2. ワシは犬のお巡りさんなのじゃ U・ω・U ワン ★
挿絵挿入(2022/1/26)
清々しい朝が来た。
(むっはぁ///)
倫也のベッドで一緒にぬくぬくと一晩を過ごしたリコ。
(30代、男盛り、ムンムンじゃな///)←コラコラ
久しぶりに人の精気を浴び(←たぬきの姿で隣に寝ただけ)、気力充満、元気溌剌、ぱっちりお目覚め、異世界からやって来た化け狸のリコ。
この現世には魔力自体がなく、相変わらず妖術は使えませんが。
倫也がベッドから出てキッチンへ向かい、お湯を沸かし、コーヒーを入れる。
“カチャッ”
倫也がキッチンの四角い箱のダイヤルを捻ると、青い火が着いた。
“ボッ”
コンロだ。
(ふむふむ、あれが、竈か)
箱についているダイヤルを捻ると火力が調節出来るようだ。
(あれなら術者の力量にかかわらず、誰でも簡単に火が操れる。しかも、青い火。一瞬で高温の炎を作り出すとは、便利な魔法具じゃな)
この世界は魔法が使えないかわりに道具が発達している。
竈がわりの『コンロ』をはじめ、四角い大きな箱は物を冷やす『冷蔵庫』下には凍らせる『冷凍庫』
食べ物を温める『電子レンジ』に、部屋を冷やしたり温めたり出来る『エアコン』
他にも、色々あるようだ。
倫也が湯を沸かしながら リモコンを押し、テレビをつけた。
“ピッ”
(ぬっ!)
リコは咄嗟に身を低くする。
(オノレ、面妖な怪物め!今度は逃げんぞ!!)
昨日の屈辱は今日晴らす!!
ジリジリと匍匐前進でテレビのそばまで行くと、画面に映る男に向かって下から“ピシッ”と 肉球パンチを喰らわした。
(あれ?)
肉球パンチを喰らった男は 何事もなく淡々とニュースを読み上げている。
“ピシピシ”
『続いてはお天気です。晴ちゃ~ん』
『はーい♪』
男がいなくなり、空が映った。
(ぬ!逃げおったな!)
リコはテレビの後ろに回ってみる。
(あれ?)
いない。
テレビの後ろはコードとホコリだらけ。
(あれぇ~?)
「何やってんの?テレビ、壊れるから」
幅2センチ程の薄いテレビの上に乗っかり覗き込んでいると、倫也に怒られた。
ひょいっ、と 倫也の小脇に抱えられ、テレビから離される。
倫也はベッドサイドのクッションにもたれると、リコを小脇に、テレビを見ながら コーヒーをすする。
『ハ~レバ~レ』
テレビの画面に太陽の顔の男が現れた。
『晴れ男爵のハレダスさんが来てくれましたね!ハレダスさん、今日のお天気は?』
『ハレダス!』
『と、いうことで、今日は全国的に気持ちのいい青空、洗濯日和です』
(ほう!こやつらは天の使いか。ふむ、今日の天気を教えてくれるのか)←ちょっと違う。
どうやら箱の中の人物はあの箱から出て来ないようだった。
(ふん、ワシに恐れをなしたか)
『さあ、お待たせしました、8時半からはみんな大好き“盛りっと森キュア”です。良い子のみんな、いい1日を!』
天気予報が終わると、画面がカラフルな七色に輝き、軽快な音楽が響きだす。
♪街~の平和を守るため 今日も盛り盛り森パワー(全開♪)
君~のハートをキャッチして 幸せお届け☆☆((ガンバるぞ~・オーっ♪))
フリフリ、ふわふわのドレスを来た五人の可愛い女の子が踊り出した。
(な、なんじゃこれは、、絵が動いて喋っておる!!)
♪元気をお届け☆ピンキー・ラブリー“月野うさぎ”
(うさぎ耳、獣人か?)
♪爆裂!豪快!困難なんて打ち砕け“紅ほのか”
(今度はキツネじゃ)
♪頭脳明晰♡水色マジック“水川ささめ”
(ヒレが耳についとる、魚人?)
♪癒しの魔術師、森の守り人“今井☆舞”
(あ!たぬき!たぬきじゃ!!)
♪沈着冷静姉御肌♪動かざる事地の如し“安藤静”
五人揃って~“盛りっと森キュア”
“ピッ”
(あっ!)
倫也がチャンネルを変える。
(たぬきのコ!たぬきのコを見せておくれ!!)
リコは森キュアが見たくて、リモコンを持つ倫也の手にしがみついた。
「え?何?見たいの?」
ウンウンと首を縦に振る。
そして、うるうると懇願の瞳で倫也を見上げた。
「ぷっ、変なの」
倫也が可笑しそうに目を細めながら、わかったわかった、と、リコに森キュアを見せてくれた。
◇
森キュアを見るリコの隣で 倫也が袋を取り出してあけた。
“カサリ”
カサカサと軽い音。
(菓子か?)
倫也は意外と子供っぽいとこもあるんだなとリコは微笑ましく思った。
(しかし、朝飯も食わずに菓子を食うとは、イカンな)
倫也の朝はコーヒーだけ派のようだ。
“パリッ、サクッ”
袋から出てくるのは 薄く、丸い、スライスされた――
(芋!?)
ポテチです。
ほんのり磯の香りがする。
(芋♡)
リコは倫也の持つ袋に手を突っ込むと 一枚つまんで口抜き取る。
「あっ!コラ!」
“パリッ、カリッ”
ほどよい塩気と青のりの香り。
香ばしくオイリーな味わいの後に芋の甘み、、
(ん///~まいっ!)
軽い。
どこまでも軽い!
(もっと///)
もう一枚、と、手を出したところで リコが届かない高さに倫也が袋をあげる。
「ダメだよ、コレ塩分高いんだから!」
“キキッ”
(何を!倫也は食っとるではないか!!)
「めっ!」
“きゃうっ”
倫也に怒られ、しょげるリコ。
倫也はしょんぼりするリコに弱いようで、“一枚だけね”と、塩を落としてリコにポテチを渡してくれた。
「お前、出先が器用なんだな。二本足で歩くし」
(まあ、ワシは特別じゃからな)
“あぐ、パリッ”
リコはポテチを手に豪快にかぶりつき、もぐもぐ。
手についた海苔をなめなめ。
倫也がリコの手をとってティッシュで拭う。
「マジックハンドとか?」
倫也がリコの肉球をもにもにする。
(うはは、くすぐったい、やみれ~///)
“……けて”
(ん?)
倫也に遊ばれていたら、リコの耳に微かな声が聞こえて来た。
リコはピンっと 耳をそばたてる。
“たす、けて、、”
誰かが助けを呼んでいる。
リコは、ぴょいっ、と身を翻すと、玄関へと走った。
「え?何?」
呆気にとられている倫也を振り向くと、玄関に張りつき、開けろとアピール。
「外に出たいの?」
(そうじゃ!はよせんか!)
「トイレ?」
(乙女に何ちゅー事聞くんじゃ!いいから早よ開け!開けんとドアぶち破るぞ!)
リコはカリカリとドアを引っ掻く。
「わかったから、引っ掻くな、、」
倫也がドアを開けるや否や、リコは階段をかけ下りた。
倫也が後をおいかけると、リコは階段のすぐ下、アパートの一番端のドアの前にいる。
「お前、そこは――」
またもやリコは倫也にドアを開けろとアピールする。
「大家さんの部屋なんだけど、参ったな。動物がいる事、まだ言ってないんだけど……」
倫也は何やら戸惑っている。
“ううっ……”
その間もリコの耳には中で苦しそうに呻く声が聞こえている。
“キャウッ!”
(早よせんか!倫也!)
リコが倫也に早くしろと吠える。
「まあ、どうせ言わなきゃいけないしな」
倫也はようやくドアをノックした。
“コンコン”
「おトキさん、おはようございます、二階の卯月です。朝早くスミマセン」
返事はない。
「おトキさん、、いないみたい」
(そんなはずはない!)
「あっ、どこに、、」
リコは倫也をおいて裏に走ると、縁側にあがった。
ガラス越しに 人が倒れているのが見えた。
縁側はスライド式のドアだ。
これならリコも開けられる。
リコは戸に手を掛け横にスライドさせた。
鍵はかかっておらず、開けた隙間から中に入った。
(大丈夫か!?)
白髪の老人がうずくまっていて、苦しそうに胸をおさえている。
「く、、すり、、」
老婆が手を伸ばす先に カバンがある。
(これか!?)
リコはカバンを掴むと、カバンの口を開き 老婆の前へ起く。
老婆が薬を取り出し、飲み込んだところで倫也が庭から入ってきた。
「おトキさん!」
倫也があわてて駆け寄る。
「心臓の発作だね、大丈夫!?」
ウンウンと頷くおトキさんに、倫也は背中をさする。
「今、救急車呼ぶから」
「大、丈夫、、薬、飲んだから」
「でも、診てもらわないと――」
「いいから、、」
しばらくすると おトキさんは調子を取り戻したようで、ありがとう、とお茶をいれに立とうとした。
「オレがいれるから、おトキさんは座ってて」
「悪いね、トモさん」
倫也はよく来るのか、慣れた感じでキッチンでお茶をいれている。
(家主と言っていたな、家族ではないようだし、倫也はこのおトキさんとやらに住まわせてもらってるようじゃな)
家主と仲が良いのは良いことだ。
「トモさんが来てくれて助かったわ」
(助けたのはワシじゃがな)
「体の事もあるんだし、そろそろ息子夫婦と住んだら?誘われてるんですよね」
「はいはい、その話はまたね。で、トモさんは朝から、何用だったの?」
「何用っていうか、ソイツが急に走り出して、オレは追っかけてきただけで、、」
おトキさんがリコを見る。
リコもおトキさんを見る。
「まあ、この、たぬ――」
「犬です」
「え?」
(え?)
おトキさんの言葉を遮るように倫也がかぶせ、倫也の言葉におトキさんもリコも目が点になる。
「いや、どう見ても たぬ――」
「犬です」
お茶を持って戻って来た倫也の笑顔の圧。
おトキさんが再度リコを見る。
リコもおトキさんを見る。
「……ワン、ちゃん?」
「はい、昨日迷いこんできたんで、言うのが遅くなってすんません」
「それは良いんだけど、、ワンちゃん?」
「はい。」
(何度も聞き直したくなる気持ち、わかるよ、おトキ。ワシも聞き直したい)
しかし倫也の返事はかわらず。
あろうことかリコに右手を出してこう言った。
「ワン子、お手」
(ぐ、、なんだ、その名は)
名前も犬扱いも気にくわないが、倫也を幸せにしなければ元の世界には帰れない。
倫也を幸せにするのなら近くにいたほうがいい。
それに、、
(倫也の温もりは離しがたい。蜜の味じゃ///)
穏やかで優しい倫也の精気は魅力的だ。
リコは渋々倫也の手に右手をのせる。
「ワン子、おかわり」
(くっ、、屈辱)
嫌々左手をのせる。
「トモさん、その名はどうかと思うわよ」
ひきつるリコの乙女心を知ってか知らずか、おトキさんが名前にツッコミをいれてくれた。
「そうですかね?ん――……」
じゃあ、と 考えて、倫也がリコに名前をつける。
「……マイ」
(えっ!?)
それって、さっき見た 盛りっと森キュア 癒しの魔術師たぬきっ娘の、今井――
「マイ、返事は?」
「キャンッ///」
嬉しくて、リコは倫也の胸に飛び込んだ。
「あらあら、よっぽど気に入ったのね。うふふ、可愛い。マイちゃんうちにも遊びに来てね」
「キャンッ♪」
(うむ、よかろう、老人一人では何かと心細かろうて、ワシがパトロールに来てやろう)
おトキさんは命の恩人マイことリコを快く受け入れてくれた。
こうしてリコは 倫也の犬になった。
長編では狐のヨーコ、狸のリコ達は人の精気をちょっとずつ食べる設定です。
因みに悪魔は人の感情を味わいます。