装備一新
表通りから少し逸れた、裏通りへの入り口付近。そこに冒険者ギルドで教わった鍛冶職人の店がある。
腕が良いという割にこんな場所にあって店も小さく、建物自体も少し古く見える。
「本当に……ここ?」
マッスルガゼルの背に乗っているロシェリが疑問に思うのも分かる。
建物が少し古そうなのはともかく、どうしてこんな立地的に微妙な場所にあるんだろうか。腕が良いなら表通りに店を構えてもいいのに。
客を選ぶって話だし、性格的に変わっているからこんな場所を選んだのか。それとも、仕事を選び過ぎてこんな場所にしか店を構えられないのか。どっちにしてもまずは接触を。
「出てけ! このクソッタレ!」
図ろうとしたら、なんか女性の罵声と共に店から全身鎧姿の大男が転がり出てきた。
……接触、ちょっと考えようかな。いつの間にかマッスルガゼルから降りてたロシェリが怖がって震えて密着してるし、マッスルガゼルはいつでも跳びかかれるよう鼻息を鳴らしながら足場を均してるし。
「な、何すんだこのアマ! こっちは客だぞ!」
しりもちをついた状態で男が文句を言うと、デカい槌を肩に担いだ機嫌の悪そうなドワーフの女性が店から出てきた。
女性だから髭が無いのはともかく、小柄で腕も足も筋肉質でずんぐりと太い。ハルバートを作ったあのドワーフも同じような感じだったから、種族的な特徴なんだろう。
「テメェが客かどうかなんて関係あるか! アタシはテメェって野郎が気に入らないんだ、とっとと帰れ!」
「ごふぁっ!」
機嫌が悪い女性ドワーフが振るった槌の一撃で男は吹っ飛ばされ、頑丈そうな鎧がぶっ壊れた。有無を言わさないとは正にこの事だな。
体は無事だった男は壊れた鎧を回収する事も無く、怯えた様子で逃げて行った。
周囲にいる野次馬達からすればいつもの光景なのか、一通り様子を見終わると「またやってるよ」と言いながら散って行く。
「ジルグ……君。本当に、あそこで……いいの?」
体だけでなく、声まで震えているロシェリは行きたくないんだろう。安心させるために「大丈夫だ」と声をかけて背中を擦ってやったら、なんか小さく艶めかしい声を漏らして頬を赤くした。なんかここ最近のロシェリの反応は、少し勘違いと間違いを引き起こしそうだから困る。
とりあえず、機嫌が悪そうだから一度ここから離れて後で出直そうと背を向けたら。
「おい、ちょっと待て。そこのマッスルガゼルを連れた小僧と小娘」
呼び止められちゃいました。ロシェリが小さく「ひぃ」とか言ってる。
落ち着け。こういう時にああいう相手の時は無視せず、素直に対応するんだ。
「な、何か用でしょうか?」
恐る恐る尋ねると槌を担いだまま女性ドワーフが歩み寄って来て、俺を鋭い目つきでジロジロ見てくる。力いっぱい抱きついているロシェリ、お前が見られている訳じゃないから落ち着け。鼻息を何度も鳴らして威嚇するマッスルガゼル、お前はもっと落ち着け。
そう思いながら次の反応を待っていると、視線が俺というよりも背中のハルバートへ向いているのに気づいた。これに何かあるのか?
「その背中の妙な武器、ちょっと見せてみろ」
「は、はい。どうぞ」
素直に差し出すとまずは柄の部分の亀裂を見て表情を険しくして、次いで先端の方の三種の武器が組み合わさった個所をじっくり観察している。
「……小僧。お前、これをどこで手に入れた」
「えっと、王都の露店でドワーフの方から買いました」
「王都だって? そうかい、あの人は王都にいんのかい」
ひょっとしてあのドワーフの知り合いなのかな。ていうか、武器を見ただけでそれが分かるのか?
ドワーフ的な何かがあるんだろうか。
「まあいい。小僧、この亀裂はどうした」
「ビーストレントの攻撃を防御したら、そうなりました」
「ほう? じゃあお前さん達が、噂に聞いたビーストレントを倒したっていう若い冒険者か」
冒険者の間どころか、鍛冶屋にまで広がっていたのかよ。これは下手したら、町中へ広がっているかも。
返してもらったハルバートを背負い直しつつ、情報伝達の速さについ苦笑いが零れる。
これはいい感じだし、ちょっと踏み込んでみるかな。
「はい。そのビーストレントの素材で彼女の杖を作ってもらおうと思って、職人を探していたらこちらの店を教えてもらいまして」
できるだけ丁寧な口調で用件を述べると、女性ドワーフは今度は俺達をジロジロ見る。
客を選ぶってこういうのだろうか。不安そうなロシェリがしがみつく力を強めて、昨夜の感触を思い出してしまう。
「いいだろう。中に入んな」
どうやらお客として扱ってもらえそうだけど、さっきぶっ飛ばされた人のこともあるし機嫌を損ねないように気をつけよう。
大丈夫だロシェリ、もう怒ってなさそうだからそんなに密着して怖がるな。それとマッスルガゼル、お前も警戒心丸出しで角を向けるな。というか店に入ってくるな。
どうにかマッスルガゼルを外に出して待ってもらい、改めて店内を見渡す。古びた様子の外側に比べてしっかり清掃はしてあるし、置かれている道具や設備も手入れが行き届いている。棚のなんかよく分からない素材も丁寧に扱われているようで、さっきの出来事とのギャップを感じる。
「あの、さっきのは……」
「うん? ああ、あの男かい。実力も無いくせに粋がっていたから、ちょいと物理的な説教をしただけさ」
物理的な説教って……。
「それにアタシの「直感」が、あいつは碌な事をしないって言っていたからな。関わるのはゴメンだ」
「直感ですか?」
「おうさ。アタシの先天的スキル「直感」さ。その点お前達は悪い予感がしないからな、注文があるなら受けてやるよ」
客を選ぶってこういうことか。そりゃあ悪い予感のする客は避けたいんだろうけど、ちょっとやり方が乱暴だな。
まあいい。俺達はこうして無事に受け入れてもらったんだから、お客として接しよう。だからロシェリ、もうそんなにビクビクしなくてもいいんだぞ。
「そんで、注文はなんだ? さっき言っていた小娘の杖の製作だけか?」
「可能ならこのハルバートの修理と、防具も新調しようと思っています。籠手とか脛当ても含めて、予算は銀板一枚と銀貨二十枚までで」
「私も……です。銀貨三十枚まで……です」
さすがにいつまでも今のショボイ防具じゃ不安だし、せっかく金が手に入ったんだ。防具を新調してもバチは当たらないだろう。
でもあまり高いのを買っても分不相応だろうし、やっぱり金を持っているんだなって目をつけられる可能性が高い。だからここへ来るまでの間にロシェリと話をして、防具に使う予算の額を決めておいた。
「そいつの修理はともかく、その予算で買える防具か。よし小僧、ちょっと立て。そんで体触らせろ」
「はい?」
えっ、何そのオープンセクハラ。
「変な意味じゃないよ。体つきとかを調べて、合いそうなのを探す参考にするんだ。だから小娘、そんな必死に小僧を守らなくても大丈夫だぞ」
急に正面に回って抱きつくから何かと思ったら、俺を守ってくれていたのか。そこまでして守ってくれているのかと嬉しいような、自分は何かと密着するのに他人が触れるのは駄目っていう独占欲がちょっと怖いような、少し複雑な気分だ。
どうにか宥めて離れてもらい、女性ドワーフに腕や脚や腰回りとかを触れさせて調べてもらう。
骨格や筋肉の具合を確認しながら何度も頷くその姿を、ロシェリはなんだか複雑そうに見ている。
昨日の事からくっ付きたがる理由は分かったけど、なんかこれ独占欲とか依存とかそういうのを少し感じる気がする。どうか俺の気のせいか、思い違いであってほしい。
「なるほどね。ちょっと待ってな小僧、良さそうなのが確かあったはずだから」
そう言い残して奥へ引っ込むと、まるでマーキングするようにロシェリがくっ付いてきた。
あのさロシェリさんや、これは距離感を測れなくて物理的に近づこうとしているだけだよな? 決して独占とか依存とかじゃないよな? もしもそうなら、どう反応して対応すればいいのか分からないんですけど。
「待たせたね。……店の中で何やってんだい?」
「いえ、気にしないでください。それよりも、防具を見せてください」
「あいよ」
置いて見せてくれたのは、灰色をした革製の籠手と脛当てと胸と腹部を守る革製の鎧。どれにも丈夫そうな紐が通してあって、それで体に合わせられるようになっている。
「こいつらはどれも、メタルアリゲーターって魔物の皮を使っている。体つきからして小僧はタンクよりもアタッカーの要素が強いんだろう? こいつなら丈夫な上に軽いから、動きやすさも保証するよ」
なるほど、大きさだけじゃなくてそういうのを調べる意味合いもあったのか。
ちなみに「完全解析」で見るとどうなるんだ?
メタルアリゲーターの革籠手 中品質
素材:メタルアリゲーターの皮
スキル:なし
革製だが金属に負けない強度があり、物理的な防御力は高い
魔法への防御力もそこそこあるが、雷系の魔法に対しては弱い
メタルアリゲーターの革脛当て 中品質
素材:メタルアリゲーターの皮
スキル:なし
革製だが金属に負けない強度があり、物理的な防御力は高い
魔法への防御力もそこそこあるが、雷系の魔法に対しては弱い
メタルアリゲーターの革鎧 中品質
素材:メタルアリゲーターの皮
スキル:なし
革製だが金属に負けない強度があり、物理的な防御力は高い
魔法への防御力もそこそこあるが、雷系の魔法に対しては弱い
真実のベルの時もそうだったけど、「完全解析」のレベルが上がっているお陰で装備の詳細がより分かるようになっている。
スキルが無いのは残念だけど、予算からして一つ銀貨二十枚ちょいだから仕方ないか。
しかし素材が同じだからか、説明文が全部一緒だ。手抜きじゃないよな、「完全解析」よ。
「ちなみに値段の方は?」
「一つ銀貨二十五枚のところ、全部買うならセット割引で一つ銀貨二十枚。合計で銀板一枚と銀貨十枚だね。品質はそこまで高くないし、水系の魔物の素材だから雷系の魔法には弱いって欠点もあるから」
「完全解析」で見えた欠点も教えてくれる辺り、この人は信用できそうだ。全部が雷系の魔法に弱い欠点も、分かっていれば対応のしようはある。セット割引も効くし、これでいいか。
「分かりました。セットで買います」
「まいどあり。じゃあ次は小娘の方だけど、これなんかオススメだね」
取り出したのは紺色をしたフード付きのローブ。これはどんな防具なんだ?
ネイビースネークの革ローブ 中品質
素材:ネイビースネークの皮
スキル:なし
魔法に対する耐久性が高く、弱い魔法なら損傷しない
その反面、物理的な耐久性はやや低い
説明文からして魔法への耐性が高い素材なんだろう、このネイビースネークの皮っていうのは。
「ちょっと物理的には不安があるけど、魔法には強くてちょっとやそっとの魔法じゃ損傷しない。今なら銀貨二十八枚だ」
「買い、ます」
即決かい。まあ物はいいし、構わないか。
「あいよ、まいどあり」
それぞれで代金を支払い、俺は今すぐ装備する必要が無いから次元収納へ入れ、ロシェリは新しいローブへ着替える。ちょっと袖は余っているけど気に入ったようで、フードを深く被って軽く回ってみている。
使わなくなった防具はどうしようかと思っていたら、女性ドワーフがドワーフ独自の風習に則って処理したいと提案してくれた。
「坊主の武器を修理する炎の中へ入れて、新しい武器の糧となるように供養するのさ」
そう言いながら、差し出した俺の革製の胸当てとロシェリの布製のローブを受け取る。
ドワーフ独自の風習によると、革製や布製の防具は鍛冶の炎にくべて新たな武具を生み出す糧にして、金属製の武具は鋳潰して別の物へ作り変えて新たな命を注ぐものらしい。ひょっとしてハルバートを売ってくれたあのドワーフが剣を引き取ったのも、それに則ったものかもしれない。
あっ、そういえば。
「この武器……ハルバートの製作者と知り合いなんですか?」
「……同じ師匠の下で一緒に修業した兄弟子さ」
「よく見ただけで、それが分かりましたね」
「ドワーフの目を舐めるなよ小僧。知り合いの作った物なら、誰が作ったかなんてすぐに分かる」
なるほど、やっぱりドワーフ的なものが絡んでいて見抜いたのか。それにしても、あのドワーフの妹弟子なのか、この女性ドワーフは。
「まっ、それはそれとして武器を渡しな。綺麗に修理してやるから。勿論、小娘の杖も作ってやるよ」
「お願いします。あっ、そうだ。修理の時にこれって使えます?」
物は試しと次元収納からビーストレントの魔心石を取り出してみた。
「そいつは例のビーストレントの魔心石か。まだ若いが品質は悪くないね。いいよ、使ってやる。なんか望みのスキルはあるかい?」
「麻痺とか毒とか、そういうのってできますか?」
ビーストレントと戦う前、搦手が有効な相手対策に状態異常にする武器を探そうと考えていた。それを見つけるどころか作ってもらえるチャンスがあるのなら、逃すつもりは無い。
「麻痺ならできるから、それでやっておくよ。で、小娘はどんなスキルがいいんだい?」
「えっ?」
「えっ? じゃないよ。大きさはともかくこの品質だ。アタシの腕にかかれば二つに分けて使うくらい、どうってことないよ」
そんな事ができるのか。こりゃいい、強化につながるのなら拒む理由は無いな。
「やってもらえよ、ロシェリ」
「でも……いいの?」
「元々俺達二人への報酬なんだ、分けて使ったって文句は無い」
「じゃあ……えっと……お願い、します」
「おうよ、任せておきな!」
胸を拳で叩く女性ドワーフの姿が頼もしい。
これで装備はなんとか……と、大事な事を忘れていた。
「あの、代金はいくらぐらいでしょうか?」
金はあるけど、だからって値段も知らずに作ってもらう訳にはいかない。
もしもこっちの手持ちより高ければ、相談が必要になってくる。
「そうだね……。素材は持ち込みだし、亀裂の修復は大した手間じゃないから、坊主の方は金貨一枚と銀貨三十枚、小娘の方は金貨二枚でどうだい?」
えっ、結構取るな。
「高いと思うだろうが、ビーストレントの素材や魔心石を加工してスキルを付与するなら、それぐらい取らなきゃ割に合わないんだ。これでも良心的な方だよ」
要するに技術料ってことか。
喋ってみた感じだと嘘ってことは無いと思うし、ここは変に値引き交渉をして機嫌を損ねない方がいいかな。防具を買って、ここまで話を進めたのに断られたくないし。
それに、要求された額を払える金もあるしな。
「分かりました、それでお願いします。ロシェリもいいか?」
「うん……。払え、ます……」
「話が早くていいねぇ。よし、久々に腕が鳴る仕事になりそうだし、気合い入れてやってやるよ」
女性ドワーフはこの後、ロシェリから付与したいスキルの注文を聞き、完成するのは明日になると言われたから今日はこれで退散。
道中で適当な店に入って、次の目的地について話し合う事にした。
「こっから先はどこへ行こうと、王都の直轄から外れることになる」
適当な飲み物を頼んだ後で広げた地図によると、王都が直接管理しているのはこのシェインの町まで。この先はどの道を行こうと、領地持ちの貴族が管理している地へ入ることになる。それ自体は悪い事じゃないんだけど、管理している貴族が必ずしも良心的な領地運営をしている訳じゃないから注意が必要だ。
一応不定期かつ抜き打ちで国の監査は入っているらしいけど、何事にも悪い意味での慣習はあるものだ。いわゆる、誰でもやっているんだからっていう怪しげな免罪符での不正行為とか賄賂とかが。
だからそういう情報はしっかり仕入れて、まともな領地の方へ行きたい。悪い物からは逃げる、当然のことだ。
「どっひに、行ふの……?」
いつの間に注文したのか、サンドイッチを食べながらロシェリから尋ねられる。食べながら喋るな、行儀が悪い。
「正直、どっちもどっちらしいんだよな」
シェインの町から先へ進むルートは二つ。昨日レイアさんから仕入れた情報だと、どっちの領地も評判は良くはないが悪くもない。可もなく不可もなくな無難な領地運営をしているらしい。
そこで考え方を変えてみよう。目の前の選択じゃなく、さらにその先へ目を向けてみた。
「このベリアス辺境伯領へ行ける、こっちのバーナー伯爵領の方を目指そうと思う」
「どうして、その……辺境伯さんの、所に?」
「王国の西側では一番大きくて、冒険者の活動も活発だからだ。それに領主の統治も良いって聞くし」
あくまでレイアさんから仕入れた情報だけど、そっちの方で勤務している人達からの評判は良いらしい。
それにこのベリアス辺境伯領は王国の西側の端に近くて、数日歩けば友好国との国境を越える事もできる。また逃げたいことになったら、そっちへ逃げられるっていうのも理由の一つだ。
「という訳で、これまで決まっていなかった目的地を、ベリアス辺境伯領の中心地ガルアにしたいと思う。ロシェリはどうだ?」
「いい……よ。ジルグ君と、一緒なら……」
そう言ってくれるのは嬉しい。でも頬を赤くして顔を逸らしながら言わないでほしい。別の意味に聞こえてきて勘違いしそうだから。
あと、いつの間にサンドイッチのおかわりを頼んでいたんだ。しかも三皿。
この後は翌日の出発に備えて食料や追加のポーションといった物の買い出しへ向かい、ついでにエルク村で買い忘れていた「速読」と「暗記」のスキルを上げるために本を数冊購入。
さらにロシェリの要望で雨具と大きめのタオルを購入。この間までの山中移動の際、激しい通り雨に遭ったからだろう。
そういった準備を整えたら同じ宿でもう一泊。泊まっていた冒険者から勧誘を受けたり、ロシェリがこれでもかと積まれた肉を完食して大将を驚愕させたり、密かに「完全解析」を使って俺達の能力やスキルのレベルが上がっているのを確認したりして過ごした。
昨夜同様に煩悩と理性が火花散る戦いを繰り広げたけど、これの詳細は割愛しよう。いやホント辛かったんです、理性に押し切らせるのが。
****
翌朝。武器を受け取ったらそのまま出発できるよう、新しい防具を装備して女性ドワーフの店に顔を出した。
「いやぁ、いい仕事させてもらったよ。やっぱアタシの「直感」は正しかったな。お前達の注文を受けて正解だったよ」
喜々とした表情で出迎えてくれた女性ドワーフから受け取ったのは、亀裂は修復され、魔心石を使った影響か薄っすらオレンジ色になったハルバート。それと先端に小さな魔心石が埋め込まれた木製の杖。
試しに軽く振っても違和感は無く、握った感触は以前よりもしっくりくる。防具選びで体を触られた時に掌も触られたから、太さを合わせてくれたのかな。
ロシェリも気に入ったのか、「わぁ……」って声を漏らして嬉しそうにしている。
そんじゃ、両方の武器とスキルに「完全解析」をかけてみるか。
槍槌斧ハルバート 中品質
素材:鋼鉄 魔心石
スキル:麻痺LV2【固定】
魔心石を使用したことで、通常の鋼鉄より強度と切れ味が向上
持ち主の魔力を通しやすくなり、魔法も纏わせやすくなっている
麻痺:攻撃時、確率で相手を麻痺させられる
樹獣の杖 中品質
素材:ビーストレントの樹木 魔心石
スキル:魔力貯蓄LV2【固定】
魔法習得速度上昇LV2【固定】
持ち主の魔法使用時における発動速度を上げる
持ち主が獣人族か樹人族の場合、魔法の威力と効果が向上
魔力貯蓄:杖に予め魔力を蓄えておき、それを使用できる
蓄えた本人でないと使用は不可
魔法習得速度上昇:未収得の魔法系スキルを習得しやすくする
おお、要望通りの麻痺スキルが備わっている。しかも魔心石の使用が強度と切れ味の強化にも繋がっている。これは嬉しい誤算だ。
ロシェリの方の杖もいいな。要望していた魔力を蓄えておける「魔力貯蓄」スキルは、いざという時に魔力が無くなったら困るからということらしい。もう一方の「魔法習得速度上昇」スキルは、上位種であるビーストレントの素材を使ったから備わったスキルだろう。これまた嬉しい誤算だ。
種族的な恩恵がロシェリには無いのは残念だけど、そういう仕様なら致し方ない。
そこら辺の説明も女性ドワーフから聞かされ、知ってはいるけど一応驚いたり感心したりする反応は見せておいた。
「そんじゃ、頑張んなよ」
「はい。ありがとうございます」
「お世話に、なりまし……た」
代金を支払った後、見送ってくれる女性ドワーフに頭を下げて店を後にする。
門へ向かう途中で巡回中の騎士団の人と遭遇すると、改めてお礼を言われたり、旅立つと教えたらもう行くのかと残念がられたりした。
こっちもちょっと残念だけど、良からぬ輩が俺達の大金に目をつけて何かしてくる前に町を出たい。特に怪しい気配や敵意なんかは感じないから、逃げるなら今のうちだ。
門で審査をしている騎士団の人達からも同じような反応をされ、シェインの町を後にする。
「さあ行くか、次の町へ」
「おー」
前にも思ったけど、もうちょっと弾んだ声で頼む。地味に気合い入らないから。
それとマッスルガゼル、あまり勇んで筋肉を隆起させるな。筋肉でバランスを崩したロシェリが落ちそうだから。




