君の顔が好きだ
部活のない日曜日。
だというのに、なんとなく部の同級生で集まってしまうのは、それだけ仲がいいわけでも、連帯感とかのせいでもない。
繁華街のファーストフード店でひとしきりお腹を満たし、惰性でトレイにぶちまけたフライドポテトをみんなで摘みながら、それほど熱量もなく口から滑り出すのは、自然と学校や部活の愚痴になる。
「てかほんと先輩らもやる気ないよねー」
滅多に顔を出さない名ばかり顧問の話から、秋から新チームになったというのにダラダラした雰囲気に変化のない部の先輩らの愚痴になる。
「そもそもあの人ら、男バレのイケメンジャー目当てで部活来てるし」
イケメンジャー・・・入部直後に誰目当てなのかと尋問を受ける原因となった、男子バレー部ひとつ上の学年の5人だ。間違いなく顔面レベルが高い。
そして、6人目のイケメンとされてるのが愛しの藤真。尋問時、その想いをごまかすために名を挙げた林や高岡はイケメントリオとは呼ばれていないところで推して測るべし。二人とも悪くはないけど、イケメンジャーに比べると明確に落ちるのだ。
球拾いは一年の仕事と言い切りながら、男子コートに飛んで行ったボールを追いかける先輩のスピードはすごい。そして戻ってくるのは遅い。
まあそもそも、自分たちに覚えがなければ、なにも知らない新入生を男目当てだなんて決めつけるわけがないんだ。
「そういや、藤真とはどうなん?」
「っ!?」
突然一気に視線を向けられて、飲んでたジュースを吹き出しかける。ストローの中を逆流し損ねた空気が、鼻の奥に水分を運んで気持ち悪いことこの上ない。
「最近結構しゃべってるとこ見るよ?」
「だよね。林とかも一緒にだけど」
ニヤニヤしながら聞いてくるこいつらに、あたしの気持ちを告白したことはない。こいつらだって、入部早々に藤真のことはチェックしてたんだから。あたしは素知らぬ顔でごまかしにかかる。
「別にどうもこうもないよ。しゃべることは・・・まぁ増えたけど」
そう!そうなのだ。坊主隠しの件以降、あたしと藤真の会話のキャッチボール回数は劇的に増えたのだ!
まあ、元が一問一答って感じだったから、会話が弾んでるとかは言い難いのだけど。一対一ってわけでもないし。むしろ空気読まずに話しかける男・高岡と、空気の読める男・林のお陰である。
ゆえに調子には乗ってない。てか乗れない。
「藤真が女子としゃべるイメージないよ?しゃべれるだけですごいんじゃん?」
「めちゃイケメンだけど意外と地味だよね」
なにを。地味のなにが悪い。イケメンなだけで十分な才能じゃないか。
「どーいうとこが好きなの?」
え、顔。
・・・と、内心で瞬間に出た答えはさすがに自重すべきかと反省して、キリッと表情を引き締める。
「え、別に好きじゃないけど」
「そーいうの要らない」
「往生際わる子」
ぐふぅ。撃沈。
「ま、ま。そう言うなら質問を変えようじゃないか。どんなヤツが好みよ?」
聖母のような優しさで変えてもらった質問に首をひねる。好み・・・好みかぁ。細かいとこは端折るけど
「んーと、あたしより背の高い人。あと頭も運動もそこそこできて、最低限の気配りのできる人」
そして一番に顔。と言うのは自重する(2回目)
藤真は勉強もスポーツも上の方。そして割と気を使ってくれることに最近気づいた。なにそれ王子。
まぁなんか心の中で気を使ってるんだろなーと表情に滲ませることがほとんどで、だいたいは
「それはむしろ林じゃね」
「なんでだ」
「動揺すんなよ」
「してねぇよ」
しまった。顔と言えないばかりに不名誉な変換をされてしまった。
だいたいは、の後は『先に林が声をかけてくれる』と続けるつもりだったので、動揺はホントはちょっとしてしまった。が、別に恋心を揺らしたわけではない。
言葉で条件を並べたところで、好きだという感情がそこに付随するわけではないし、そもそもあたしは藤真に一目惚れしたわけなのだから好みとかそういう理屈じゃない。
藤真に一目惚れして、好きな人として名を呼んでしまった瞬間、それは恋と名がついて。中身の曖昧な動機かもしれないけど、苦しいくらいの想いに育ってしまった。
だから、他の人に心を揺らしたりはしないのだ、とあたしは少し笑った。
「そういえば知ってるー?」
あたしの薄いリアクションに飽きたのか、さらりと会話が変わる。
「藤真ってそっくりなお兄ちゃんいるんだって」
「まじで」
揺らしたりはしないのだ。
君の顔が好きだ。
それだけで全て許せるくらいに。