1.問題解決のための実験のススメ
ゲファルナ卿として、アリア派の参謀として忙しい日を過ごしていた一方、アルフレッド・プライセンの生活の方でも、大きな変化があった。
なんといっても俺は進級し2回生になった。
1回生から2回生へ進級する前後に、フランド王国中央政府内の政争は激しさを増していた。まず、「魔獣狩り」直後に第一王子派がライバル派閥の第二王女派へ奇襲をしかけ、第二王女派が壊滅した。その直後に第二王女派の一与力であった第三王女派、つまりアリア派の旗揚げ、その後の魔技閥・アリア派のマジカ計画による勢力構成の押し返しと目まぐるしく情勢が動いていた。
一つ上の先輩たちはそんな微妙な時期に3回生の研修先が決まるのだから、気の毒でしかない。
行政大学校の研究会は、中央政府の派閥構成の縮図となっている。所属する上位派閥が中央政府内に発言権があると3回生のときの希望が通りやすく、その逆に所属派閥が弱小になると、希望はかなわず、地方皇領の行政機関へ飛ばされてしまう。
魔技研究会の上位組織、魔技閥が空前の灯火まで追い詰められ、多少の押し返しはしたが、劣勢なのは変わりなかった。その影響をうけて、魔技研の上級生の半分くらいは、研修先が地方にされてしまった。こうなると、1年後の卒業時に、中央政府に戻ってくるために、相当な成果と運が必要となる。
ジェシカさんや魔技研幹部のほとんどは、魔技閥上層部も、中央政府内にとどめられるようどうにか守り通したみたいだけど。
あと、意外な人事だったのが、第一王子派、主力派閥の財務閥の下部組織、財務研究会。その代表のハーベル・インフォの研修先が、まさかの国税庁。国の予算配分を司る財務局でも、政府予算の会計監査をする会計局でもなく、花形とは言えない、税金管理の国税庁とは。
まぁ、本人のたっての希望だったらよいのだけどね。通常、次官の直系子息が、花形ではない研修先へ配属されるということは異例で、周囲を驚かせていた。
財務研究会の自称、外周部の取り巻きの一人のヘンレ・ジュシアさんへ会いに行きなにか知らないか聞いてみた。
「詳細はわからないけど、「大物」の介入があったみたいよ。まぁ、インフォ様は空気を読めない人だから、大方、王妃様か第一王子殿下あたりの怒りをかったのかな?と噂されているわ」
相変わらず、包み隠さずなんでも話してくれる人だ。ヘンレさん、そんなんじゃ、本当に地方に飛ばされるぞ。もしそうなったときは、アリア派の伝手を使ってでも助けてやるけどな。
いよいよ、アリアさんの参謀をもうすぐ辞任する約束の10月に近づいてきた。去年、大きな犠牲と混乱を出した「魔獣狩り」も、2年に1回の頻度のため、今年は大きなイベントはなく、平穏に過ごせた。俺は、ゲファルナ卿としてアリア派の政治基盤確立と安定化のため忙しい日々を過ごす傍ら、少しずつ、俺個人の計画をコツコツ立ててきた。
参謀辞任とともに、いよいよ本格的に自分の計画に取り組むつもりだ。
『主殿よ。いつもながら、よくもそんなよからぬことを思いつくものじゃな』
『それは邪推というものだよ。エクス。シルフェさんと裕福に暮らすための計画だよ。至って真面目な計画だぞ』
エクスがつっこんでくるが、正直、個人的な興味が8割ぐらいの計画だ。
フランド王国の問題点を解決しつつ、俺の長年の疑問点を解消できるかぜひ実験してみたいのだよ。
実は、エクリン家での書生の時から、ずっとこの国の問題点を調べ上げてきた。
問題を一言で言うと、島国のため、国土が狭いこと。
フランド王国は、200年以上前に、今の支配体制、つまり中央政府と地方貴族の統治の形を作り上げた。隣国とは小競り合いがたまにあるけど、国内は内乱もなくいたって平和が続いた。
政治と治安が安定し平和がつづくと、人間やることは一つ。人々は子供をつくり家族を増やし続けた。人口も順調に増えつづけ、国民の生活レベルも上がり、新しい市民文化も花開く。
人口が増えたことも伴い、食料生産を増やすため、耕作地が150年間で順調に増えてつづけてきた。しかし、もう30年ほど前から頭打ちになってしまっている。これ以上耕作地を増やすためには、土魔法の得意な魔法師を数百人規模で投入するか、数万人の国民に賦役を課さないと開発できそうな土地しか残っていない。
ただでも希少な魔法師で、しかも土魔法の得意な魔法師を数百人探し出すだけで何年もかかるのだろう。また、数万人規模の国民を賦役すると反乱がおきるかもしれず、社会不安が増大するため、これも現実的じゃないな。
人口増加の人余りの状態で、国土の開発余地もほとんどなくなってしまい、すでにいろいろな歪が出ている。例えば、相続制度。限られた土地や権利を長男優先にしないと代を経るとなくなってしまう。そのため俺みたいな三男のパン無駄は、仕事にあぶれてしまい、いざという時の肉の壁しか使い道がない。また、大都市では仕事にあふれた食い扶持のないものたちが集まり、スラム街が出来上がってしまっている。
農村は農村で、家畜が姿を消し、その分余っている人があてがわえる。家畜を使っている時に比べて、はじめだけは収穫高は上がったけど、かなり以前から頭打ちとなってしまっている。
『人間とは愚かよのう。何も考えずに子孫を増やし続ける。犬猫とかわらんな。主殿よ』
『そういうなよ。エクス。生き物である限り、その営みは自然なことだよ』
パン無駄の俺は、自分の実家での境遇とスラム街の人たちなど仕事にあぶれた人達とを重ね合わせてしまう。
人口問題に加えて、周辺国含め、金貨、銀貨、銅貨などの貨幣制度が広がったことも負の作用として働いていた。つまり、貨幣が登場したことにより、モノのやりとりが、ブツブツ交換から、貨幣交換にかわった。そのうち、裕福な民が出現し、人の移動が頻繁に起こるようになった。
人の移動によって、王族、貴族の実入りも悪くなった。これまでは、自分の領地の住民を無償で、絞りたい放題だったが、領地で領主がわがまま放題の圧政をすると、住民は、有り金をつかってでも、隣の領や国へ逃げてしまうようになる。
そうすると働き手が減ってしまい、その領地は貧乏になってしまう。
国も王家も貴族も稼ぎが減ってしまい、以前ほどは贅沢を控えるようになった。
支配階級がカネをまわさないと、カネが社会にまわらず、庶民の生活も苦しくなる。王家も稼ぎが減っているので、国が仕事を与えて給金を払うという余裕もなくなってきている。
因果が巡るではないけど、原因は、やはり、島国で国土が狭いこと。
『魔法師ではなく、役人を目指してなにをしようというのかと思えば、まったく授業みたいでつまらんぞ。主殿よ』
エクスには、今の俺の話は少し高度すぎたかな。もっと簡単に言えばよかったと後悔した。




