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01 上京(1)

『独り立ちするまでは人生のチュートリアルだ。守られる側から守る側になって初めて人生という土俵に立つことになる』


 禿げた親父が酒を飲みながら俺に言った言葉である。

 要約すると早く稼げるようになって出ていけということだ。

 ちなみに母は『高校卒業したら東京にでも行っておいで。なんならアメリカにでも行く(笑)?』と、“何事も経験だ理論”で俺を都会に放り込もうとする。

 挙句の果てに妹は『ねえいつになったらお兄ちゃんの部屋使えるの?』である。

 

 俺、 神崎(かんざき) (りょう) 18歳。 家から追い出される。

 

 意地でも親のすねをかじりつくしてやろうかとも思ったが、何もない田舎に留まるよりは都会に行きたかったので涙を呑みながら(悔し涙)上京することとなった。

 

 こうして俺は高校卒業と同時に都会の大学へ進学することになったのである。


 上京する日に珍しく妹が見送りに来てくれたので「東京でビックな男になってくる」と意気込むと「あそこ小さいくせに何言ってんの?」と馬鹿にされた。

 腹が立ったのでとある部位を見ながら「小さいのはお互い様だ」と言ってやると「もう帰ってくんな」と怒られた。


 もう地元には帰れなくなったようだ。





――――――――――――


上京初日――

 

 

 地元の四国から8時間程かけて東京にやってきた。

 

 田舎出身の俺からすると都会の喧騒というやつに少し憧れていたところがあったんだが、実際に来てみるとうるさいし人が多いしで気が滅入りそうになる。

 

 しかし同時に謎の高揚感に包まれる感覚も覚えていた。いつもの日常から抜け出す出来事が起こったり、謎の美少女が突然ぶつかってきたりを期待せずにはいられない。

 

 そういえばラノベ博士(自称)の友人が「知らない美少女に話しかけられたらそれは異世界転生のフラグですぞw」とかアホなことを話していたな。

  ……どなたか私を異世界に連れて行ってくれる美少女はいませんか~?

 

 そんなことを考えながら東京メトロに乗り中野方面を目指していると、アホなことが現実に起こった。


「あの…」


 振り返ると可愛いポニーテールの少女が恥ずかしそうに何かを伝えようとしている。

 こ、これは…。まさか…。

 俺は今出せる最高のイケボで微笑みながら話しかける。


「どうしました?」

「…………ここ、女性専用車両です」

「………」


 危うく異世界(駅事務室)に連れていかれるところだったぜ。ピンクのステッカーだけじゃ女性専用車両って気づきにくいんだよ…。

 俺は女性に謝りながら逃げるように電車を出た。


 


 そんなこんなでこれから住むことになるアパートにたどり着いた。


「ここが今日からお前さんが住むことになるアパートだよ」


 親父の知り合いでアパートを経営している馬場(ばば)さんが目の前の古びた木造建築を指差す。

 2階建てになっているその建物は玄関、廊下、階段、南向きの部屋が一階ごとに4部屋という平凡的な構造をしており、特に変わったところはない。


 ――塗装の禿げた部分が目立ち、荒れている庭も相まってアパート全体に薄暗い雰囲気が漂っていること以外は。 

 

 入ってきた者を不幸にするような空気を感じる。なにこれ、逆パワースポット?

 

 まるで手入れがされていない庭を見ながら馬場さんに話しかける。


「綺麗なアパートですね」

「ほっほっほ、そうでしょう」


 お世辞です。

 馬場さんは60代後半の女性でこのアパートの管理人らしいのだが今は別のところに住んでいるらしい。


「あの、庭は誰が手入れをされているのですか?」

「昔はうちがしていたんだけど、そろそろ年できつくなってきてねえ。今はだれもやってないよ」


 大丈夫か、この家?

 少しずつ不安になってきたがもう後戻りはできない。時間がある時に自分で家周りを掃除しよう。


「さあ、中へ入ろうか」


 馬場さんに続いて俺もアパート内に足を踏み入れる。

 廊下を歩いていると壁に掛けられた掲示板らしきボードを見つけた。


『騒音苦情2件。部屋の音は隣に響きます。うるさいのは心に余裕がない証拠』

『自転車が雑に置かれています。整理整頓できない人は一生独り身でしょう』

『夜、ベッド、ギシギシ音。ダメ、絶対』


 少し挑発的な警告文が目立つな。ってか最後のは個人の妬みが入ってないか…。

 ここの住人とはあまり関わらない方がよさそうだ。 


 馬場さんと一階や二階を一通り見て終わると、一階の端の部屋から女性が出てきた。

 …いや、女性というには言葉が足りない。あれは天使だ。肩まで伸びた明るい茶髪のボブヘアーに少しあどけなさが残る顔立ち、モデルのようなスタイル。そして何よりも主張の激しいむn


「あっ!馬場さん、こんにちは!」


 元気よく挨拶をした天使は、向日葵のような優しい笑顔をこちらに向ける。

 一瞬、天からお迎えが来たのかと思ったがどうやら俺はまだ生きているらしい。


「こんにちは雛菊(ひなぎく)さん。今からお出かけかね?」

「はいっ!今日からレッスンが始まるので大学の方に…」


 そう言いかけた彼女は俺の存在に気が付くと、突然そわそわしながら話しかけてきた。


「あ、あの!新入生の方ですか!?」

「え、あ、はい」


 突然話しかけられたせいで、コミュ障の三大返答である「え、あ、はい」を繰り出してしまった…。

 一日で知らない美少女から話しかけられる数、2人目(←記録更新中)


「私も今年から大学生でここに住むことになるんですよ!新入生の人が私以外にもいてよかった~」


 ここというのは俺が住むことになるアパートのことだろう。学生寮だと考えていたのでてっきり女子はいないもんだと思っていた。

 親父、グッジョブ!


 馬場さんを紹介してくれた親父に感謝しながら、彼女とどうやって仲良くなれるかを必死に考える。

 まず第一印象が重要だ。もう失敗している気もするがここから挽回するんだ。見た目はもう変えられないので彼女との会話で距離を縮めるしかない。そうだな…まずは自己紹介か。彼女は快活な気質を感じるから俺も元気よくハキハキと話した方がいいな。よし、いくぞ!


 美少女に会ったことで活性化された俺の脳は実質3秒で彼女との完璧なコミュニケーションの取り方を考えだした。

 

「こんにち―「あっごめんなさい!もうレッスンの時間だ。行ってきます!」


 俺が言い終わる前に彼女は忙しない様子で走り去ってしまった。

 …ま、まあ同じアパートだしチャンスはいくらでもあるか。


 自分が住むことになるアパートに美少女が住んでいることの喜びと興奮を抑えつつ、俺は自分の部屋となる場所に足を進めた。



「可愛い女の子と出会えて、これからが楽しみだぜ」


 小声でそう呟くと馬場さんが照れるようにチラチラとこちらを見てきた。

 はっはっは。冗談がお好きな淑女(レディ)だ。

 


 

 

素人なので誤字脱字は教えてくださるとありがたいです。

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