5.後悔は祭りの前にもしないで済む方法を考えることのススメ
「パルスキーへ実際に行くならば、代官のゴットンへ紹介状を書こう」
ジャームスさんが提案してくれる。
「いえ、せっかくですが、旅人として町に滞在して、客観的に町の実情に触れてきたいと思います」
と俺が辞退すると、間髪入れず、若妻エスタさんが心配の声を上げる。
「でも、町には最近、傭兵やハンターが多いと聞きます。危険ではないですか」
「これでも荒くれ物の地方貴族出身です。傭兵やハンター達とよくケンカもしていました。大丈夫です」
中央の官吏達からは、地方貴族は、礼儀知らずの乱暴者と蔑まされていることにかけて、説得を試みる。
「でも、、、、」
とエスタさんは譲らない。俺のことを(匂いフェチの変態だが(後年そう思われていたことが判明する))、かわいい弟のように思ってくれて心配してくれるのは心底ありがたい。
愚兄どもよ、エスタさんの心のきれいさを少しでも見習ってほしいものだ。
「それでしたら、プライセン子爵領から、守役とその護衛を2名呼び寄せます。4名で行動すれば、危険は回避できるでしょう。シスプチン王国との戦にも守役たちと参戦していますので大丈夫です」
そういうことならば、と若妻姉さんも安心してくれた。
子爵領から王都へ送迎してくれたシンバとアーチャー家の面々は一旦プライセン子爵領へ戻っていた。エクリン家の人々には、プライセン子爵の屋敷で待ち合わせしていると嘘をつき、エクリン家を後にする。
本当は、シンバも護衛たちも子爵領から呼び出していない。シンバは守役といえ、重臣のアーチャー家の棟梁だし、護衛達もシンバの護衛の任がある。俺の道楽に気軽につき合わせるわけにもいかない。それでも、いざというときのために、「3名の力を借りるかもしれない」という、シンバへ伝令を送るため、エクスに使い魔を出してもらった。
シンバの事だから、伝令から話をきいたら、勝手にパルスキーまで先回りしそうなので、命令あるまでは動くことは厳禁と添える。
俺はパルスキーを視察するにあたり、設定を決めた。
地方貴族の陪臣が、主の御用のため、領地から王都へ向かう途中に、王都手前のパルスキーに滞在する、という、地方貴族のあるある設定にした。そのため、王都からパルスキーへ直接向かうと、設定とは、逆方向になり矛盾してしまうので、一旦遠回りして、王都から2日の距離まで離れ、そこから180度方向転換をし、王都方面のパルスキーへ向かうことにした。
やっぱり設定は大事にしないとな。
その後、パルスキーに、1週間ほど逗留して現地調査を行う。問題点を把握し、王都のエクリン家へ帰還するというプランだ。
パルスキーの町の門番から、身分を問われる。あらかじめ、考えておいた、プライセン子爵領のお隣、バイセル男爵の家臣アルト家の下士ウーバーを名乗る。主家の命令により王都へ向かう途中であることを告げ、身分を証明するために、バイセル男爵家の紋章つき、書類入れを懐から示し、無事町の中へ入れた。
プライセン子爵家を名乗って、後々問題を起こしたときに、身元がバレやすいので、お隣のバイセル家の名前を騙ることにした。バイセル家の家臣アルト家の次男ウーバーとは、同い年で、父上のお供で狩りにいった際、友達になったので、勝手に名前を拝借。
ちなみに、パイセル家の紋章つきの書類入れは、隠密魔法を使って王都にあるバイセル家の屋敷から失敬してきた。後で返すので、借りてきただけだよ。
さてさて、町の様子と税収が落ちている原因を探らないと。
町の大通りを歩いていると、商人が店を構える区画がみえた。その区画に、武装した私兵が6名くらいで隊をつくり巡回していた。エクリン家の紋章をつけていないので、代官所の兵士ではないみたいだ。
大通りからの路地をチラッと見ると、浮浪者が何人もいて、そこら中で、ケンカや争いごとの声が聞こえる。これは予想以上の酷さだ。王都から1日の距離でこの治安の悪さだと中央政府からも目をつけられるぞ、と心配になる。
まずは拠点づくりだ、と宿がある区画へ向かう。事前に町の地図を調べておいたので、それを思い出しながら、宿の多い区画へ向かう。
すると、路地から大通りに向かって、中年の男が飛び出してきた。左目でだいぶ前から悪意を感知していたので、スッと身体を引き、ぶつかるのを避ける。
中年の男は、勢いよく大通りへダイブする。男が地面にぶつけた胸を押さえて、「うーうー」言いながらうずくまる。
アホはムシムシ、とばかり、中年ダイブ男を一瞥し、宿街へ向かおうとすると、道をふさがれた。
「小僧、ぶつかっておいて挨拶もなく通り過ぎていく気か?」
道をふさぐ、若い見た目のおっさんAが因縁をつけてきた。
「あの方が勝手の地面にダイブしただけです。そもそもぶつかってもないんだし」
おっさんAよ。お前はその歳で早くも老眼か?
まぁ、外から来たそれなりに身なりのよい小僧から幾らばかりか小遣いをカツアゲしようという腹積もりみたいなので、ここで正当性を主張しても解決はしないだろう。
大通りから、数人がかりで、路地へ誘い込み、そこで、有り金を強奪する作戦のようだ。こちらも町の実態の情報を欲しているので、こいつらは使えるかもしれない。悪企みにのってやるか。
路地の奥、道の行き止まりまでへ誘導されるふりをして、壁を背に、ダイブ男も含め6名のおっさんや兄ちゃん達に囲まれる。
「生意気なくそガキが。詫びとして治療費を払ってもらうぞ。大ケガはしたくないだろう」
と、おっさんAがすごんでくる。
周りに、観察している者がいないことを探知魔法で確認してから、6人の悪人面の頭上を飛び越えるため、浮遊魔法を発動した。悪人面どもの頭上までジャンプでし、空中で一回転をして、優雅に着地する。今度は、6人の悪人面が壁を背にしている。このまま走って大通りへ逃げれば逃げ切れるが、町の情報をもらわないとならないとならないため、呆気に取られている6人の方へ後ろを振り返る。
『主殿よ。こやつらの眼球食べてもよいかのう。全部で12個。大漁じゃな』
エクスが語り掛けてくる。
『いや、まだこいつらが手駒になるかもしれないのと、ここで時間をかけて、こそこそ町の実情を調べているのを、代官にバレたくない。手っ取り早く、五体満足の状態で、無力化する』
『そうか。ならば、我がやりたい、我がやりたい、我がやりたーい!』
エクスがわめく。
子供か。
声は子供だけど。
『あー、わかったよ。絶対殺すなよ』
『まかせるがよいぞ。時には魔法の師匠の姿を見て魔法の神髄を学ぶがよいぞ』
心の中でため息をつく。
左目に魔素が溜まる感覚がしたと思ったら、魔素が弾け、金色に光を放つ。
魔素の光の断片が一瞬だけ物質化し、6人の悪人面へ向けて一斉に放たれ、そして光が消え去った。
後に残ったのは、頭からつま先まで全身血まみれで、うずくまる6人の悪人面だけ、、、、でなく、ところどころに散らばる肉片もあった。耳の欠片、指先、髪の生えた頭皮の一部は判別できたが、後はどこの肉片か血まみれで、見分けがつかない。
あぁ、やっぱり、こいつに任せたのは失敗だったと後悔しても後の祭りだった。




