03 ギシギシ
「神崎さん」
「君は103号室の黒髪美少女か」
「はい、そうです」
「なぜ壁に穴が開いているのに直すのを拒否しているんだ?」
「それは神崎さんのことをもっと近くで感じていたいからです」
「なっ!?しかし君は俺を110番通報しようと…」
「そうです。あなたは罪を犯しています………私の心の窃盗罪です」
「なんてことだ…俺はそんな重罪を…」
「恋の110番通報です。今すぐにあなたを捕まえます」
「ま、待ってくれ。俺には天使が…」
「言い訳はベッドの中で聞きます。終身刑なので私から離れることは許しません」
「はっはっは。これは参ったなあ」
…なんていうことは起きるはずもなく、俺は壁の穴の前でこれからどうするかを考えていた。
ポスターで隠すのはいいが、剥がされたら部屋の中が覗かれ放題になってしまうし生活音も隣にだだ漏れだろう。タンスや本棚もベッドが邪魔で置くことができない。
「逆に考えたら俺は美少女の部屋を覗き放題ということか」
…いやそれは流石にやめておこう。本当に110番通報されてしまう。
ちなみに馬場さんは『後は一人で頑張ってね~』と言って先に帰ってしまったので、今この部屋には俺だけしかいない。つまり今の独り言は誰にも聞こえていないはずだ。
俺は改めて壁の穴を観察してみた。拳ほどの大きさの穴が不自然なほど綺麗に開いていて、何かの事故で開いたとは考えられない。これは誰かが隣を覗くために穴を開けたような…。
「まさかな…」
前の住人が覗き魔だったとか、そこらのホラー映画よりも恐ろしいぞ…。
穴の先には何かが掛けられており、隣の部屋を見ることができない。おそらく隣もポスターで穴を隠しているのだろう。
「どうすることもできないし、何か問題が起きた時に考えるかー」
面倒くさいことを先延ばしにするタイプの俺は考えることを放棄した。東京という慣れない環境と引っ越しの片づけで疲れきっていた俺の体は睡眠を要求している。
「輝かしい大学生活を願って~………おやすみ」
自分しかいない部屋でこれからの生活に期待を込めながらそう呟いた。
まだ外が完全に暗くなる前だが、俺の上京初日はこうして終わりを迎えたのであった――。
――――――――――
と、思っていたがまだ初日を終わらせてはくれないらしい。
気持ちよく眠っていた俺は何かが軋む音で目を覚ました。
ギシギシギシギシ――。
音は上の方から聞こえてくる。時計を見ると今は夜中の23時らしい。
こんな時間に何の音だ?夜中にギシギシと――。
「…はっ!まさかこれは」
一人暮らし…真夜中…ギシギシ音…。もうあれしかないじゃないか…。
誰だよ、異性を部屋に連れ込んだやつは…。
ギシギシ音が益々強くなってきている。よほど激しい動きをしていらっしゃるらしい。
「くそっ。うらやま…じゃない、眠れないじゃないか!」
俺は箒を取り出し、制裁を込めて天井を強めに突いた。するとすぐにピタッとギシギシ音が鳴りやんだ。どうやら分かってくれたらしい。
いや、フィニッシュしたのか?
「はあ、やはりリア充は他人に迷惑しかかけないな」
どちらにせよこれで気持ちよく寝ることができ――。
ギシギシギシギシギシギシギシギシ。
今度は当てつけのように2回戦を始めやがった。しかも激しさが尋常じゃない。
お前らは発情期の猿か!
「う…るっせええええええ!」
我慢できなくなった俺は箒で嫌がらせのように何回も何回も天井を突いてやった。
「ははははは、そんなに男から突かれるのが好きなら下からも突いてやるよ」
睡眠を邪魔されたイライラと寝起きのテンションでとんでもないことを口走りながら箒で突き続ける。
50回くらい突いたところでギシギシ音が止んでいることに気づき、箒を片づけた。
「やべ…やり過ぎたか…」
天井に箒で突いた跡が残っているのを見て少し頭が冷えてきた。
「馬場さんに言われたルールを初日で破ってしまった…でもこれは仕方ないよな」
それよりも今の騒動が隣の部屋に伝わっていないか心配だな。103号室は壁の穴を見る限り部屋に誰かがいる気配はない。反対の101号室も物音がしないので天使は寝ているか部屋にいないかだな。
大学の入学式は一週間後なので、それまでは2人とも実家で過ごしているのかもしれない。
「まあ、いっか。おやすみ~」
上階の音がどうしてこの部屋にここまで響くのか、掲示板に書かれていた注意事項が守られていない等、考えることはたくさんあるが、眠たすぎて頭が働かないので考えることを放棄した。
そして明日には全て解決していることを願いながら俺は意識を手放した。
――102号室の扉に『突き魔』と書かれたステッカーが貼られているのを見つけたのは翌日のことだった。
今話題になっているあの企業をディスっているわけではないレオよ。




