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7.一筋縄ではいかないことに気が付くことのススメ

 俺はリーゼを立ち上がらせ、左手をリーゼの胸の真ん中に置き、俺の魔素でリーゼの魔素を活性化させる。リーゼの周囲が魔素から発する光で包まれ、その後、彼女を取り囲むように、無数の水滴が空中に現れる。


「あ、主様。これは、いったい。か、身体がポカポカしてきました」


 リーゼは自分の魔素を、俺の魔素で活性化され、身体が火照ってきたようだ。


 「こ、これはどうしたらよいのでしょうか!!」


 リーゼの周りに生み出された無数の水滴が、徐々に大きくなり、水滴から拳くらいの大きさの水球になっていく。リーゼは、制御の仕方がわからず戸惑い、混乱し、叫び声をあげる。


 リーゼの叫びに呼応して、すぐに水の塊ははじけ飛び、リーゼと俺の服を濡らす。

 リーゼの魔素が活性化状態から沈静化し、周囲の光も消える。


 「ど、どうか,,,,,,お、お許しください。あ、主様のお召し物を濡らしてしまいました」


 リーゼは床に両膝をつき、震えながら、額をつけて土下座し詫びてくる。


 彼女のあまりの怯え具合に、俺の方が驚いてしまった。彼女にどんな過酷なことがあったのだろうかと。


 俺はすぐに俺と彼女の服を魔法で乾かし、リーゼを抱きかかえながら立たせ、落ち着かせる。

 

 言葉を尽くしてなだめ、ようやくリーゼの震えが止まり、少し落ち着いたようだった。


 リーゼは、過去、給仕の際、娼館主の服にスープを溢してしまったことがあったそうだ。その時に、娼館主は激怒し、リーゼの服をはぎ取り、柱に縛り付けられた上、一晩中折檻したらしい。誰かの服を濡らすとその時の恐怖を思い出し、震えてしまうそうだ。


 これは、まず、魔法よりも心のケアをしてやらないといけないな。


 それはそうと、リーゼの魔素の濃さは本物だった。


 どうやら水の系統が得意みたいだな。俺が魔素を活性化しただけで、すぐに水系統の魔素に形質転換させ、無数の水球を出すほどの魔法を発現できるとは相当な才能だな。


 『思わぬ拾いものじゃな。主殿よ。我がエクス・ゲファルナート魔法王国の発展に役立つやも知れぬわ』


 まぁ、エクスの名前の王国だから、「我が」って使っても間違いではないからいいけど、せめて、「我ら」っていってほしかったよ。寂しいではないか。相棒よ、と俺は心で愚痴を言う。


 俺は、リーゼにオーファを呼びに行かせる。


 すぐにリーゼがオーファを連れて戻ってきた。


 リーゼがはじめにノックをして部屋に入り、その後オーファが入ってきた。


 俺はオーファがこの客間のベッドへ一瞬視線を向けたのを見逃していないからな。まったく、変な誤解しやがって。


 「主様。お呼びと聞き、参上いたしました。リーゼのご奉仕で、なにかご無礼でもありましたでしょうか?」


 心配そうに聞いてくる。違うぞ。オーファよ。


 「ちがう。そういうつもりでリーゼを呼んだんじゃない。リーゼには魔法師としての才能がある」


 「ま、ま、魔法師の才能ですか?」


 オーファは突然の俺の説明に驚く。


 「そうだ。だから、リーゼをしばらくあずかるぞ。魔法師にしてやる。まぁ、本人が望めば、だけど」


 俺とオーファがリーゼに視線を向ける。


 「ごくりっ」


 リーゼが緊張から唾をのむ音が聞こえた。


 「わ、わたしが、魔法師様に、ですか?」


 「そうだ。お前が望めば」


 「わ、私が望めば,,,,,,」


 「お前が望めば、お前は魔法師になれる。俺が魔法師にしてやる。どうする?」


 リーゼは、いきなり両膝を折り、「不束者ですが、どうぞ宜しくお願いします」と新婚初夜のような挨拶をして、深く頭を下げてきた。


 「しかし、主様。リーゼをどうやって魔法師にするのですか?まさか王都の魔術大学校に通わせるおつもりでしょうか?我々のような地下組織の者を通わせるのは不可能です」


オーファが心配そうに聞いてきた。


 「いや、学校ではなく、リーゼに優秀な魔法師の師匠をつけてやるよ。元王女専属の魔法師様だ。なかなかの使い手だぞ」


 俺は自分の婚約者のシルフェさんのことを自慢するように、リーゼの師匠は、元王女専属魔法師と二人に説明した。


 「お、お、お、王女様の専属魔法師,,,,,,,,」


 オーファもリーゼも絶句してしまった。






 俺は、リーゼを連れて、パルスキーに転移してきた。

 シルフェさんにリーゼを引き合わせるためだ。


 『主殿よ。向こうにおる魔女っ娘がメイドっ娘をみて、不安な感情になったぞ』


 『何に不安を感じているんだ?』


 『大方、メイドっ娘が主殿と歳も近いから、第二夫人か愛人にでもするつもりとおもっているのじゃろうな。魔女っ娘のヤキモチというところかのう』


 エクスの説明を聞き、俺は、やましいところはないとばかりに、単刀直入、シルフェさんにリーゼを「魔法師として育ててほしい」と頼んだ。


 前置きがなかったせいで、シルフェさんはビックリしていたが、俺がリーゼの身の上を説明し、魔素の濃さに気が付いたことを伝えると、「確かに」という顔をしていた。ただ、自分も未熟なので弟子を持つことに躊躇しているようだったので、俺は背中を押す。


 「弟子を持つことで、シルフェさんは魔法師としてさらに成長できるはずですよ」


 少し考えたシルフェさんは、にっこりして「諾」とばかりに頷いた。

 よかったと思ったが、やはりシルフェさんは一筋縄ではいかないことに気付かされた。


 「リーゼちゃんのことはわかりました。旦那様のススメに従い、弟子にしたいと思います。これを機に、私も旦那様に弟子入りさせていただきますね。弟子を持つことで魔法師として磨きがかかるならば、私のことも受け入れてくれますよね?アルフ師匠」


 し、しまった。これでは俺も「諾」と頷くしかない。


 俺は苦笑いをしながら、頷いた。


 『魔女っ娘は主殿の扱いがうまいのう。きっと主殿に魔法を教えてもらいたくて機会を伺っていたのじゃろな。主殿に素直に頼んでも、断られると思って』


 確かに、シルフェさんと言えども、表向き、魔法師でもない俺は、弟子なんて勘弁してくれ、と断っていただろう。それに、本で読んだ魔法師の世界は、子弟制なので、師匠は弟子に対しての責任が重いからな。


 もちろん、魔法への助言、模擬戦や共同研究ならば受けていたけど、シルフェさんほどの魔法師を弟子にするなんて、と今でも思う。エクスの言葉に、俺は口の中が苦くなった。

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