16.甘味のために魔王でも小細工をすることのススメ
主殿はまだかのう。
エクスは内心焦っていた。正直、エクスには、王女もトビアスがどうなろうとそこまで興味はないが、自分の相棒(主殿)に甘味の貢物をさせる絶好の機会をこのまま逃したくない。
トビアスは、すでに疲弊しており、アリアの風魔法の援護で、かろうじて全身鎧に身を包んだ大男のモーニングスターの打撃を凌いでいた。しかしそれももう限界に近い。
自分もまた対峙しているローブを羽織った軽鎧の魔法剣士の動きに、土ゴーレムの姿では追い付けない。唯一の有利な点は、敵の得物レイピアで突かれても土ゴーレムの姿にダメージはほとんど受けないことだ。ただ、敵もそのことに気が付き、さきほどからレイピアではなく、魔法攻撃、とりわけ、土ゴーレムの姿では、ダメージが蓄積する水魔法で応戦してきており、ジリジリとゴーレムの身体を削られている。
じり貧の状態で、トビアスを援護しているアリアの魔素も残り少なくなってきた。
「おうおう、盛り上がっているな」
追い打ちをかけるように、新手の全身鎧姿の男たち3人が、後方の三方向から、取り囲むよう、別々にゆっくり近づいてきた。
『奴らが接近してきていたのは分かっていたが、この姿では主殿が来ない限りもう打つ手はないのう』
と追い詰められたことをエクスは悟った。
ほぼ同時に、トビアスが、対峙していた大男のモーニングスターの打撃を左わき腹に受け、吹き飛ばされ、地面に転がりそのまま動かなくなる。
「まったく、しぶといやつだ。さすがに今の一撃を食らえば、いくら鎧の上からでも、しばらく動けまい。さて、王女よ。おまえを護るのは、あとはその土の木偶人形と貧弱な結界だけとなった。おとなしく投降するならば丁重に扱うが、抵抗するならば、少し痛み目をみてもらうことになる」
全身鎧の大男の低い声に、アリアは声を震わせながらも必死に言い返す。
「ひ、控えなさい。不敬者。近づくならば、この場で、じ、自害します!」
アリアが両手でナイフを掴み、自分の首にナイフを向ける。
「好きにしな。こちらは、お前さんを連行するのでもよし、殺すのでもよし、どちらでもかまわないぜ」
トビアスを吹き飛ばした全身鎧の大男がアリアに告げる。
「そうそう。泣き叫ぶ小娘の尻を蹴り上げられれば、それはそれで俺は楽しめるけどな。ヒッヒッヒ」
後から現れた一人で、別の大楯をもった男が、下品な笑い声をあげる。
『まずいな。このままでは王女っ娘が本当に自害しかねんな。そうなると主殿の想い人の魔女っ娘が困ることになる。我の甘味も風前の灯火じゃ。フー。致し方ない。人間相手にどこまで時間稼ぎができるか、やるだけやるか』
「まぁ、待て。人間の男たちよ。ぬしらの主の目的はなんじゃ。王女を拉致するための襲撃ではないのか?」
エクスが、土ゴーレム姿の低い反響音の声で、鎧の男たちに語り掛ける。
「なんだ。この木偶人形は。人形の癖に偉そうに、俺らに話しかけるんじゃねえ」
と後方から現れた大楯とは、別の鎧男が怒鳴り声をあげる。
『ダメか。仕方がない。少し小細工をするか』
エクスは土魔法を展開し、5人の男たちの足場を泥沼にし、足を沈め、動きを止めようとする。
しかし、エクスの左後方にいた、後方から最後に現れた男が、泥沼を回避し、素早く土ゴーレムに接近し、太いメイスで殴りつける。ゴーレムの身体の右半分を吹き飛ばした。
『ゴーレムの形態を維持できぬ。潮時じゃな。致し方ない。後はまかせたぞ。主殿よ』
ゴーレムの形が崩れ、土の山が残る。
「これで邪魔者はすべていなくなった。さて、王女よ。どうする?そのまま自害するのもよし、我らに連行させ、シスプチンの国王陛下の子を産むのもよし。好きな方を選べ。俺は後者を勧めるがな。陛下は女人には寛大なので、お前さんが子を産めば、敵国の姫とはいえ、それなりにかまってもらえるかもしれんぞ」
前方の軽鎧のローブの男がアリアで告げる。
アリアは連れ去られた後の自分を想像し、この場で自害する覚悟を決め、目を閉じようとする。
その瞬間、突如、仮面をした小柄な黒いローブの人物がアリアを庇うように目の前に現れた。




