8話
ひと寝入りすると、もう昼になっていた。
太陽が真上に昇っていて、少しだけ眩しい。
喉が渇いたので、お皿の水をひとくち、ふたくちと飲む。陽の下で寝ていたこともあり、ほどよく体が温まっている。ちょっと散歩をしたい気分だ。ためしに、家の中にいるママさんに声をかけてみる。
……わん、わんっ!
だけど、返事はない。
きっとママさんも昼寝をしているのだろう。こんなにいい天気なのに、昼寝をしない動物はいないはずだ。ぼくは散歩をすることを諦めて、遠くの景色に目を移した。西の方角に古びた鉄塔が見えた。そのてっぺんをじっと見ていると、だんだんと瞼が重くなってくる。
ふぁ~、なんだが眠くなってきたよ。
――◇――◇――◇――◇――◇――
榮倉家の家族になって二年が経った。
その間に、ぼくはいろんな人と知り合うことができた。
隣の家のおばさん。新聞配達のおじさん。宅配便のお兄さん。いろんな人と関わって、ぼくの交友関係はどんどん広がっていく。
もちろん、それは。
人だけとは限らない。
「よう、タロ公。会いに来てやったぜ」
うとうとと眠気に誘われていると、枯れたダミ声が聞こえてきた。ぼくは頭を上げると、あくびを堪えながら彼のほうを見た。
そこにいたのは、とても大きな犬だった。
彼の体は、ぼくの倍近くあった。灰色の毛に白い斑点がいくつもあって、鍛えられた筋肉が無骨な曲線を描いている。そして、いつも体のどこかに、喧嘩をしたような生傷を持っていた。