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リゲイン・エメット  作者: 天野月影
第一章 異世界での一週間
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第一章02「奴隷」

「異世界転移…だよな」


 近くの岸に何とか上がる。月明かりに照らされながら、とりあえず上着だけは脱ぎ、近くの木にかけておく。


 異世界転移、多分俺の身に起こったことをいうならそれだろう。一応、転生も考えたが、衣服や顔や体もさっきのままだ。それに死因が分からない。あの男の腹パンチで死んだのか?だとしたら情けなさすぎる。


「まずいなぁ…これ、遅刻どころの騒ぎじゃないって」


 不思議と、そんなに焦りはなかった。これは、多分アレだ。

 予想外すぎる現象に、逆に俺の心が落ち着いているのだと、思った。

 落ち着くと、今度は見える現状にため息を吐く。

 現状は最悪だ。行く当てもなく。ここから見えるあの城まで行くのもいいが、腹が減った。


 そういえば、服などはあるが鞄が無い。まさか、この湖に落ちたか、それとも鞄だけ転移されなかったのか。ポケットの中を探ると、長年愛用しているスマホが顔を出した。

 電源を入れる。ブルっと振動音が鳴り、数十秒後には昨日ぶりのホーム画面が映った。

 時刻は午後八時三十六分。店を出たのが確か半なので、時間は正確だった。ただ、やはりというべきか、

 画面の右端には、小さく「圏外」と表示されていた。


 と、いうか異世界転移した場所が湖とか最悪すぎるだろ。溺れ死ぬぞ。昔からスイミングに連れ回されたが、初めて役に立った。母に感謝。


 ……さて、と。


「ステータスオープンッ!」


 異世界でのお約束、ステータス確認といこうじゃないか。辺りが静かなのでよく声が通る。

 しかし、目の前に現れてくるはずの画面は一向に現れず。

 ……もしかしたらポーズとか必要なのでは?


 そして、様々なポーズをしながら俺は叫んだ。

 仮面のライダーを平成と令和のとを覚えてる限りやって、それでもダメだったので最後は月の美少女ポーズをやった。

 が、しかし。


「だ、駄目かぁ……」


 空腹なのを忘れて俺はバタンと倒れる。いや、なんとなく無理だなとは思ってた。けど、上着が乾くまでの時間何をすれば良いか分からないし、こうやって大声で叫んでれば誰か来るかもという淡い期待もあった。


「────おい、」


 期待は外れはしなかった。後ろを振り返ってみると、鉄の鎧を着た男が一人こちらに歩み寄ってきた。


「お前そこで何──」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


言語が通じることに俺は驚きながらも、背中を向けスマホをポケットの中に隠す。


「────動くな」


 ガチャリと、後ろから音がする。すると背中にコツンと、鋭利なものが当てられる。おそらく、槍の類だろうか。


「なぜこの場にいる───?名を名乗れ」


 名乗れ……と言われましても。しょうがない、嘘をつくにもいい嘘が思いつかない。俺は正直に答えた。


「俺の名前は麻上優。生まれは日本……でぇ!?」


 ゴンッと、背中に棒みたいなものが勢いよくつつかれる。涙目になりながら後ろを振り向く。……持ってたのはやはり槍で、鋭利ではない部分で、俺を小突いたようだ。


「な、何をするんだ──」


「嘘をつくな、お前の出生はどこだ?」


 嘘ではない。信じてもらえないだろうなとは思ってたけど。しかし、なんて言おう。

 下手な嘘はまずい、名前ぐらいは信じてもらえそうだが、出生か……。


「おい、どうした」


 後ろから、草木を踏みしめる音がしたと思えば、野太い声が後ろから響く。


「兄貴、これどうします?」


 槍で背中を突かれる。痛い……と言うよりかはこそばゆい。


「うーむ」


 男は長く唸る。


「まぁ一応見られた訳だし。こいつも連れてくか。あの少女のオマケとしては十分だろ」


 え、どこに連れて行くんですか?呑気にそう言おうとしたときに、ぐらりと体が倒れる。

 どうした俺の体。心なしか景色が黒ずんでいる。俺はこれを知っている。と、いうかさっき体験したばかりだ。


 気絶かよ、情けないな。と、どこからか声が聞こえたような気がした…。


 ==


 ガタン、ガタタン、ゴトガタン。不規則な振動で、ようやく俺は眼を覚ます。


 最初に感じたのは違和感だ、服が違う。薄汚れた布切れ一枚だ。衣服は取られたのだろうか。お気に入りのパーカーと、スマホが入ったズボンが……。なんとか立ち上がろうとしたが、手が動かせない。


「腕が──いや足もか。動かせねぇ」


 手錠みたいなもので腕や足にあって、動かせやしない。


「ふんっ!……ふんっ!」


「────やめたほうが身のためだぞ」


 なんとか壊せないものかと、鎖を引っ張る。しかし、金属の擦れる音ぐらいしか効果がなかった。すると、女性なのか、優しそうな声が響いた。


「君は、どうしてここに?」


 月明かりに照らされて、女性の顔が映る。赤髪の、整った顔立ちをした女性だ。


「……僕もよく分かりません。すごいでかい城の近くにある湖にいたら急に……」


 さすがに、さっきの事があったため、異世界から来ましたとは言えない。そのため、酷く説明は飛び飛びになってしまった。


「城…湖…あれか、ドレイク湖か」


「た、多分そうです……」


「あそこは水が豊富だからね、馬にでも飲ませるために寄ったんだろう」


 なるほど、確かに。さすがに奥底は見えないが、かなりの透明度の水だった。人間はともかく動物は飲めそうだ。て、感心している場合じゃない。


「あの、ここは……」


「ここは、言ってしまえば馬車。まぁ、奴隷を詰めたが入るけどね」


「……」


 なんとなく、予想はついてたさ。嘘だと思いたかったけどさ。けど、なんとかなるもんだと思っていた。だって、異世界だよ!そりゃ普通はチートボーナスとかチートスキルとかあるってのが最近の常識だよ神様!


  ……やばい、涙出てきた。


「俺、死ぬのかな……」


 奴隷となって働かされて死ぬのが目に浮かぶんで目に涙が浮かぶ。それが皮切りとなった。啜り声が聞こえた。よく見てみると、一人の少女がうずくまって泣いていた。


 耳が頭にあって、狸を連想させる尻尾が尻付近にある。……俗に言う「獣人」ってやつか。


「おうちに帰りたいよぉ……」


 その泣き声を聞いた途端、何十人と言う泣いている声が聴こえた。一体、この馬車にどれくらいの人がいるのだろう。中には、大の大人もいる。


 ───やがて馬車が止まった。


 奴隷商人が飛び降り、唯一の出口であるドアを開ける。


「───出ろ」


 静かに、そう言う。俺たちは足枷を外してもらって、一人一人外に出る。

 俺は最後尾の列だった。皆が、虚な眼をしたまま外に出る。

 あと少しで俺も外に出る。怖い。それだけが、俺の中を渦巻いていた。

 すると、赤髪の女性が後ろに周り、


「悲観することはないよ、少なくとも」


 耳元で、こっそりと、呟かれた。


 ……どういう意味だ?

 俺は、鎖を引っ張られ強引に外に出された。寒くて、手が悴みながら、頭の中で考える。

 あの発言は、もしかしたら助けが来ることを知っての言葉だろうか。

 男に連れられていくと、小さな洞穴が見えた。その付近で、白いフードを被った全身白づくめの男がいる。


 はっきりいって不気味だ。陰で顔が見えないのも合わさって怖い。たしか、元いた世界でもこういう格好をしていた人達がいたような。まぁ、違う点はある。


 一つ目は袖に書かれたマークだ。目のマークに罰天(バッテン)がある。そして、襟元に書かれた

『z6』の番号。果たして、なんの意味があるのか。そんな事を考えていたら、牢屋に似た部屋にぶち込まれた。


「痛てて……」


 蹴飛ばされた背中を摩りながら、部屋を見回す。厚い壁で隔たれた狭い部屋だ。多分、俺の部屋よりも狭い。まるで、牢獄のようだ。


「───なんでベットが二つあるんだ?」


 ベット……というよりかは、単に藁にシーツをかけただけの粗末なものだが、無いよりかはマシだろう。だけど、なんで二つなんだ?

 一つは薄い毛布が綺麗に折りたたまれてあり、もう一つは一応折り畳まれてるが、所々にシワがあり、明らかに使った形跡がある。

 とりあえず、使った形跡のある方に手を入れる。

 いい匂いがする。手を布団の中に入れる。


「あったけー。癒される」


 布団の中は少し温もりがあり、冷たさで麻痺状態の手が溶けるよう薄まる。

 ……温かい?

 後ろに人の気配を感じ、バッと後ろを振り向く。風が靡いて蝋燭が消える。暗闇の中、二つの目が俺を見据えている。


「うおぉわ!」


 ベットから離れる。蝋燭が消えているので、顔がわからない。と、いうかさっきまで居たのか?全く気づかなかった。


「……何をしてるんですか?」


 声色的に、女の子か……?言葉に若干の棘がある。確かに当たり前だろう、あちら側にしてみれば見ず知らずの男が自分のベットを触ったいるんだから。

  ……そう考えてみれば、恥ずかしくなる。知らなかったとはいえ、女子の布団を探っていたのだから。


「ご、ごめんなさい!いや、知らなかったんです!気づかなかったんです!」


 我ながら苦しい言い訳、顔は分からないが、多分、怒っているのだろう。奴隷だが、同居人に嫌われるのは困る。精神的にも、肉体的にもだ。


「……まぁ、姿を隠していた私にも非がありますので」


 そう言い、少女はさっきまでいた布団をかぶる。そして───。


「明日は朝からキツイですので、早く寝た方がいいですよ」


「え、あぁ……わかった」


 俺は布団の中に入る。

 中は意外と作られてるな。これなら腰を痛めずにすみそうだ。そう思いながら、俺は隣の人を起こさないように、慎重にベットに潜った。










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