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はんじゅく。  作者: 叶橘
7/12

愛しい概念と残酷な現象

 人の世の基本はペアだと思う。

 そもそも人自体が男女一対から生じるものだし、親は子にそれぞれが持つ一組の遺伝子を分けて、合わせて、また一組とする。

 だから、人は自分の対を求めるのではないだろうか。それが友達だったり好きな芸能人だったり、はたまた仕事が恋人ってこともあるだろうけど。


 

 あたしは3人姉弟の真ん中で、2つ上の姉と5つ下の弟がいる。姉はお父さんっ子で、弟は甘えたのお母さんっ子。

 初めての子どもである姉と、待望の男の子である弟。そして、子どもとしても娘としても二番目のあたしは、家族の中で自分がつまらないもののような気がしていた。もちろん、誰かにそう言われたわけではないのだけど。


 例えば親子でペアを作るとしたら、父は姉を選び、母は弟を選ぶだろう。

 また、父母でペアになった時は、姉は歳が離れた可愛い弟を選び、弟は頼れる姉を選ぶのだ。

 別に疎外されてるわけではない。なんというか、ただあぶれるだけだ。そんなあたしはあぶれることに人一倍過敏なくせに、過敏だからこそ違う方を選ばれる前にひとりあぶれたりするのだ。






 わいわいと体育館の床に並んで座る生徒達に、顧問の先生の声がかかる。

「じゃあ男女バレー部注目ー。おしゃべりしなーい」


 先生の注意など受けるまでもない。

 ちょっと動いたら肩がふれあいそうな距離の隣に藤真がいるせいで、しゃべるどころじゃないあたし。


「ほら前向いてー」

 ああ、でも、この注意はあたし向けかもしれない。左隣の藤真を意識し過ぎて、やや右方向に逸らした顔を正面に戻すことができないのだ。

 あああ、ヤバイ。藤真が近い。

 まだ残暑の残る9月だというのに、側にいすぎる藤真との間で空気が熱を持つ。吹き出す汗が万が一にも臭ったりしたらと思うと呼吸すら無意識に止めてしまう。なんとか正面の先生に視線を向けると、先生はさほど気にした素振りもなく、手にしたプリントを見ながら説明を始めた。

「1年生部員は3年生の試合の審判担当ね」


 夏休みが終わったばかりの今日。体育委員会と運動部各部を集めての、球技大会の説明会。競技は体育館でバレーボール、グラウンドでドッヂボールとソフトボールだ。故に、バレーボール部がバレーボールの試合の審判を担当するらしく、こうして男女一緒に並ばされて話を聞いている次第。

 そしてその指定の並び方が、男女各一列縦並びとなっている。


 そして偶然。ほんとうにたまたま、あたしと藤真が横に並ぶという状態になっている。

 心臓ヤバイ。横見れない。近過ぎてそっぽ向いたままでは視界に入らない。

 意識しすぎて再び右方向に傾いていく頬を自覚しながら、自分自身にガッカリした。



 さっき言ったみたく、人の基本はペアだと思う。

 部活でもストレッチや対面パスはペアを組んでやるし。まぁそのあたりはあぶれた一人をも受け入れてくれる包容力もあるけど。

 複数の人を見ると自然とこの人とこの人、とペアで線引きしてみたり、ふた座席ずつのバスの座席表に当てはめる癖のあるあたしは、余った人とペアで座るよりは補助席の方がいい。


 そしていま、あたし自身がこの状態を傍から見れば、間違いなくあたしと藤真をペア認定するだろう!!ペア!あたしと藤真が!

 そしてここから何かが始まるかもしれない。だってなにしろあたしと藤真はペアなのだから・・・!!



「主審、副審、線審は2人。1、2、3、4・・・」

 一列目から男子、女子の順に指差して数えていた先生が、喜びに打ち震えるあたしの横で藤真を指さした。


「スコアラーもいるから、5人で1組ね」

「え」

 先生の顔を見て、目を瞬く。

 思わず隣の藤真を見つめ(やべぇ目がばっちり合った。破壊力ぐふぅ)、あたし達(達、だよ?あたしと藤真ペアのことですよ?)より前に座っている部員を見る。

 あたし達は、三列目。浮かれた気分は一瞬で霧散した。




「ここから2組目ー」

 そう言った先生にポンと肩を叩かれたのが、あたしと藤真を分ける確たる合図となった。








ただ隣り合っただけの残酷な現象

(それでも、隣にいられることがこんなにも嬉しい)



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