1.前線指揮官のススメ
初めての投稿です。
内政ものの冒険譚ですが、「役人」や「官僚」の働きにフォーカスした内容になる予定です。
歴史上や現実世界で栄えることができた国の多くは、優秀な官僚機構(国策を実行する部隊)がうまく機能していた、ということを、物語の中で気軽に語れたらと思い、この作品を書こうと思いました。
国を発展させるためには?、国家Visionを成功に導くためには? をファンタジーの世界で取り組んだら?を身近な目線で手軽に描ければと思っています。
どうぞお付き合いください。
「あー!!あと数年は、隠し通したかったのに!」
「アルフ様。イライラしてもどうしようもないじゃないですか。ここは本気を出さないと全滅です。今は生き残ることが考えてください。バレてしまったら、バレた時に対策を考えましょうよ」
「わかっているよ」
心の中で舌打ちをする。
次兄のピーチャーの策略によって、指揮官として、最前線へ送り込まることになってしまい、隠し続けてきた力を使わざるを得なくなってしまったことにイライラしていたところ、守役のシンバが、情けない声を出してくる。
フランド王国にあるプライセン子爵家の三男であるアルフレッド・プライセンが、隣国の敵襲に対する前線指揮官(捨て石の時間稼ぎ役)を父親のエルモ子爵から仰せつかったのは、ほんの数時間前のことだった。
「海岸線の第一防衛線の砦をシンバとアルフに任せるのはどうでしょう?」
それは、次兄のピーチャー・プライセンの悪意のある進言からはじまったことだ。
領地の哨戒の役割を果たしている灯台から、「敵襲あり」との急ぎの伝令がプライセン子爵の屋敷に届いた。時を同じくして、領海内の小島にある村からの急使が救援要請のために駆け込んできた。
隣国のシスプチン王国の飛竜部隊とオークを従えた魔法師、歩兵隊の総勢1400名が空と海から攻めてきたとのことだ。現在、小島の村は占領され、その勢いを駆って、子爵領がある本島へ攻め寄せてくるとのことだ。
対する我が子爵家は、常駐軍として弓、槍の騎士・兵士あわせて700人しかいない。しかも魔法を扱える魔法師も3人のみ。いまから領内をかき集めても、せいぜい形ばかり弓や槍が使える50人程度の追加徴兵ができるかどうかぐらいだ。
急ぎ、子爵である、父上エルモ・プライセン、長兄モンド・プライセン、次兄ピーチャー・プライセンと重臣たちが父の執務室に集まり、緊急の作戦対策会議が始まった。
初陣前の三男坊である、俺は、「なにやら慌ただしいな」、くらいにしか思っていなかった。まぁ、三男坊には、どうせ声もかからないし、きっと、いつもの隣国の威力偵察だろうと軽く考えていたが、どうも嫌な「ニオイ」が気になった。
俺は、幼少の頃から、やたらと「鼻が利く」。これから起こる幸と不幸、好意、敵意を、なんとなくニオイで鑑別できるみたいだ。そのせいか、いろいろなモノや人に対して、クンクンしており、母上や守役のシンバと乳母のエリカからは、匂いフェチだと思われている。
重臣の一人が、俺の守役のシンバともども会議に参加するよう呼びに来た。すると、ほとんど詳しい説明もなく、いきなり前線指揮官を拝命された。やっぱり、嫌な「ニオイ」がしたとおりだった。 1400名の敵に対して、与えられた兵力はシンバのアーチャー家が主力となる250名のみしかいない。
フランド王国は、五つの島からなっている。海峡を挟み、シスプチン王国がある大陸がある。シスプチン王国は領土的野心が高く、陸続きの別の国々と時に反目したり、同盟を結んだりして、国を大きくしてきた歴史がある。
領土拡張と自国内の整備に目途をつけたのか、海に守られているフランド王国が目障りに感じているようで、しばしばちょっかいを掛けられており、小競り合いがもう30年以上も続いている。
一方のフランド王国も、強引に海峡の漁業権を獲るためにシスプチン王国に領海侵犯をしたり、海峡にある小島を確保しようとしたりしているので、どっちもどっちだ。
「アルフ。今回お前は初陣となるが、シンバの補佐を受けて見事勤めを果たしてみせよ。」
「お言葉ですが、父上、海岸線の最前線を、5倍以上の兵力差しかも飛竜とオーガまでいる中で、今回初めての戦となる私ではお役目を果たせそうにありません。」
急にシンバ共々呼び出され、何のことかとおもったら、海岸線の第一防衛線へ赴き時間を稼げとのことだった。父、兄2人、重臣たちが、俺のこれまでの行動に何か違和感を感じ取っているのか、それとも三男の命は軽いと思っているのか、どちらかわからないが、この死出の門出の命令を頑張って押し返してみた。
「アルフ。お前もプライセン子爵家の一員ならば、母上、妹達や領民が奥地の砦まで逃げる時間を稼いでみせろ。お前の守役のシンバは過去に武功も上げたこともある。父上も、兄上も、俺も、領民の避難、援軍手配とその後の領都決戦の準備で手一杯なのはわかるだろ」
あとからわかったことだが、父上に、俺を最前線に送る進言をしたのは、次兄のピーチャーだった。その次兄が畳みかけてくる。死地である前線指揮官の役割が自分に来るのを未然に防ぐために、お前は俺をスケープボードにしたいだけだろうが。
重臣たちからも、家長で、子爵である父の命令に三男のくせに反論するなどもってのほか、と、こそこそと不快感を声に出している。おい、普段から三男だからと小ばかにされているのは知っているが、せめて、本人のいないところで、文句を言え!
ここで我を押し通すには、限界がある判断して、引き受ける代わりに、条件を出すことにした。
俺の人生の師というべき愛書「小役人のススメ」の一説に「難事降りかかれば、無心にて断つべし。断つこと難きならば、機あれば譲り、道を探るべし」とある。つまり「面倒な事を押し付けられそうになった場合は、何も考えずに、まず断りなさい。断ることが難しい場合は、機を見て、代わりの条件を最大限引き出すことを試みなさい」ということだ。
これを機会に、長年温めてきた子爵領脱出計画への賛同を得る条件にしてしまえ。
この愛書「小役人のススメ」は、はっきりは覚えていないが、小さいとき、家の書庫で見つけた。見つけた時は、本としてではなく、椅子の高さの調整用にクッションの下に長年敷かれていた。
この本の扱いが、子爵家での俺の扱いに近いからか、妙に気になり、手に取って中をみてみた。内容は難しくてわからなかったが、鼻に酸っぱい芳醇な香りがした。俺は確信した。これは俺に幸運を運んでくるニオイだ!
それ以来、この本を常に持ち歩いている。難しい文字の勉強をして、少しずつ内容を読み解いていった。徐々にこの本が俺に生きる道を示しているように思えた。守役のシンバ、乳母のエリカ、そして魔法の師匠以外、俺にモノを教えてくれる人はいなかったので、この本に俺は人生の教えを乞うと決めた。
「もしも、無事お役目を果たせて、生きて帰ってきた際には、お聞き届けいただきたいことがあります。お許しいただけますか?父上」
「わかった。話を聞き考えよう。安易に死ぬなよ。アルフ。シンバよ、アルフを頼むぞ」
「お任せください。エルモ様」
父が心ばかりか、俺とシンバに声をかけてきた。
心の中で諦めの心境となった。ふと、次兄ピーチャーがホッとした顔をしているのをみてムカつく気持ちが沸き起こるのを感じたが、精いっぱい顔に出ないように奥歯に力を入れる。