5.魔法の神髄と旅路のトイレ事情を考えないことのススメ
3時間くらいして、揺れに慣れてきたのか、ようやく落ち着いた。
シルフェさんの太ももが柔らかくて、頭を撫でられていたら、気が付いたら寝てしまっていた。いつもならば、10%程度は、覚醒しているのだけど、そこまでの記憶がないことから、いつもよりも眠りが深かった気がする。
起きてからは、3人で話をする。
ジェシカさんも俺も魔法を使えない(俺はつかえないことになっている)ので、シルフェさんの魔法の話を非常に興味深く聞いた。
実家の子爵家では元々魔法師が少なかったため、単に、たまたまだと思っていたことがあったが、シルフェさんの話で解決できた。なにかというと、魔法師にとって「手」は特別な意味があるということだ。戦場において、魔法師は、身体のどこよりも「手」を優先して守ろうとするらしい。
シルフェさんの話によると、魔法師が魔法を使う時は、必ず手から発動され、杖をブースターにしているとのことだ。シルフェさんのような、熟達な魔法師であってさえも、杖はなくとも大丈夫だが、やはり魔法を手から発動するとのことだ。
考えてみると、確かに今まで俺が読んだほとんどの魔法書にも、魔法は手から発動されると書いてあった。もし、戦いの中で手を封じられたらどうするんだろう?と疑問に思い、シルフェさんに聞いてみた。やっぱり手からしか魔法は使えず、魔法師は、身体のどこよりも手を守ろうとするとのことを知った。逆に魔法師が敵の場合は、まずは手を狙うのが常識となっているとのことだ。
手から魔法が発動される理由は、魂に刻印されている魔素は、脳-心臓-肩-腕そして手のひらを伝って体内を流れる「経絡」という道を流れるらしい。そのため、手のひらや指先から魔素を放出し魔法を使うしかできない、という説明だった。
魔法師の世界では、パルスキーでエクスが見せた左目からの「散光弾」のような魔法の発動は、ファンタジーというか、小説でしか出てこない創作なのだそうだ。
その話を聞いたとき、現代魔法理論というのは、なんとも不便なものだな、と正直思った。
エクスによると、
『「経絡」なんてものは知らんぞ。意識を向ければ身体のどこからでも、魔素を放出して魔法は行使できるものであるがな。人間とは、自分でできないことがあると、それっぽい理屈を作りたがる生き物であるのは、1000年経ってもまるで変わらんのう』と言われた。
俺は、この幼女の師匠の教えで、意識さえ向ければ、身体中どこからでも魔素を放出できる。毛穴というか自分の肉体と外界との境目に意識を向ける感覚だ。そのため、空も飛べれば、馬車の揺れにも対応する浮遊魔法を行使できる。これだけでも、「大」魔法師扱いなのではないか、と自分の才能が空恐ろしい。
『優秀な師匠の教えのおかげだぞ。我に感謝するとよい。主殿よ。ついては甘味を10個も貢とよいぞ』
『わかった。わかった。王都に調査が終わってもどってきてからな』
と駄々っ子の我儘を軽くかわす。
途中、トイレ休憩を何度か挟み、夕刻にキャンプの準備をする。
馬車の御者が、貴族の使用人とばかりに、キビキビと、魔技研のメンバー、シルフェさんや俺のために準備をしてくれる。ハンターの4名は自分たちで自分たちのキャンプの準備をする。
そういえば、王都に住んでいる内官の人たちの旅路のトイレ事情はどうなっているのか、少し気になっていた。
結果は、周りから見えないように少し離れた草むらに行き、穴を掘り、用を足し、最後は穴を埋める。
この辺は、実家の地方貴族の旅路の時とあまり変わらなかった。
ただ、用を「なさる」時は、無防備になり危険なため、シルフェさんが周囲に魔法で結界を張り、なるべくささっとすます。地方貴族たちがするみたいに、護衛数人で周りを固めるよりも魔法結界の方が確かに便利だな、と思った。でも、希少な魔法師が旅路に同行していていればだけど。
ちなみに、もし俺が結界を張る役目だったら、「なさっている」シーンが、ばっちり頭の中に映り、ニオイを想像できてしまうのだけど、とシルフェさんやジェシカさんの顔を想像したら、左目がビリビリしびれてきて、電撃魔法の気配を感じ、急いで考えるのを止める。
魔王幼女様はこういう変態チックな匂いフェチは許してくれない。
夜、さすがにテントは男女で別れる。俺は、魔技研の幹部2名の男の先輩と同じテントで寝る。女子組は、ジェシカさん、出っ歯眼鏡のリアナさん、シルフェさんだ。御者は御者で固まり、ハンターは2名ずつ順番に見張りを交互にしている。
落ち着いて、一人で、いやエクスト二人で今回の護衛任務について考えをまとめる。
『事前調査を妨害している輩がいるどうかで展開が変わるんだよな』
『我や主殿が魔法を惜しみなく使えば、一瞬で解決するのじゃがな』
その通りなのだが、魔法の力に頼らない「不便な」キャンプを楽しもうよ、相棒。
人間社会は複雑なんだよ。とエクスをなだめる。
『第一の目標は、魔技研とシルフェさんにケガをさせないこと。二つ目は、人為的な妨害ならば、敵の目的を見極めること。最後は、可能ならば敵を特定することまで、だな』
『敵を葬り去るのではないのか?主殿よ。やりすぎて疑われるのを避けるというやつか?』
『そうだよ。俺がそこまでやってしまったら、第三王女や魔技閥に次もあてにされそうだし、それに、裏にすごい大物がいた場合、巻き込まれて面倒なことになってもいやだしな』
『そういう、慎重というか、小者感満載なところが主殿のよいところじゃな』
それは誉めているのか?と正直疑問に思ったが、人間とは感性が違うだろうから聞き流すことにした。




