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3-2

「そんなわけないじゃない、その人たちだって、例えば自分の好みの女の子となんのあとくされもない状況でできるってことになったら、絶対に手を出すよ」


「私もそう思います」


 私の主張は木っ端微塵に否定された。


 昼から数組の客が入ってにぎわっている店の、中央の四人掛けのテーブル席で、トーコさんとユウミちゃんは卓上コンロでホタテとマグロのカマを焼きながら、私の話に対してそう言うのだった。


「いや、きっとそんな状況になっても、あの二人だったらすぐには手を出さずに、女の子ときちんと付き合ってからすると思うな」


「ないないないない。そんな男いたら見てみたいよ、こんど呼んできなさいよ、私一晩でくどいて客にしてみせるから」


「私、私も、誘って絶対、援させてみせます」


「ねえ?」


「はい!」


 いったいなんの連帯感がそうさせるのか、二人して妙な意地を張りはじめたので、私はそれ以上「世の中にはまともな男もいる」という主張をすることを諦めた。


 私の座るテーブルの卓上ガスコンロの上では、マグロのカマがじりじり焼けていた。カマは大きく、どれだけ焼けば焼けごろかよく分からないねという三人一致した意見の中、長時間放置されて表面が黒く焦げはじめていた。その焦げた臭いが私の胃を刺激し、私はまた軽い吐き気を覚えた。


 それから話題は再び彼女たちが体を売った時のエピソードに移っていってしまい、体力の限界をとうに超えていた私はもはや飲むことも食べることもせず、座ったまま舟をこぎはじめた。テーブルに突っ伏して寝てしまいたいのはやまやまだったが、トーコさんとユウミちゃんに遠慮してそれは我慢した。二人はそんな私を無理に起こすわけでもなく、ペラペラしゃべって盛り上がっていた。


 ふと私が意識を取り戻すと、


「結局ね、私が言いたいのは、太宰が書いているように、『私たちは、生きていさえすればいいのよ』ってこと」


なんの話の結論なのか、風俗嬢がそう言ったところだった。援交少女はそんな風俗嬢の話に眼を輝かして深くうなずき、カシスオレンジの入ったグラスに、くぴ、と口をつけた。その白い顔は酔いで赤みがさしていた。


(ああ、『ヴィヨンの妻』か)私は思った。


 トーコさんはユウミちゃんに、


「あなた、太宰読んだことある? ないの? 『走れメロス』だけ? ああ、教科書でね。すごく良いわよ、『斜陽』とかそれに『ヴィヨンの妻』。今度貸してあげるね」


と言った。


 自殺未遂した子に太宰かよ、と私は心の中でツッコんだ。そうしてまた意識が無くなりかけたところで、トーコさんに声をかけられた。


「ねえ、このあとだけど、今日あなたの家に泊めてくれるよね? 財布も家の鍵も携帯も、全部バッグの中に入ってたから」


と、彼女は言いだしたのである。そうして続けて、


「ユウミちゃん、あなたも良かったら泊まる? 狭い1Kだけど、ベッドだけはセミダブルなの。空いてる床に布団敷けば、三人で泊まれると思う。あ、3Pでもする? ふふふ」


と笑った。するとユウミちゃんはちょっと小首をかしげて――、


「それは私、いくらもらえるんですかね?」


と、無垢な瞳をして言い放ったのである。

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