6話
「ふわぁ~、三太。今日も早いね~」
家の玄関が開いて、眠そうな声が聞こえてきた。
大きなあくびをしながら、稽古をしている三太兄ちゃんに話しかける。珍しい。健二兄ちゃんだった。
健二兄ちゃんは、兄弟のなかの次男坊で、今年で十七歳になるといっていた。
のんびり屋さんのマイペースで、いつもぼぉーとしている。空を見上げたまま何もしないなんて光景も、よく見るくらいだ。
「うん、試合が近いんだ」
「そういえば、レギュラーになれるんだっけ?」
「まぁね。大将じゃないけど」
「試合に出られれば、それだけでも凄いことだよ」
そういって、健二兄ちゃんはぼくのほうへ向いた。
何か用かな、と尻尾を振っていると、兄ちゃんの手に持っているものに目が引きつけられた。
「ほら、タロ。ごはんだよ」
「わんっ!」
……朝ごはんだ、とぼくは大きな声で叫んだ。
「はいはい。お座りは?」
「わんっ!」
もちろんだよ!
ぼくは兄ちゃんにいわれるよりも早く、お座りをしていた。
「お手」
「わんっ」
右足を出す。
「おかわり」
「わんっ」
左足をちょっとだけゆっくりだ。
「伏せろ」
「……わふ~」
ぼくは尻尾をぶんぶんと振り回しながら、最近覚えたばかりの『伏せ』を披露してみせる。どうだい、健二兄ちゃん。ごはんのために、ぼくは完璧な伏せをできるようになったんだよ。
「うん、食べていいよ」
「……わふふ~」
ぼくはお皿に盛られたご飯に飛びついた。がつがつと口のなかにいれては、よく噛んで飲み込んでいく。うん、今日もごはんがおいしい!
「あらら、いい食べっぷりだね」
見上げてみると、健二兄ちゃんが優しそうな顔をしていた。その陽だまりのような笑顔が、ぼくは大好きだった。兄ちゃんと一緒に日向ぼっこができたら、どんなに幸せだろう。