出陣
すごろく。それは所謂運ゲーと呼べる先の戦況が見えない遊技。
すごろく。それはサイコロを回して止まった場所の決まりに従って進んだり、後退したりするゲーム。
すごろくは昔ながらの娯楽かつ賭博の対象。
今の時代、賭博として用いるにはかなり古すぎる、それに賭博に関して言えば、競馬、麻雀、カジノ、トランプなど、様々なゲームが主流である。
だから、すごろくは小さい子供から大人までもが楽しめるものになったのだ。
最近ではゲーム機のアプリとして配信もされている、しかも、現代の技術を駆使しているためより迫力のあるものに仕上がっている。
さらに今、科学を超えてしまい、世界を創造してしまったすごろく。
その世界で暮らす人々の人数はおよそ三千万人、その内、異世界から転送されたのは一名。
彼はその世界で数少ない「プレーヤー」という職に就いている。
その名のとおり、彼は各地点にある転送の遺跡にて難解なミッションに挑まなければいけない。それも間違えれば二度と戻ることのできない異空間へと転送される。
プレーヤーの中にはその奈落に落ち、帰らぬ人となってしまったという事例が少なくない。
だから、プレーヤーになる者はかなりのもの好きだ。
しかし、彼は違う。彼は元の空間に戻る手がかりを探しているだけ。
元の世界の未練を晴らすまでは死ねない、そんな強い信念を持った元高校生。
彼はこの世界に来て約二年。生き方にも慣れてきた頃だ。
マスの数で言えば百八十マス進んだ。あまりにも年月が掛かり過ぎている。
そして、ゴールまでは残り八百二十マス。この世界のマスの合計は千マス。
あと、何年かかるのかは分からない。だが、進まなければ何も分からない。
だから、彼は何が起きても進もうと試みる。
その彼、橘岳人はサントス村の北にある転送の遺跡の前に立っていた。
一カ月過ごしたこの村とは最後のお別れ。二度と来ることはない。
村で知り合ったやつにはお別れの挨拶をして回り、今この場にいる。
今日も落ちるか落ちないかは分からない。いつもギリギリの試合。
お題が全て、お題をクリアできないならばそこでさようなら。
岳人は緊張感のあまり手に持っていた竹製の水筒を手汗によって滑り落としてしまう。
「いつもこんな感じだよな……」
弱気発言はいつものこと、正直、実力はそこらの者とは違う。そんな彼がなぜ、ここまでビビる必要があるのかは常人には理解できないのである。ギリギリの試合といっても岳人自身余力を残している。その余力があるにも関わらずこの様だ。
「とりあえず、入りますかー」
岳人は一歩一歩ゆっくりと歩きだす。緊張で震えが止まらない、それどころか入り口に差し掛かる頃には周りから見ても一目でわかるくらいに震えている。
「君、大丈夫かい?汗が凄いけど……」
「は、はい!だ、だい、大丈夫です!」
「そうかい、試練頑張れよ」
「は、はい!頑張りたいと思います!」
背後から突然話しかけてきたオジサンは背が岳人より大きく体格もかなりのものだった。ハットを深くかぶっていたため顔はよくわからなかったがおそらく五十代。髭がキレイに整えられていた彼はさわやかな笑顔を向けて試練をもらう部屋に向かった。
「あの人もプレーヤーなのか、やっぱ若い奴だけではないんだな」
「そうだぜ、あの人みたいに放浪するおっさん共は珍しくない。俺らみたいな若い奴とは風格が違う」
と、岳人に話しかけてきたのは金髪の少年。年齢は岳人と同じくらいだろうか、服装から察するに長い間旅に出ていると推測できる。ボロボロになっている下駄がそれを証明してくれている。端正な顔立ちの彼は目の上に切り傷の跡がある。今までの戦闘が厳しかったのだと物語っている。
「俺の名前はサガル。ここから百マス前の村出身の十九歳だ。よろしくな!」
「僕の名前は岳人、ゼロマスの始まりの町ゴータウンから旅を続けています。よろしくお願いします。あ、あと、年齢は十六です」
「へー、俺より若いのか。それも始まりの町と言ったら百八十マス前‼スゲーな!」
「いやいや、とんでもないですよ。それよりサガルさんはなぜ旅を?」
「俺の名前は呼び捨てにしてくれてかまわないぜ、俺も呼び捨てにするけどな!」
「ええ、わかったよ。サガル」
「おいおい、口調まで変えていいとは言ってないんだけどよ?ま、いいけどな」
岳人は慌てたように言い直した。
「す、すみません。つい、僕も目上の人にはタメ口とか聞けない方なのでやっぱさん付けで」
「あー、別にタメでも良かったんだがな。そういうなら、そうしてもらおう」
サガルは岳人の申し出に快く承諾してくれた。岳人にとっては少しありがたい話だった。
二人は互いのことや今までのことについて話していた。試練のことを忘れていそうなくらい話に熱中していたが思い出したのか途中で切り上げた。
「じゃ、俺は課題を受けに行くよ。どこかでまた会おうな!」
「はい。さようなら!サガルさん」
二人は軽いあいさつを交わしてその場で別れた。
岳人もそろそろ課題を受けに行こうとする、気が付いたら朝の十一時を回っていた。
「やばっ!急がないと!」
岳人は空いていた課題の間へと入室した。周りからの干渉を防ぐためにドアを閉めて二重ロックをかける。そして、備え付けの一人掛けのソファに腰を掛けた。
座った前には画面が設置されている。その画面に向かって岳人はいつもの打ち込みを行う。
「入力コード、GAKUTO。シークレットナンバー226。ready!」
その、刹那。画面が白く光り岳人の体を包み込んでいく。
これから行われるのはある意味デスゲーム。生きるか死ぬかを決める戦い。
個室に閉じ込められた勇者はさらにその奥へと誘われた。




