり安アパートに住んでいたが、旦那が亡くなり、今は一人で旦那の思い出と暮らしている。
「今日は肉じゃがのつもりだから、ジャガイモと人参をいただこうかしら」
「あいよ。見繕うかい?」
「大丈夫よ、のんびり選ぶから。それと、ワンちゃんが一緒なんだけど、いいかしら?」
「なんだ、犬を飼い始めたのか、いいねぇ~、構わねぇよ」
お娘も孫も近くの邸宅にすんではいるが、おトキは独り暮らし、犬がいると聞いて、マサは少しホッとする。
八百屋の店主マサは、トキの後ろにいる犬に目をむけた。
黒っぽく可愛らしい小さなあんよに、もっふもふの薄茶と焦げ茶のグラデーションが美しい毛皮。
首には首輪ではなく、おトキさんとおそろいの色、グリーンの洒落たスカーフが巻かれている。
(毛足の長い犬だな)
本人(?)を首に巻いたら気持ち良さそうだ。
小さな耳に、太い尻尾。
つぶらな瞳、目の縁が黒く、そのせいでタレ目にみえるのが可愛い――……
(犬?)
「うちじゃなくて、トモさんとこのマイちゃんよ」
「ああ、本書きの先生んとこの……」
(犬??)
「そう。可愛いうえに、賢いの」
二度見で済まず三度見するマサ。
(犬ぅ???)
マサの疑問をよそに、木箱にゴロゴロと入っているジャガイモを選ぶおトキさん。
おトキがジャガイモを選び、1つ手にすると、その犬が、“アン”と鳴いた。
「ん?なぁに?マイちゃん」
犬は、おトキを見上げると、ふるふると首を横に振った。
そして、木箱の縁に手を掛け、体をのばし、二本足で立つと、中を覗き、沢山のジャガイモの中の1つをちょんっと指し示した。
(器用なもんだ)
「これ?こっちのジャガイモがいいの?」
おトキの言葉に犬がウンウンと首を縦にふる。
「じゃあこれにするわ。マイちゃん、あと三っつほど選んでくれる?」
“アンッ”
おトキの言葉がわかるのか、犬は 更に三つのジャガイモを選び、続いて人参も選んだ。
(賢いな)
器用なだけでなく、おトキが言うように、本当に賢い。
マサは感心してその様子を眺めている。
犬は店内の野菜を吟味するかのように見ながら歩くと、里芋の前で立ち止まった。
里芋をじーっと見つめ、おトキを見て小さく吠える。
“キャンッ”
「なあに、マイちゃん、里芋も欲しいの?」
またもやウンウンと犬が首を縦にふった。
犬が本当に理解しているとは思えないが、まるで会話が通じているように見え、なんともほほえましい光景だ。
(あの里芋を選ぶとは、鼻の効く犬だな)
全面的に前に押し出しているわけではないが、今日の里芋は、マサが今朝仕入れた中で、掘り出し物だと太鼓判をつけたイチオシだ。
「犬って里芋食べるのかしら……」
(いや、その前に犬じゃない。犬じゃないよおトキさん)
「茹でればいいかしら」
おトキのつぶやきに、犬は店先にある焼き芋マシーンの前に行き、タシ、タシ と、マシーンを叩いた。
「焼き芋?里芋を?」
“アンッ♪”
(!?)
何ということだ!?
あの犬は、旬の里芋を選んだだけなく、一番美味しい里芋の食べ方を知っている。
皮のままアルミホイルにくるんでコンロについている魚焼きグリルに放り込めば、家庭でも簡単に出来る焼き里芋。
ホクホク、ねっとり、皮はつるんとむけて、塩を振って食べれば、内側に凝縮された里芋の甘みを存分に感じる最高の逸品だ!
シンプルだからこそ、素材の旨さをまるごと味わえる。
(うちでも出そう、焼き里芋)
「じゃあ、マサさん、これ、お願いね」
「まいど!」
マサはいいアイデアをもらい、感心しながら、トキに手渡された野菜を袋に入れるために手に取り、更に驚いた。
(!!?)
箱に入っていたジャガイモ、人参は どれも似たり寄ったり、普通のジャガイモだ。
しかし、あの犬が選んだジャガイモは、その中でも質のいいものばかりだった。
生育しすぎのジャガイモは皮が厚くなる。
軽いものは水分が抜けている。
でこぼこの多いものは生育不良。
しかし、手渡されたジャガイモは固くて重量感があり、シワもなく、皮も薄く、表面がつるんと瑞々しい光沢を放っている。
(やるな)
人参も葉を落とし、やはり箱にごろっと入れてあった。
人参はそのイメージから、三角の、それも大きいものが良く売れる。
子供が絵に描く、いかにも人参らしい人参だな。
しかし、本当は、元も先も 少し丸みのあるものが甘いのだ。
犬が選んだ人参は、切り口の軸の部分が細い。
ここが太い物は硬い芯の部分が多く収穫遅れや、育ちすぎだったりする。
ポイントは、切り口の直径が小さくその割に太めの人参。
ひげ根(横にはいる白い線)が均等なのは、急激に成長したのではなく、じっくり育った証拠。
(なんてこったい!)
色濃く、ツヤのあるオレンジ。
いい人参だ。
犬だろうが犬じゃなかろうがどうだっていい。
あいつがもしも喋れたなら、野菜について語り合いたい……
おトキと犬は、マサから野菜を受けとると、肉屋へ行くと、八百屋を後にする。
マサはおもわずその背に声をかけた。
「また、、また来いよ!」
おトキが振り向いて マサに笑顔で手を振った。
「また来いよ!マイの字!!」
今度は犬も振り向く。
「相変わらずデカイ声ね、、」
ちょっと感情的なマサの声に、何事かと奥から嫁が出て来てマサの顔を見てぎょっとする。
「……何泣いてんの、あんた」
「いや、、感動した、、」
「は?」
「オレもあんな息子がほしかった……」
「息子?いるでしょ、三人も」
残念ながら、リコは女の子です、マサさんや。
ヽ(´⓿ω⓿)八(´∀`*)ノ
「マイちゃん、ほら見て、トモさんよ」
八百屋から肉屋に行く途中で、倫也のアルバイト先のコンビニを通りかかった。
倫也は無表情でレジ打ちをしている。
というか、前髪で顔がみえん。
ひょろりと背が高く、パートのおばちゃん達よりひと頭、いや、ふた頭程高いのだが、猫背気味でぬぼーっとして見える。
「お客様をもてなす気ゼロね」
ニコリともしない。
作業をこなしているだけ。
「笑うことあるのかしら、トモさん」
(笑わんのか、トモヤは)
初めて倫也と会った時、ベッドの下を覗き込んだトモヤは 優しい微笑みをリコにくれた。
優しく撫でてくれた。
(わしだけが、知っとる顔……)
きゅん、と、リコの胸に こそばゆいような、ふわっとした、あったかな光が灯る。
「あ、トモさん、気がついた」
トモヤがリコを見る。
ドキリ、リコの心が跳ねる。
(今、笑った?)
リコは倫也の口元に、かすな笑みを見た(←野性的視力11.0)
(ワシに 笑いかけてくれた……)
リコだけに……
(ワシ、病気かな)
心の臓がドキドキする――……