表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せの予感 2021 4月〜  作者: 倉門 輝光
2/7

2 女神様の計らい?

4月の再会から1ヶ月。「またね」と言って電車を降りて行った(はるか) とは全く会うこともなく日々は過ぎていた。 


(1話目と同時投稿です)

 

 


 「あなたが落としたのは金のポッキーですか?それとも普通のポッキーですか?」


 女神(多分)が淡いピンクのきらきらした(もや)の中で言った。

 落としたかどうかはわからないが俺が好きなのは極細ポッキーだと思い、そう言おうとした。


 「俺は極細ポッ…」

 

 「そうですか。では、正直者のあなたには△#$%&↑をあげましょう」 


 俺の言葉を遮った女神は、にっこり笑って「△#$%&↑」をくれると言った…が、何だって?

 「△#$%&↑って何?」と問おうとしているうちに女神は「うふふふ」と笑いながら光に消えていった。


 



 そこで俺は目が覚めた。


  「…夢か」


 女神が出て来るなんて、まあ間違いなく夢だろうなと思いながら起き上がる。


 今日は休日だ。

 伸びをしてベッドから降り、冷蔵庫を開けてペリエを一気飲みする。プハーッといいながらスマホをチェック。

 友人からのメールが来ている。


 「本日、16時30分からの公演おまちしてまーす!開演15分前には来てね。チケットは受付で受け取ってください。お前の為に…じゃなく、俺は俺の為に今日も頑張る!お前は客席からかっこいい俺様を見よ!そしてひれ伏せ!」


 暑苦しい奴だ。まあいい、返信をしておこう。 


 「ふふふはははは!かっこいい俺様が、そこそこかっこいいお前の頑張りを観に行ってやるぜ!舞台上から客席の俺の輝きを見て恐れ慄くが良い!!」 


 よし。

 あ、そうだ。差し入れにポッキーを持って行ってやろう。


 「夢で女神様のお告げがありました。今日のラッキーアイテムはポッキーです。差し入れで色々なポッキーを持って行きます。受付に預けます」 と追加でメールする。


 コロン禍でなければ終演後に楽屋見舞いに行くのだが、このご時世では行くべきではない。


 今回、奴が出る舞台は出演陣も豪華で演出も派手で面白いらしい。評判も良いようだ。

 本当はもっと早い日程のチケットを頼んでいたのだが、地方での公演を終えていざトーキオ公演という時に、スタッフや関係者にコロンの感染者が複数出てしまい休演となった。その為、当初予約をしていた日はキャンセルになった。


 そのまま公演そのものが中止になるのではないかと思ったが、「後半の日程は公演やれる事になったから、来られたら来てよ」と連絡が来て、日程変更でチケットを取り直してもらったのだ。 


 舞台は体力勝負でもある。栄養ドリンクも一緒に持って行こうか。そんな事を考えながら、窓を開け軽く部屋の掃除をして観葉植物に水をやる。

 それから少し筋トレをして、替えたシーツを洗濯物と一緒に洗濯機に放り込みシャワーを浴びた。


 パンをトースターに入れ、冷蔵庫からハムと卵を出し、ついでにまたペリエをキュッと飲む。ハムと卵を焼いて塩胡椒を振る。昨日コンビニで買っておいたカップのコーンスープに湯を注ぎ、サラダをパックのままテーブルに出す。コーヒーもインスタントだ。ああ、ヨーグルトも買っておけば良かったか。


 ハムエッグと野菜をトーストに乗せ、マヨネーズをかけて更にトーストを乗せてサンドイッチにする。それを真ん中から切って朝食完成。パソコンを立ち上げて画面を見ながら食う。


 洗濯機のスイッチを入れ忘れていた。洗剤と柔軟剤をセットしてスイッチオン。

 戻って来て動画を観たり、休みなのに仕事のメールをチェックしているうちに、陽気が良いせいもあるのか眠くなって、洗濯機が止まったら起きようと思いながら、睡魔に引き摺られるようにソファで横になった。まあ、休みだから良いのだ。


 洗濯機が止まった音がした。起きなきゃ。そう思うのにぼんやりとしたまま過ごす。窓から入って来る風が気持ち良い。なんでこんなに今日は気持ちが良いんだ。起きられないじゃないか。


 俺は半分寝たままこの後の予定を考えた。

 16時10分位には駅に着いていた方が無難だな。あそこのスーパーで買い物をしてから行くから、15時には家を出た方が良いか…。てことは14時30分位まで寝てても良いって事じゃないのか。うん、大丈夫、大丈夫だ。


 そよそよと風に吹かれながら再び眠りに落ちて行く俺。耳元で鳴ったメールの着信音にハッとして起きると、既に15時前だった。「やばい!」と声に出して起き上がる。 


 今朝送ったメールへの返事が来たのか。「はーい。サンキュー。待ってるぜ〜」というメールに親指グーの絵文字で返し、高速で着替えて家を出た。あっぶね〜、やっぱ用事の前に仮眠はダメだわ。反省。


 反省と言いつつ、この焦りと慌て感は初めてではない。またやってしまった。いつもギリギリでセーフになるからか、反省はするがちょっとだけこのギリギリ感がたまらない気もしてしまう。

 信号待ちをしながら「このチャレンジは多分一生治らんな」と自嘲していると、ふわりと吹いて来た風と共にふいに甘酸っぱい感覚に襲われ、懐かしい(はるか)の「遅い!」と言う声が聞こえたような気がした。


 ああ、そうだ。(はるか)との待ち合わせでも寝過ごしてギリギリになり怒られたものだ。何で急にそんな事を思い出したのか。この心地よい風のせいかなんて思ったが、信号が青になった事で意識は切り替わる。俺は急いで道を渡った。


 スーパーの菓子売り場に行くと、コンビニではあまり見かけない金と銀のFramがあったので、「女神が言ってた金のポッキーってこれだな」と、それも含めて数種類のポッキー、トッポ、プリッツをカゴに入れる。そして全部が入りそうなサイズの贈り物用のきれいなリボン付きの袋を買った。

 花屋に寄って花束を買う。作ってもらう時間がないので、作り置きの花束から芍薬がメインになってる華やか目のものを選んだ。


 劇場までは電車で30分程だ。近くて良かった。花束を持って電車に乗るとチラチラと見られる。はい、知ってます。俺はこういうのが似合うんだよね。でもこっそり撮らないでね。

 乗り換えた電車が空いていたので、空いた席に座り差し入れのポッキー類を包装用の袋に入れてリボンを結んだ。


 会場の受付でチケットを受け取り、花束と差し入れを預けて会場内の指定の席に座る。「良い席取ってくれたじゃん」と思いながら何となく周囲のお客を見た。そして、左斜め前方の席を二度見する。

 「え?」と思って良く見て、更にもっと良く見ようと睨むように凝視してしまった。


 これは日程変更が呼んだ偶然か。


 こんな事ってあるのか?今度こそ幻なんじゃないのか?と思ったが、どう見ても斜め前方の席にいるのは、先日9年ぶりに再会をした(はるか)だ。


 先日と言ってももう1ヶ月程前になるか。引越して来た最寄り駅のホームで電車を待っている時に、俺を見つけた(はるか)に声を掛けられた。

 驚いた様子でこちらを見ていた彼女は、俺の記憶よりも少し大人になっていたが、涼しげで意志の強そうな目は変わっていない。マスクをしていたが一目ですぐに(はるか)だとわかった。


 大学時代の憧れの先輩で、俺の恋人でもあった(はるか)。夢か幻か気のせいかと一瞬固まった俺は、電車を降りて来た人にぶつかりそうになり、慌てて避けながらこれが現実なのだと確認した。


 俺の気のせいでなければ、あの時の(はるか)は嬉しそうに見えた。俺も嬉しいと感じた。だが、嬉しい気持ちを感じた直後に、自分は彼女にフラれたのだという事実を思い出して、少し身構えてしまった。


 人の流れに押されて、お互いに戸惑い気味に同じドアから電車に乗り込み、ドアの所に両端に離れて立った。気まずいわけではない。別れてから互いにギクシャクしたが、それでも彼女の卒業式にはちゃんと仲直りをして笑顔で送り出した。それも、もう何年も前の事だ。

 だが、何を話して良いかわからないまま、俺は黙って俯いている彼女のつむじを見つめていた。


 何か話すべきじゃないかと思っていると、急に彼女が顔をあげて明るい声で「久しぶりだね」と言った。変わらない彼女のさわやかで優しい空気に触れて、俺はその瞬間ふっと胸のあたりが軽くなった気がした。


 ちょうど色々あって、重いエネルギーにのし掛かられるような気持ちで過ごしていた。それを吹き飛ばされたみたいで、「ああ、なんか浄化された」と思ったのだ。


 そういえば彼女はいつもそうだった。俺の周りを明るく変えてくれる。憧れを胸に秘め挨拶するのが精一杯だった俺に、先に告白をしてくれて世界を変えてくれた。俺も彼女の世界を明るく幸せにしたいと思いながら出来なかった昔。


 また、一歩出遅れてしまった。だが、俺も精一杯笑顔で気持ち良く「久しぶり」と返してみた。二人して笑顔になってそのままちょっとだけ話をした。仲の良い友達のようなノリで話す事が出来たのも嬉しかった。


 でも互いに連絡先を聞く事もなく、俺は「またね」と言って降車駅で降りて行く彼女を片手をあげて見送っただけだ。

 同じ街に住んでいる。そして同じ駅を利用している事がわかったから、そのうちまた会えたら良いと淡く思っただけ。

 すぐにまた会える事を期待もしていたが、実際は会うこともないまま過ぎて、「まあ、そんなもんだ」なんて思っていた。


 その(はるか)がいる。住んでいる街でもなく駅でもなく、全く違う場所に同じ舞台を観に来ている。偶然なのか?何かのお導きじゃないのか?今朝の夢で女神が言っていた「正直者のあなたには△#$%&↑をあげましょう」ってこの事なのか?

 いや、待て。俺が何かのご縁だと思いたいだけだろう。偶然だ。別に意味はないんだ。女神の夢だってこじつけてはダメだ。


 でも、偶然なら声をかけても良いんじゃないか?

 

 どうしよう、数メートル先にいるんだから、ちょっと席を立って行けば良いじゃないか。

 

 躊躇しているうちに開演のベルが鳴ってしまう。仕方ない。幕間にでも声をかけてみよう。


 そう思って始まった舞台に意識を向けようとしたが、俺はつい舞台ではなく(はるか)の方ばかりを見てしまい、前半の内容はあまり頭に入って来なかった。 


  


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ