表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/102

2.前線の戦準備のススメ 前半

文字数が他の話の2倍と大作になってしまっていましたため、前半後半に分けました。

(気合を入れすぎてしまったようで申し訳ありません)


なお、内容変更はありません。


ご迷惑をおかけいたしますがご理解の程お願いいたします。

 最前線の海岸線の砦へ兵250名とともに到着し、作戦を立てる。

 

 潮の風から、嫌なニオイはしない。でもいいニオイもしないので、これからの作戦次第ということか。

 

 プライセン子爵領の海岸線は天然の要塞となっている。海岸線の斜面は急で、岸壁に守られており、海岸から陸地に上がるためには限られた海岸から上陸し、傾斜のきつい一本道を上ってくるしかない。


 また、子爵領の入江は遠浅で、大型船・中型船は接岸できず、防御に適した土地となっているのが救いだ。海からの侵略に備え、海岸からの急斜面を上がり切った場所に、防衛の要所としての砦が築かれたのは、約50年前のことだという。


 最前線のこちらの主力は、守役のシンバの家のアーチャー家の兵士を中心とした200名。残り50名はアーチャー家の親戚筋の家からの増援だ。一方、伝令からの情報が正しければ、飛竜騎士が100、オーク400、オークを使役する魔法師団が同数の400及び歩兵隊500、総勢1400をこの250名で迎え撃たないとならない。


 「海岸線の砦で、敵の進軍を一時的に食い止め時間を稼ぎ、その間に領都プライセから非戦闘員が子爵領奥地へ避難する。周辺貴族領への警告と援軍要請、王都への救援要請を行い、子爵領の領都の手前にある森で子爵軍・援軍あわせての総力戦をしかける、か。」


 「我々は総力戦の前座で、完全に捨て石ですね。死んでも時間を稼げ、ですか。普通だったら間違いなく死にますね。」

 

 守役のシンバが重たい内容のはずなのに、俺への信頼、いや魔王の力への信頼から、落ち着いた声のトーンで話しかけてくる。


 父の執務室での会議を思い出し嫌な気分になる。

 

 撃退することは、兵力差を見ても全く期待されていない。とにかく領民の避難と味方の体制を整える時間稼ぎしろ、ということだった。せめて、もう50名ほどつけてほしかった。

 

 父、兄達そして父の重臣たちの全員から、「こういう時のための三男だろう」と言いたげな顔が忘れられない。圧倒的に不利な最前線に子爵家から誰も出ないとなると、兵士の士気が低くなるのは分かるけど、初陣もすませてもいない小僧にそんな役押し付けてくるか。三男の立場の弱さを改めて思い知り、怒りが顔に出る。


 

 「アルフ様。先日の会議の八つ当たりで、やりすぎは勘弁してくださいよ。魔王の力があるなんてばバレたら、味方や周囲からの暗殺に常におびえないとならないですし、拉致監禁されて洗脳処理なんてされたら、一生兵器扱いで飼い殺しされかねないですからね。」


 「わかっているよ。バレないようにうまくここを凌いで、こんな子爵領を早く出てやるよ。王都でささっと小役人になって、賄賂をもらいながら甘い蜜を吸う生活をしたいしな。自己保身だけの父上やバカ兄貴達に今回みたいに捨て駒のようにつかわれるのは、金輪際御免だよ」


 自己保身はアルフ様も同じでしょうが、とシンバが思った気もしたが、気にしない。



 フランド王国では、島国であり、周辺国に比べても土地に限りがある。王家、貴族だけでなく、平民にいたるまで、相続者を絞り、一族が代を重なるにつれ、小さくならないように、長男が優遇される。貴族の相続に関しても、爵位・領地のすべてを長男が継ぐことが一般的となっている。


 そのため、教育や待遇面で、長男以外の他の兄弟は、後継者たる長男と明確に区別される。それでも次男は、大抵、代官職を与えられ、長男を支える重臣となることができる。


 しかし三男以降の命は軽く見積もられ、影武者、裏の仕事や今回みたいな足止めの捨て石役といった、実家の都合のよいように使い捨てられる。そんな役割でもあてがわないと養い損ということだ。「貴族の三男、パンの無駄」と有名な諺もある。

 

 俺もシンバも、5倍以上の兵力差にもかかわらず、負けることはまったく想像していない。

むしろ、どうやって「居候」の魔王の力がバレないように、そして、周りに「自然」に戦ったと思われるように全力を尽くすつもりだ。


 そのための策がいる。


 『なあ、エクス。飛竜の弱点って何かないかな?』


 左目に居ついた居候、魔王の残りカスに頭に中で声をかける。


 『残りカスいうなと何度もというておるぞ。主殿よ。今の我はれっきとした「分体」じゃ。封印石に眠る我の分体というても、最上位の悪魔程度の力はあるというに』


 『わかった、わかった。悪かったよ。エクス。』


 『今の失言は甘味の差し入れでチャラにしてやるわい。主殿よ』


 いつもの失言をしてしまい、また貴重な甘味をこの魔王ちゃまに進呈せねばならなくなった。

 

 身体は同じなので食べるのは俺だけど。魔王の甘味好きせいで、家族や家臣たちから甘党と思われてしまい、ただでも三男は軽く見られがちなのに、甘党だと余計に幼く思われてしまっている。


 ちなみに、エクスの口調は爺くさいが、頭の中に響くのは、幼女の高くかわいい声だ。

 もちろん、エクスの声は周りには聞こえない。


(後半へ続く)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ